民事事件

2019年3月15日 (金)

無期雇用契約から有期雇用契約への変更や、不更新条項は同意してしまったらそれまでか?

1.無期雇用契約から有期雇用契約への同意の効力が争われた事案が公刊物に掲載されていました(熊本地判平30.2.20労判1193-52 社会福祉法人佳徳会事件)。

  この事件では、無期の正職員としての就業の開始後に、契約期間を2年間と明示している労働条件通知書・確認書に署名・押印したことの効力が争点の一つとなっていました。

2.個別合意による賃金や退職金に関する労働条件の変更に関しては

「当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても…直ちに労働者の同意があったとみるのは相当でなく、…同意の有無については当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断される」

 との判断枠組みが示されています(最二小判平28.2.19民集70-2-123 山梨県民信用組合事件)

  これは、外形的に同意があったとしても、それが自由な意思に基づいてなされたと認められるだけの合理性が客観的に担保されていなければ、同意の効力が否定される場合があるという意味です。このルールは、専門家の間では「自由意思による同意の法理」と言われることもあります。

3.熊本地裁の判決は、無期労働者と有期労働者との間には

「契約の安定性に大きな相違がある」

ことなどから、有期か無期かは

「賃金及び退職金等と同様に重要な事項であるといえる」と判示しました。

  そのうえで、上記最高裁の枠組みと同様の判断基準に従うことを示し、

「期間の定めのある雇用形態に変更した理由について、…労働者の雇用形態を配慮した変更とは考えられないこと」

「雇用形態を変更することについての不利益を原告に十分行ったと認められないこと」

「本件労働条件通知書に署名・押印しなければ解雇されると思ったためこれに署名したとする原告の供述も合理的であること」

を指摘し、

「原告が本件労働条件通知書に署名した行為は、原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない。したがって、原告と被告との雇用契約を期間の定めのある雇用契約へと変更することに原告の合意があったとは認められない。」

と判示しました。

  自由意思による同意の法理が適用される場面は限られていますが、熊本地裁の判決は、無期雇用契約から有期雇用契約に変更する場面においても、同法理の適用を認めた点に意義があります。

4.この判例は、他の紛争類型でも活用できる可能性を持っています。

  例えば、以前、このブログで、

 「女性が20年働いた職場を雇止めされたケースでした。大手企業だから早くに対応も始めていて、法改正時の今から5年前、2013年の契約更新時の新しい契約書に『4月以降の通算契約期間は5年を超えないものとする』と今までなかった文言を追加したそうです。会社側は、当然のように『法律が変わって、5年を超えて更新できなくなった』と説明をして、『ここでやめるか、ハンコを押すかの二択だ』と言ったらしいです」

 との事例をもとに、有期雇用の無期転換ルールを批判する社会保険労務士の記事を紹介させて頂いたことがあります。

 https://www.mag2.com/p/news/375000

http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-6d73.html

 20年も有期労働契約を反復更新していれば、それは期間の定めのない労働契約と同視できるはずだという議論は十分に成り立つのではないかと思います。

 この場面で不更新条項付きの有期雇用契約書に署名・押印してしまったとしても、今回の熊本地裁の判決を引用すれば、「自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない」として不更新条項への同意の効力を否定することができるかも知れません。

  今後、同種の判例が積み重ねられるかまでは不分明ですが、熊本地裁の判決により、無期雇用契約(実質的なものも含む)を有期雇用契約に切り替えられ、その後、契約が更新されることなく雇い止めをされてしまったという場合でも、地位の回復を図ることができる可能性が、より開かれることになったのではないかと思います。

 お悩みの方は、ぜひ、一度ご相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

2019年3月 7日 (木)

ハラスメントに対し、適切な対応を求める権利

1.近時、従業員による知的障害者に対する暴言等と使用者責任の有無等をテーマとする裁判例が公刊物に掲載されました。

  生鮮食品・一般食品・家庭用品・衣料品等を販売するスーパーマーケットのベーカリー部門で働いていた知的障害者の原告が、同僚の従業員から「幼稚園児以下」「馬鹿でもできる。」といった趣旨の暴言を浴びせられていたことなどを理由に当該従業員及び勤務先会社に対して損害賠償を請求した事案です(東京地裁平29.11.30労判1192-67)。

  この事案で、裁判所がハラスメントが起きた場合の事後対応について、目を引く判示をしていました。

  具体的には、

 「事業主は、障害者に限らず被用者が職場において他の従業員等から暴行・暴言を受けている疑いのある状況が存在する場合、雇用契約に基づいて、事実関係を調査し適正に対処をする義務を負うべきであるが、どのように事実関係を調査しどのように対処すべきかは、各企業の置かれている人的、物的設備の現状等により異なり得るから、そのような状況を踏まえて各企業において判断すべきものである。そうすると、企業は、その人的、物的設備の現状等を踏まえた事実関係の調査及び対処を合理的範囲で行う安全配慮義務を負うというべきである。」

