民事事件

2017年8月14日 (月)

絵画商法による消費者被害

 絵画商法とデート商法を併せたような被害に遭った方の救済に役立つ判決が得られました(東京地方裁判所 平成28年(レ)第742号 上告棄却により確定)。

 秋葉原で駅付近を歩いていたところ、チラシを持った女性から「良かったら絵を見に行きませんか。」などと声を掛けられた男性がいました。その方は、「時間がありません。」と断りましたが、女性は「あまり時間は取らせないから少しでも見ていきませんか。」などと勧誘を続けました。結局、男性は画廊の絵画展示場に案内され、数十万円もする高額な絵をローンで購入する契約を結びました。

 その後、男性は画廊から電話を受けるようになりました。「見てもらいたいものがあります。来られませんか。」「イベントに来て欲しいです。来られませんか。」などと画廊に呼び出されては、同じように数十万円する高額な絵をローンで購入していました。

 結局、ローンの支払ができなくなって、ご相談に来られました。

 本件のポイントは、訪問販売としてクーリングオフが認められるか否かです。

 裁判では、

① 男性が声をかけられた場所が本件店舗の入り口から5m程度しか離れていなかったとしても、訪問販売といえるための要件である「営業所等以外の場所において呼び止め」「営業所等に同行させた」といえるかどうか、

② 「みてもらいたいものがあります。来られませんか。」などの電話が、訪問販売といえるための要件である「電話…により当該売買契約…の締結について勧誘するためのものであることを告げずに営業所…への来訪を要請」したことにあたるのかどうか、

③ クーリングオフの期間を進行させるためには、法定の事項が記載された書面を交付しなければならないところ、「ジクレ(筆者註・コンピューターによる絵画の複製)」という記載で法律が記載を要求している「商品の…種類」を記載したといえるか、

といったことが争点になりました。

 裁判所は、①については「呼び止めた従業員等が顧客と一緒に移動した距離がたとえ数m程度にすぎない場合であっても、その営業所等まで向かわせる経緯が、顧客がその自由な意思によって当該営業所等に赴くか否かを決定することが阻害されるような客観的状況であった場合は、『同行させた』ものとみるのが相当である」として店舗付近の声掛けでも訪問販売としてのキャッチセールスにあたることを認めました。

 行政解釈では「通常の店舗販売業者が、店舗の前で行う『呼び込み』は、『同行させ』る行為が欠けて」おり、訪問販売には該当しないとされています。本判決は店舗から数mしか離れていない場所での呼び込みでも、一定の場合には訪問販売にあたり得ることを認めたものです。

 また、②についても、絵を販売することに触れられたり、明言されたりすることなく勧誘されたものであるから、これだけでは勧誘するためのものであることを告げたことにはならないと判示しました。ここでは、「新しい作品が入りました。ご紹介したい作品があるので、ぜひいらしてください。」と伝えていたとしても、結論は左右されないと述べています。来訪を要請するのは買わせるためだということはある程度予測できますが、それではだめだということです。

 ③についても裁判所は、「『ジクレ』との表記のみでは一般顧客において本件各絵画が元となる絵画の複製品であるということすら容易に理解できないといえるから、『商品の~種類』(法41項)の記載があるとも認められない。」と判示しました。

 ジクレとは絵画の複製技法を指す言葉で、元になる絵をコンピューターに取り込みそれをプリンタで印刷して複製する技法です。男性が購入したのは絵の複製物であるジクレでしたが、ジクレが何を意味するのかは男性自身も分かっていませんでした。

 「種類」の表記は行政解釈でも一般に普及していない表現(専門用語や学術名)では足りないとされていましたが、「ジクレ」という表記では種類を表示したことにはならないとの判断が出されました。

 ネット等をみると、秋葉原では本件と良く似たことが、かなり昔から行われているようです。

 不意打ち的に必要もない絵を買うことになってしまい、買ったことを後悔している方がおられましたら、ぜひ一度ご相談ください。時間が経っていたとしても、クーリングオフで契約をなかったことにできる可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

2017年5月11日 (木)