 という判示です。

  本件では、

 「店長としては、被告丙川及び他のベーカリー部門の従業員1名に対して事実関係を確認し、原告と他人を比べるような発言をしてはいけない旨注意をしている」こと、

 「被告丙川に注意をした上でそれでも事態が変わらない場合は、原告の配置転換やベーカリー部門の業務を切り分けるなどの対応を検討」していたこと

 などをしたうえ、結論として勤務先会社の事後対応義務違反を否定しています。

  しかし、ハラスメントの疑義に対し、事実関係を調査し、適正に対処する義務の存在を正面から認めたことは画期的だと思います。

2.裁判には立証責任というルールがあります。これは、ある事実が存在するのかしないのかが良く分からない場合、その事実をないものと同じように取り扱ってしまうというルールをいいます。ハラスメントの有無を争点とする裁判では、損害賠償を請求する側がハラスメントの事実を立証しなければならず、水掛け論になって真偽不明という状態に陥れば、ハラスメントはなかったものと同じように扱われます。

  事後対応義務は事実関係の調査義務を含むものです。ハラスメントの被害者としては、こうした義務を根拠に勤務先に調査を求めることにより、ハラスメントを受けたという痕跡を残しやすくなると思われます。また、今後の裁判例の集積をみなければ即断はできませんが、ハラスメントの事実自体が真偽不明で認定できない場合であっても、それが労働者側から申出があった適時の時期に必要な調査が行われていないことに起因する場合、そのこと自体によって一定の慰謝料を請求する根拠になる可能性を含んでいます。

3.セクハラに関しては、男女雇用機会均等法11条2項を受けた平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(最終改正:平成28年8月2日厚生労働省告示第314号)において、事業主は、

 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、

 職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと、

 などの措置を講じなければならないとされています。

  今回ご紹介した裁判例は、セクハラだけではなく、男女雇用機会均等法11条2項のような明示的な法的根拠のないパワハラの場合においても、適切な事後対応を求める根拠となるものです。

4.「パワハラはセクハラの場合とは異なって、他の部下の面前で叱責する例も多いことから、密室性の程度がより低い場合は多いものの、被害者の立証手段が供述に限られることも多く、結局、好意の存否、態様等にかかる事実認定が困難である場合が多い」(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務,第2版,平30〕278頁)事件類型の一つです。

時の経過とともに、記憶が薄れたり、関わり合いになりたくないという気持ちが大きくなったりして、周辺第三者の供述は得られにくくなることは珍しくありません。被害直後に適切な事後調査が行われるようになることは、企業側に深刻な事態に至る前の段階での適切な対応を促したり、この種の事案における真相の解明を容易にしたりする可能性を持っています。

5.都道府県労働局等が受け付けている総合労働相談窓口コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、平成18年度には2万2153件であったものが平成28年には7万0917件と3倍以上に増え、その後も増加傾向にあります。

https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/

 直ちに損害賠償請求訴訟を提起することまでは考えていない場合でも、勤務先への事後対応の申し入れなど、弁護士が関与できる余地はそれなりにあるかと思います。

 お悩みの方は、ぜひ、一度ご相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2019年3月 4日 (月)

芸能人の方が不当な働き方を強いられていた事件

1.近時、女性歌手の方からの相談を受けました。

  アプリケーションを通じてインターネット配信されている動画番組への出演契約を違約金なしで取り消すことができないかとのことでした。

  契約書を見てみると、

 「報酬金額:番組に関しての金銭報酬は発生しないものとする。」

 「出演依頼者の自由意思による契約であり、出演者は強制的に依頼書提出するものではない旨を確認する。」

 「連絡が取れなくなったり、出演不可となった場合は無催告解除となり直ちに製作費の損害を請求致します。」

 「出演依頼に対するメール・LINEへの返信がない場合(日程含む内容)に関して適時に連絡のない場合、協議の上、製作費の損害を請求致します。」

 「原則24時間以内の返信とします。連絡できない理由がある場合は、速やかに甲(番組制作側 括弧内筆者)への通知を要し、後日証明書類を提示しなければなりません。」

 「番組内で酩酊状態になったとしても、一切の責任は乙(出演者 括弧内筆者)とします。」

 などの文言が並んでいました。

  かみ砕いて言うと、要するに、

タダ働きをしてください、

 ただし、タダ働きを嫌だと言い出せば、番組制作費を払ってもらいます、

 当方からの連絡に対しては24時間以内に返信してください、

 返信がなければ、やはり番組制作費を払ってもらいます、

 番組では酒を飲ませますが、どれだけ酔っても自己責任です、

 あと、この契約は、あくまでも、出演者の自由意思によるという設定になっているので、そこのところ了解しておいてください、

 というものです。

ブラック企業と呼ばれるような会社でも、ここまで無茶な条件を並べて働かせているところは少ないのではないかと思います。

2.自由意思による契約だということを明記している契約書は、街弁をやっていると、それなりに目にすることがあります。消費者被害を生じさせているような会社が挿入していることの多い条項です。弁護士的な発想で言えば、このような条項を入れなければならないこと自体、公正さに欠ける契約であることを自認しているに等しいと思うのですが、問題のある契約を押し付ける側はそうは思わないようです。

  こういう胡散臭い条項から予想されるとおり、番組内容は酷いものだったようです。

  「(芸能界の)先輩やぞ。」などと言いながら飲酒を強要し、性交渉を最初にした時の状況などの性的な質問を執拗に繰り返されたとのことでした。

3.女性歌手の方が、なぜ、このような無茶な契約書を取り交わしたのかと言うと、著名企業が番組のスポンサーをしていて、宣伝になると思ったからです。

  番組はインターネットを通じて生動画で流される形式でした。番組紹介のページに著名企業の名前が掲げられていたほか、契約前に当該企業がスポンサーであると伝えられていました。

  しかし、番組の規模や内容から疑問を持った女性歌手が問い合わせたところ、当該著名企業が問題の番組のスポンサーになっている事実はないことが明らかになりました。

  端的に言ってしまえば、女性歌手の方は騙されていたのです。

4.女性歌手の方は、錯誤に陥らされて契約を結んだものであり、問題の契約は無効であると解されます。実際、スポンサーの件を問い質して交渉したところ、裁判にもならずに番組側は契約が無効であることを認めました。もちろん、違約金を請求されることもありませんでした。

5.芸能関係の方は、フリーランス・個人事業主の立場で仕事をしている人も珍しくありません。

  労働者であれば、労働基準法、労働契約法をはじめとする労働関係の法令によって保護されます。個人事業主の形式をとっていても実質的には労働者と理解されるような働き方をしている方に関しても、労働者性を争うことによって救済を図ることができます。

しかし、名実ともに雇用関係によらず、フリーランス・個人事業主として働く方を守ることは、それほど簡単ではありません。どれだけパワーバランスがとれていなかったとしても、事業者間の契約である以上、基本的には契約自由・自己責任の問題として片付けられてしまうからです。

昨年2月、公正取引委員会が「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表し、フリーランス・個人事業主を保護する方策として独占禁止法が注目されています。

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.html

しかし、独占禁止法を使って契約の私法的効力を否定することは、現実問題として考えると、非常にハードルが高いです。本件でも、本当に当該著名企業が番組のスポンサーであったとするならば、契約の効力を否定できたかは微妙なところだと思います。そう考えると、やはり、不当な契約、不合理な契約は結ばないに越したことはありません。

変な契約を結ばないことは、それほど難しいことではありません。一拍置いて弁護士に契約書をチェックしてもらえば良いのです。その場で契約書への署名・押印を迫るような相手とは契約を結ばなければ良いのです。

弁護士は色々な事案に触れて公平な契約がどういうものなのかを知っているため、変な契約は一読すれば分かります。安心して働くため、フリーランスや個人事業主の方こそ、気軽に相談できる弁護士を確保しておくことをお勧めします。

(弁護士 師子角 允彬)

2019年2月10日 (日)

固定残業代の有効性が否定された例

1.固定残業代とは、残業代(割増賃金)を予め基本給に組み込んだり、定額の手当として残業代を支払ったりする仕組みをいいます。

  固定残業代が有効であるためには、

通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要…(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,最高裁平成27年(受)第1998号同29年2月28日第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁参照)」

とされています。

また、固定残業代を導入したとしても、使用者は、

「割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,・・・その差額を労働者に支払う義務」を負います(以上、最二小判平29.7.7労判1168-49等参照)。

2.使用者には「労働時間を適切に管理する責務」があります(平成13.4.6基発第399号「労働時間の適正な把握のため使用者が講ずべき措置に関する基準」参照)。この義務は固定残業代を導入したところで免れることはできません。そのことは、上記基準が、

① 「本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定の全部又は一部が適用される全ての事業場とする」と明記していること

 ② 「時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認」を求めていること

 からも明らかです。

このことは、固定残業代を導入することが、企業側から見て経済合理性がないことを意味します。

  個々の労働時間を把握する責務から解放されるわけではありませんし、定額残業代を上回る時間外勤務手当が発生していないかを確認するため法所定の方式に従って時間外勤務手当を計算する作業を免れるわけでもないからです。