【裁判例の紹介】相続に関する弁護士の助言につき弁護士に説明義務違反があったとする事例

 当事務所では定期的に所内弁護士による勉強会を行っており、先日その勉強会の中で弁護士が説明義務違反とされた事件の裁判例をピックアップしました。この裁判例(平成28年8月24日東京地裁判決 判例タイムズ1433号211頁)のでは、弁護士の助言により被相続人名義の不動産の贈与原因の登記をした相続人が単純承認したとみなされたことについて弁護士に説明義務違反を認められており、原告が請求した損害賠償請求については全額認められています。
 この裁判例についてツイッターで呟いたところ反響がそれなりにありましたので、事務所のブログの方でも取り上げることに致しました。
 裁判例における事実関係は次の通りです。
(1)父親Aと母親Bの間には子供として長女Cと次女X(訴訟の原告)がいた。また長女CにはDという子どもがいた。
(2)Aは数千万円の借金があり債務超過の状態にあったが、自宅の土地建物についてDに対して贈与する内容の契約書を作っていた(ただし生前に登記手続までは行われていなかった)。
(3)弁護士YはCの代理人として相続放棄手続をとった。
(4)弁護士YはAとDを代理してAからDの贈与による所有権移転登記手続を行った。
(5)弁護士YはXとBの代理人として相続放棄の手続を行った。
(6)Aの債権者がXとBに対して支払を求める訴訟を行った。Aの債権者はXとBの行った相続放棄について、放棄を行う前に行った所有権移転登記手続が相続財産の処分にあたり相続を承認したことになるから、相続放棄は無効であるとの主張を行った。裁判所はこの主張を認め、XとBは敗訴し支払義務を負うことになった。
 
 Xは弁護士Yに対し、相続放棄より先に所有権移転登記を行うと相続放棄が無効になるおそれがあると説明する義務があるにもかかわらずこれを怠ったとして、説明義務違反による損害賠償請求訴訟を起こしました。
 弁護士YはXの主張に対し、相続放棄の前に所有権移転登記をした場合相続放棄が無効とされてしまう可能性は半々程度であるが、相続放棄を先行させるよりは不動産を守る可能性が高いこと、仮に相続放棄が無効でも破産をするなどの方法があること等説明は行っているので、説明義務違反はないという反論を行いました。
 
 裁判所は弁護士Yの主張に関し、上記の程度の説明は行ったことについては認定しました。しかしながら、所有権移転登記手続を行うことにより相続放棄が無効と判断される可能性は相当高く、相続放棄が無効とされる可能性が半々程度と考えたこと自体見通しを誤ったものなので、その見通しの上で行った説明も不十分であるとしました。また、相続放棄が無効となった場合多額の債務の支払いを求められて自己破産まで余儀なくされるような危険を現実性のあるものとして説明せず、かりにそのような説明があったら通常相続放棄を選択したはずであると指摘しました。
 その上で弁護士Yに説明義務違反があるとして、Xに対して損害賠償責任を負うとしています。
 
 弁護士による説明義務違反については過ちを犯さないよう自戒しなければいけないところです。
 Xは弁護士Yに対して「Y先生に相続手続きをお願いした当初は、こんなにも大変なことになると思っていませんでした」「1日考えましたが、やはり自己破産には抵抗があります。先生もご指摘されたように、私は何の利益も受けていませんし・・・敗訴にならないように、御力を貸してください」と記載されたメールを送っています。自己破産という重大なリスクを甘受するという人はまずいませんので、Xがメールに書いてあるようなことを考えるのは当然のことだと思いました。
 またXは訴えられた債権者以外の関係でも相続により債務を負っており、そのことについて弁護士Yに問い合わせたところ、弁護士Yからは時効待ちを行うのが賢明であるとのメールが送られてきています。ただ借金について時効待ちという説明で納得できる人は殆どいないのではないでしょうか。その間に訴えられればさらに多額の遅延損害金のついた債務名義が増えてしまい、ますます苦しい状況に追いやられてしまいます。
 依頼者が負うリスクについて軽く考えることなく、その上で適切な説明を行うべきであることを改めて考えさせてくれる裁判例でした。

2016年8月 7日 (日)

就職活動と前科・前歴

 被疑者、被告人から、警察に捕まったことが就職活動に与える影響について相談を受けることがあります。

 典型は、

① 履歴書の賞罰欄に捕まったことを書かなければならないのか、

② 前科や前歴のことを面接でどのように言えば良いのか、

というものです。

 弁護士によって回答は別れると思いますが、私なりの考え方をお伝えさせて頂きます。

 先ず、①の問題についてお話しします。

 結論から言うと、前歴に留まる限り記載しなくても構わないと思います。他方、前科をお持ちお方の場合、賞罰欄に「なし」とは書けません。この場合、賞罰欄を空欄にしておいたり、賞罰欄のない履歴書を使用したりして対処することになります。

 前歴とは、罪を犯したものの起訴猶予になった履歴や、少年時代に処分を受けたりした経歴などをいいます。前科とは分かりやすく言えば、裁判所で有罪判決を受けたことをいいます。