  そして、実際の時間外勤務手当が定額残業代を下回っている場合には本来払わないで良い残業代を支払うことになりますし、実際の時間外勤務手当が定額残業代を上回っている場合にはその差額を労働者に支払わなければなりません。

  法の趣旨をきちんと順守すれば、理論上、定額残業代を導入した場合の企業の人件費総額は、導入以前よりも常に高くなることになります。

3.ところが、現実には、固定残業代を導入している・導入したがっている企業は相当数に及びます。

  このことは法の趣旨を曲解した適法性に疑義のある運用がなされている例が蔓延しているからではないかと思います。実際、固定残業代の適否を巡る紛争は頻発していて、しばしば判例集にも掲載されています。

  近時、判例集に掲載された東京高裁平30.10.4労判1190-5イクヌーザ事件もその一つです。

  この事案では、月80時間分の固定残業代を基本給に組み込んでいたことの有効性が問題になりました。この事案では基本給23万円のうち、8万8000円が月間80時間の時間外勤務に対する割増賃金とする旨が記載された雇用契約書が取り交わされていました。

  裁判所は、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準に言及したうえ、

 「1か月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり,このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して,基本給のうちの一定額をその対価として定めることは,労働者の健康を損なう危険のあるものであって,大きな問題があるといわざるを得ない。そうすると,実際には,長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき,通常は,基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。」

 との規範を示し、

 「本件固定残業代の定めは,労働者の健康を損なう危険のあるものであり,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当」

 であると判示しました。

  その後、裁判所は基本給の全部を時間外、深夜割増賃金算定の基礎となる賃金額としたうえで時間外勤務手当の額を計算し、使用者側に200万円を超える時間外・深夜割増賃金額と100万円を超える付加金の支払いを命じる判決を言い渡しました。

4.最初に述べたとおり、法の趣旨に従って運用する限り、固定残業代は本来経済合理性に乏しい仕組みです。求人広告で基本給を高く見せかけるだとか、過大な時間数を設定して定額働かせ放題の仕組みとして運用するだとか、法が想定していないような趣旨で導入されている例は、相当数眠っているのではないかと思います。

  固定残業代の名のもとに不当な扱いを受けているのではないかとお感じの方がおられましたら、ぜひ、一度ご相談においでください。その疑問には十分な理由がある可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

2019年1月 6日 (日)

5年無期転換ルールは人手不足のご時世に5年で人を辞めさせざるを得ないおかしな悪法か?

1.労働契約法18条1項は、有期労働契約が更新されて5年をこえたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるとするルールを定めています(以下「無期転換ルール」といいます)。

  無期転換ルールに対しては「人手不足のご時世に5年で人を辞めさせざるを得ないおかしな悪法」として揶揄する見解もみられます

https://www.mag2.com/p/news/375000)。

 記事は、無期転換権の発生を阻止するため、有期労働契約の更新をしない企業があることを念頭に、

「企業も辞めさせたくないのに働きたい人を辞めさせないといけない、人手不足の時代にアンマッチングが起こる、ヘンで理不尽な法改正」

と無期転換ルールを批判しています。

  しかし、問題視されるべきなのは、無期転換ルールの適用を免れるために有期労働契約の更新をしない企業側の姿勢なのであって、議会や政府、無期転換ルールを批判するのは筋違いであると思われます。

2.そもそも、無期転換ルールは「辞めさせたくないのに働きたい人を辞めさせないといけない」法律ではありません。

  企業としては、辞めさせたくないのであれば、無期雇用にするなり、無期転換権が発生することを前提に有期労働契約を更新することが可能だからです。

  5年以上も必要性が認められ続けている類の業務であれば、すぐにすぐ仕事がなくなるということも考えづらく、担当者を無期雇用にしたところで、それほどの実害があるとは思われません。

また、本邦では整理解雇がそれ自体違法とされているわけでもありません。一定の要件さえ充足すれば、仕事がなくなった時に余剰人員を整理解雇することも可能です。無期雇用になったところで、本当に不必要な人員が生じてしまったときは、企業は整理解雇の要件にきちんと従って解雇できるのです。

3.記事は、

「長く働きたい人が辞めざるを得なくなる法律っておかしい」

ということを言うために、

「女性が20年働いた職場を雇止めされたケースでした。大手企業だから早くに対応も始めていて、法改正時の今から5年前、2013年の契約更新時の新しい契約書に『4月以降の通算契約期間は5年を超えないものとする』と今までなかった文言を追加したそうです。会社側は、当然のように『法律が変わって、5年を超えて更新できなくなった』と説明をして、『ここでやめるか、ハンコを押すかの二択だ』と言ったらしいです」

 との事例を引用し、

「大手企業としては、そういわざるを得ないんでしょうね。理想の方法とは違うけど、あながちやり方が間違いとも言えないし…」

 と無期転換ルールを批判しています。

4.しかし、これは明らかに間違ったやり方です。

  法は雇止め(有期労働契約の不更新)だからといって全く自由に行えるという建付けにはなっていません。

 ① 有期労働契約が過去に反復して更新され、期間の定めのない労働契約と社会通念上同視することが可能な場合、

 や、

 ② 契約更新への期待に合理的な理由がある場合、

 には、雇止めにあたって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要とされています(労働契約法19条参照)。

  20年も有期労働契約を反復して稼働しているというケースである場合、①、②いずれの観点からみても、雇止めを行うにあたっては、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要になります。

「法律が変わって、5年を超えて更新できなくなった」というのは無期転換ルールの説明として明らかに誤っています。

更新はできるけれども、無期転換ルールが適用されるというのが正確な説明になります。法の内容を誤解させて意思決定を迫るような手法は明らかに間違っています。

5.では、無期転換ルールの適用を避けたいからだと正直に説明しさえすれば、契約不更新が認められるかといえば、それも法の趣旨に照らすと疑義があります。

  厚生労働省は、無期転換ルールについて

 「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、 こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものであること。」

 との解釈を示しています(基発0810第2号 平成24年8月10日 厚生労働省労働基準局長「労働契約法の施行について」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/141128d.pdf 参照)。

  また、平成27年8月7日には厚生労働省大臣官房地方課長・厚生労働省労働基準局長・厚生労働省職業安定局長名で「労働契約法の『無期転換ルール』の定着について」という通知が出されています。

  ここでは参議院厚生労働委員会の附帯決議を指摘したうえ、

「政府は『無期転換ルールの本格的な適用開始に向けて、労働者及び事業主双方への周知、相談体制の整備等に万全を期すとともに、無期転換申込権発生を回避するための雇止めを防止するため、実効性ある対応策を講ずること』を求められている」

との認識が示されています。

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2180&dataType=1&pageNo=1

 無期転換申込権発生を回避するための雇止めは防止されるべきものだとするのが議会の意思ですし、行政解釈でもあります。

  法の趣旨を普通に理解すれば、無期転換ルールを免れることを目的とした雇止めに客観的な合理性や社会通念上の相当性が認められる可能性は著しく低いだろうと思われます。

6.社会保険労務士の方がどのような対応をとるのかは不分明ですが、所掲のような事案に直面した場合、企業側の弁護士であれば、少なくとも法の趣旨について誤った説明を行うことは間違いだと言うでしょうし、20年働き続けた女性側から相談を受けた弁護士であれば、雇止めの理由が無期転換ルールを免れることだけにある場合、そんなことでは首にならない可能性が高いと励ますところだと思います。

  立法の経緯や趣旨を正確に説明せず、所掲のような不更新条項付きの契約書の取り交わしを迫ることに対しては、理想の方法とは違うし、やり方としても間違っていると言うのが法専門家としての一般的な見解だと思います。

  所掲のような事態が法的に問題ないものだとの誤解が招かれないよう、本記事を執筆しました。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2018年12月26日 (水)

マタハラによる慰謝料

1.男女雇用機会均等法は、妊娠・出産を理由とする女性労働者に対する解雇その他不利益な取り扱いを禁止しています(男女雇用機会均等法9条3項、同施行規則2条の2)。また、育児・介護休業法10条は、労働者が育児休業の申出をしたり、育児休業をしたりしたことを理由とする解雇その他不利益な取り扱いを禁止しています。

  しかし、妊娠、出産を機会に仕事を辞める方は珍しくありません。第一生命経済研究所の試算によると、出産を機に仕事を辞める女性正社員やパート・派遣労働者は年間で20万人にのぼるといいます。

https://www.fnn.jp/posts/00344160HDK

 その中には法の趣旨に反する形で退職を余儀なくされた方も、多数含まれているのではないかと思います。

2.近時、女性歯科衛生士に対する産休後退職扱いの有効性が問題になった事案が公刊物で公表されました(東京地判平29.12.22労判1188-56)。

  これは、女性に退職の意思もそれを表示する言動もなかったにもかかわらず、不快感を抱いた理事長が、出産後の女性を強引に退職扱いにしてしまったという事件です。

退職扱いになった女性は、理事長や同僚職員に対し、「育児休業を取得した上、職場復帰する意思を表示」したり、被告や社会保険労務士事務所に「育児休業取得の手続を進めるための必要書類」を求めたりしていました。被告法人は随分と無理のあることをやったと思います。

  こうした扱いは当然違法であり、裁判所は女性からの地位確認請求、育児休業給付金相当額の損害賠償、慰謝料などの請求を認めました。

  その結論自体は普通の判断ですが、注目されるのはその慰謝料の高さです。

  裁判所は

「労働契約上の権利を有する地位及び賃金、育児休業取得その他の権利」

に対する侵害について、

「原告には労働契約上の権利を有する地位の確認、賃金及び育児休業給付金相当額等の損害賠償に関する請求が別途認容されても回復しえない重大な精神的損害が発生している」

として、200万円もの慰謝料を認めました。

  その理由として、裁判所は

「職そのものを直接的に奪っていること、原告には退職の意思表示とみられる余地のある言動はなかったこと、A理事長に故意又はこれに準じる著しい重大な過失が認められること、判決確定後も専ら使用者側の都合による被害拡大が見込まれること」

のほか

「いわゆるマタニティ・ハラスメントが社会問題となり、これを根絶すべき社会的要請も平成20年以降も年々高まっていること」

を指摘しています。

3.これだけ高額の慰謝料が認定される可能性があるとなると、嫌がらせをするような会社には戻りたくない・職場復帰(地位確認)までは望まないというケースであったとしても、訴訟提起することに相応の経済的な合理性があります。

  もし、理不尽な目に遭って悔しい思いをされている方がおられましたら、ぜひご相談にいらしてください。一人一人が声を上げることは、社会問題としてのマタニティ・ハラスメントの根絶にも繋がってゆくのではないかと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2018年12月24日 (月)

「明日から会社に行かない」は許されるか?(退職に当たっての予告期間の要否)

1.近時、退職代行を謳うサービスが流行しているようです。

https://www.j-cast.com/2018/07/21334344.html?p=all

記事によると「明日から会社に行かなくてOK!」なる売り文句が使われることもあるとのことですが、そのような煽情的な宣伝文句を一般化することに対しては、少し疑問を感じます。

2.退職に関するルールは民法で規定されています。

  期間の定めのない雇用契約に関していえば、いつでも解約の申入れをすることができます。この場合、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了します(民法627条1項)。

  解雇予告期間とされている2週間に関しては、就業規則や合意等で1か月程度までであれば延長することも可能とする見解と、片面的強行規定であって合意による予告期間の延長が労働者を拘束することがないとする見解と、大雑把に言って二通りの理解があるように思われます(野川忍『労働法』〔日本評論社,第1版,平30〕356頁等参照)。

  いずれにせよ、「明日から会社に行かなくてもOKか?」と聞かれた場合には、最低2週間、就業規則の体裁により1か月程度は引継ぎに従事する必要があるというのが法律家としての一般的な回答ではないかと思います。

3.ただ、明日から会社に行かなくても良くなる方法は絶対にないのかと言われれば、そうとも限りません。以下の二つの場合には、明日から会社に行かなくても良いという判断を下せるのではないかと思います。

  一つは有給休暇を利用できる場合です。

「解雇予定日をこえての時季変更は行えない」とした解釈例規(昭49.1.2基収5554号)に準拠し、退職予定日までの勤務日を有給休暇で埋めてしまえる場合です。

  もう一つは、多忙かつ長時間の深夜にも及ぶサービス残業を余儀なくされていたり、会社代表者が高圧的な態度で罵声を浴びせていたりするなど、予告期間中の勤務を要求することが妥当でない事由が認められる場合です。

  民法628条は「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。」と規定しています。期間の定めのない場合にも、この規定が適用されて、やむを得ない事由がある場合に即時退職できるかは、法文上定かではありません。しかし、「労働者は、期間の定めの有無を問わず、やむを得ない事由があるときは予告期間を設けることなく、直ちに労働契約を解除して退職することができる(民法628条)。この『やむを得ない事由』は当該労働関係に関する全ての事情を考慮して解除の前に予告期間を要求することが妥当でない事由を指すものと解される。」と判示したうえ、予告期間を置かない即時退職を認めた下級審裁判例があります(東京地判平30.3.9労経速2359-26)。

  著しいサービス残業を強いられていたり、パワーハラスメントを受けていたりする場合には、予告期間を置かない即時退職も適法になる余地があります。

  一般に退職代行を利用したくなるようなのは後者のような場合だと思われます。ただ、そもそも期間の定めがない雇用契約に民法628条が適用されるという理解が一般性を有するのかといった問題があるほか、予告期間を置かずに出勤しないことが適法となる「やむを得ない事由」があるといえるかどうかに関しては裁判例の集積がそれほど進んでいないため、個別の事案で予告期間を置く必要があるかどうかに関しては、弁護士でも判断が難しいと思います。

4.退職代行を謳う業者の中には、交渉を行うわけではないから弁護士法72条で禁止されている非弁行為には該当しないと主張するものもあるようです。

  しかし、きちんとした法的判断を伴わず退職の意思表示だけ取り次いで、勤務先から反論が寄せられた場合に交渉も行わないといったことをして、本当に大丈夫なのかと心配に思います。

損害賠償請求を受けることは実務上あまりないにせよ、無断欠勤を理由とする懲戒解雇や退職金不支給等の報復行為に及ばれることは考えられないわけではないからです。実際、データ消去や在庫持ち出しを伴う集団退職に関する特異な例ではあるものの、退職の意思表示から一斉に出社しなかった労働者に対する懲戒解雇・退職金不支給を肯定した裁判例もあります(東京地判平18.1.25労判912-63等)。また、退職金不支給の判断に対しては、当方から退職金請求訴訟を提起する労をとらなければどうにもなりません。

  個人的には、非弁行為に該当しないことについて、工夫や説明をしなければならないサービスを利用することは推奨していません。

  法律が絡むことには、法専門家である弁護士に相談・依頼するのが安全だと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

2018年12月18日 (火)

求人広告と話が違う(残業代との関係)

1.法は、労働契約の内容について、できる限り書面による確認をするものとしています(労働契約法4条2項)。また、使用者に対しては、労働者に対し、賃金、労働時間その他労働条件を書面で明示することを義務付けています(労働基準法15条、同法施行規則5条3項)。

  しかし、労働関係の法律相談をしていると、雇用契約書を作っていない、労働条件明示書面の交付も受けていないという方が結構おられます。

  法律関係を明確にする書面がないと、使用者と労働者との間での認識の齟齬が生じやすく、紛争が発生する危険も高まります。

2.近時、労働契約書も労働条件明示書面も作成されていなかった事案において、時間外勤務手当の請求の可否が問題となった事案が公刊物に掲載されました。東京地判平30.3.9労経速2359-26です。

  被告となった会社は、

 「月給25万円~40万円」

 「※ 年齢・経験・能力などを考慮の上、給与額を決定します。」

 「9:30~23:00(実働8時間/シフト制)」

 「4週6休」

 などという労働条件を公開して募集をかけました。

  原告2名はこれを見て応募し、被告会社に採用されました。原告らの賃金は、それぞれ40万円、34万円と定められました。

  通常、求人広告は申込の誘引と理解されており、そのまま労働条件になるわけではありません。応募者に対しては、求人広告とは別に、改めて労働条件明示書面が渡されることになっていて、労働条件になるのは、この労働条件明示書面や労働契約書に書かれていることです。

  しかし、この事案では、労働契約書も労働条件明示書面も作成されなかったことから、原告らは40万円、34万円というのを基本給だと考えました。

  これに対し、会社は40万円、34万円を、基本給、家族手当、技能手当、皆勤手当、定額残業手当、普通残業手当、深夜残業手当、休日勤務手当に区分して支給しました。

  こうした扱いに対し、原告らは40万円、34万円を基礎賃金として時間外勤務手当が支払われるべきだとして会社を訴えました。

結論から申し上げると、裁判所は、時間外勤務手当の基礎賃金を、それぞれ40万円、34万円を基礎に算定すべきと判示しました。残業代に当たる部分の存在、金額、計算方法を示すことなく、給与明細書を交付する段階で一方的に内訳を決定しても、そのようなことは認められないとしています。

3.俗にブラック企業と言われる遵法意識の希薄な会社には、法を無視しても、既成事実を積み重ねて行けば済し崩し的に何とかなるといった発想を持つ傾向があるように思われます。

  しかし、現実には何ともなりません。裁判所に事件が係属する事態になってしまうと、法を順守していない側が圧倒的に不利です。

  求人広告を見て応募・採用されたものの、労働条件について事前に書面で明示されることもなく、入社してから突然「あれは残業代込みでの給料だ。」などと言われて理不尽さをお感じになられている方がおられましたら、ぜひ、一度相談にいらしてください。

  残業代に関する事件は争点や検討対象が似通っていることが多く、原告となる方の数が増えても比例的に手間が増えるわけではありません。今回ご紹介させて頂いた裁判例の事案のように複数の方で同時にご依頼を頂けると、スケールメリットから一人あたりの着手金の負担を減らすこともできるかと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

2018年10月18日 (木)

面前虐待

あまり聞きなれない言葉ですが、児童相談所で「面前虐待」を理由に保護されるケースが増えていて、良くご相談を受けます。

 面前虐待とは、子どもの面前で父親と母親が大喧嘩をすることが子どもにとって精神的な虐待に当たるので、児童相談所に保護される理由になるというものです。

喧嘩をするほど仲が良いなどというのは昔の話のようです。もともと他人同士なのですから、意見が違うことは仕方がありませんが、相手の人格非難や、無理矢理自分の言うことを通そうとすると、激しい言い争いになり、それを子供の前で見せてしまうと、子どもが恐怖心を抱いたり、自分が悪かったのではないかと罪悪感を持ったり、怒号や、罵り合いがまた起こるのではないかというトラウマに捉われるということが分かって来ています。

たかが夫婦喧嘩だと大人は思うかも知れませんが、子どもにとって、目の前で大声で叫ばれる、母親が殴られる、包丁を片方が持ち出す、どれも大きな恐怖です。大喧嘩の果てに警察を呼んだりすると、警察が児童の面前虐待であるとして児童相談所に通報することになっています。

 そして度重なると児童相談所は、この環境に子供を置いておくことは出来ないと考えて児童施設に保護する手続きを開始します。

 その段階で相談に見える方は虐待という意識がありません。子供を虐めたわけではないのに相談所は訳も言わずに子供を連れて行った、と言います。

 弁護士は、子どもを返してくれない、会わせてもくれない、という不満をお聞きすることになります。確かに説明しない相談所もどうかと思うのですが、この場合、何が問題で、返してくれないのかを、しっかり把握することが大事であり、弁護士であれば、児童相談所に話を聞いてその理由をご説明することが可能です。

 一般的には、児童相談所は、子どもを安心して返せる環境があるかどうかを重視して考えています。夫婦のどちらが悪いとか、夫婦喧嘩の原因は何かというご両親の訴えを一応は聞きますが、それを判断したり裁定したりすることはいたしません。夫婦が今後、子どもの前でひどい喧嘩をしないと安心出来て初めて子どもを返すことを考える方向に向かいます。

 そのことを理解しないと、いつまでも子どもを返して貰えないことになります。こういうケースでは、弁護士が役に立つことがあると感じております。

(弁護士 神山 昌子)

2018年10月 3日 (水)

非弁行為を行うネット削除業者にご注意ください

 近年インターネットの誹謗中傷の被害が増えていますが、その一方でインターネットの投稿・記事の削除請求を代行する業者も存在しています。

 しかしながら、昨年2月に東京地方裁判所は、ネット削除業者の行った「削除代行」は弁護士以外に行うことが法律上禁じられている「非弁行為」に該当することから、依頼者との間の契約は無効となるとした上、ネット削除業者に対して依頼者に代金全額の返還を命ずる判決を下しました(平成29年2月20日東京地裁判決 判例タイムズ1451号237頁。なおこの判決は確定しています)。

 弁護士法72条では、弁護士でないものが報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うこと(非弁行為)を禁止しています。そしてこれに違反した場合には弁護士法77条3号により犯罪行為をしたものとして2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられることとなっています。

 法律上非弁行為が禁止されているのは、法律上の専門知識が担保されていない非資格者が法律問題を扱うことにより、不適切な処理がなされ関係者が被害を受ける危険があるとともに、紛争自体さらに複雑化をしてしまうことがあるからです。私が地方に赴任していた際に取り扱った事件でも、相談に来る前に弁護士資格を有さない者が法律紛争を取り扱ったために紛争が深化してしまっていたケースは多々ありました。そのような事態を防ぐため、法律は厳しい罰則をもって非弁行為を禁じているのです。

 上記裁判において被告のネット削除業者は、ネット記事などの削除代行はウェブサイトに対して情報を提供して削除を依頼するという単純かつ画一的な行為であり、専門的知識も不要であるから、法律事件に関する法律事務にはあたらないという主張をしていました。しかし裁判所は、削除依頼は投稿者の権利を行使することによって、ウェブサイト運営者の表現の自由と対立しながらも記事の削除を行い投稿者の権利を守るという効果をもたらすものであるとして、被告のネット削除業者の言い分を全面的に否定しました。

 この判決以降、ネット削除業者も表立って自ら削除を行うということを宣伝することは少なくなってきたように思われますが、中には専門家を紹介するなどといってみたり、専門家の名前を借りて削除を行うなどという業者もいますので注意が必要です。上記裁判の被告のネット削除業者も、依頼者に対して難易度の高いものはパートナーの行政書士において削除申請を行わせるなどといっていたようです(なお行政書士も報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことは禁じられております)。

 非弁行為を行うネット削除業者に対して依頼を行うことは自ら不利益を被る可能性があるばかりではなく、非弁行為という犯罪に加担することにもなりますので絶対にしてはなりません。ネット上の誹謗中傷の被害にあった場合には専門家である弁護士に直接相談して、説明を受けたうえ納得のいくやり方で依頼するのが良いでしょう。 

(弁護士 大窪 和久)

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