 履歴書「賞罰」欄の「罰」の解釈について、東京高裁(東京高判平3.2.20労判592-77)は、

「履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべき」

と判示しています。

この判例では上告がされていますが、最高裁でも東京高裁の判断は維持されています(最判平3.9.19労判615-16)。

 この判決を根拠にすれば、「有罪判決を受けたわけではないから『罰』はない」という解釈が成り立ちます。ここから前歴である限り賞罰欄には記載しなくても良いのではないかというアドバイスが導かれます。

 他方、確定した有罪判決を受けている場合、賞罰欄に「なし」と記載することはできません。

 しかし、積極的に告知しないことにはそれほどの問題はないと思います。

 前の職場においてセクハラ・パワハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことを理由とする解雇の可否が問題となった事案ではありますが、東京地裁(東京地判平22.11.10労判1019-13)は、

「告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない。」

と判示しています。

 少し大雑把に言えば、要するに積極的に虚偽を述べない限り秘匿しておく分は構わないという理解が成り立ち得るということです。セクハラ・パワハラと前科は異なりますが、これを類推することで、賞罰欄を空欄にしておいたり、賞罰欄のない履歴書を使ったりすることは差し支えないのではないかというアドバイスが導かれます。

 次に、②の問題についてお話しします。

 この問題への回答のヒントも上述の東京地裁の判例にあります。

 尋ねられた場合に積極的に嘘を言うことはできませんが、嘘にならない範囲で回答したり、聞かれない限り黙っているという姿勢で臨んだりすることは差支えないのではないかと思います。

 以上が就職希望者、労働者側の立場に立ったアドバイスになります。

 なお、これとは逆に使用者側から前科・前歴のある人の採用を見合わせる方法を尋ねられた場合には、特定の書式の履歴書の使用を指定したり、面接で明確に尋ねたりしておくといったアドバイスをすることになります。

「採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。」

と判示した判例もあるため(前掲東京地判平22.11.10労判1019-13)、採用側には注意が必要です。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年7月14日 (木)

慰謝料肩代わりの約束と不倫・不貞

「不倫女性が慰謝料をチャラにする『法律の抜け穴』の存在とは」という記事が下記のサイトに掲載されていました。

http://woman.excite.co.jp/article/lifestyle/rid_Wooris_208213/

http://woman.excite.co.jp/article/lifestyle/rid_Wooris_208213/

 記事には、

「『もしあなたの奥さんから慰謝料を請求されたら……』と不倫女性が不安を訴えるのに対し、夫が『大丈夫! 何かあってもお前を守るから』などと無責任な発言をして、慰謝料肩代わりの約束に至るケースが多いようです。」

と書かれています。

 ここで言う「慰謝料肩代わりの約束」というのは、

「妻が(夫の)浮気相手に慰謝料を請求してきた場合、夫が慰謝料を立て替えて妻に支払うという約束」

を意味しているようです。

 このような契約を結んでいれば、不倫相手女性に慰謝料を請求しても、夫の財産(夫婦共通の財産)から不倫相手女性にお金が流れるため、妻は不倫相手女性に不貞慰謝料を請求しにくいというのが記事の論旨のようです。

 こういう不審な記事を真に受ける方は少ないとは思います。しかし、「慰謝料肩代わりの約束」なる契約を結び、安心して不貞行為に及ぶ方がいないように注意喚起しておきます。なお、問題の記事が例示しているのが、夫が第三者女性と不倫をした場合のようですから、以下ではその場合を例に解説します。

 先ず、安心して不貞行為の相手方になるため「慰謝料肩代わりの約束」を結んだとしても、契約の有効性には強い疑義があります。

 法律の基礎的な論点として「動機の不法」という問題があります。賭博資金を得るため金銭消費貸借契約をした場合、売春目的で家屋の賃貸借契約をした場合などのように、契約をする目的ないし動機が違法な場合、その契約の効力をどのように理解するかという問題です。

 判例は当事者が動機を法律行為の内容とした場合、一方の違法な動機を相手方も知っている場合などで契約を無効だと判示してきました。

 不倫は犯罪ではありません。しかし、民法上の違法行為ないし不法行為には該当します。不貞関係を維持するため、予め「慰謝料肩代わりの約束」をする場合、そこには違法行為を行うために契約を結んでいるという要素が出てきます。また、不倫への心理的負担を軽くし、これを容易にするために契約を結んでいることは不倫をする夫も不倫相手女性も知っているわけです。通説的な理解を前提にすれば、「慰謝料肩代わりの約束」は無効と判断される可能性が高いと思います。実際、大審院時代のものではありますが、不倫をした夫が不倫相手の女性に将来結婚することを約した上で扶養料を支払うことを内容とした契約について、その法的効力を否定した判例もあります(大判大正9.5.28大審院民事判決禄26773頁参照)。契約が無効である場合、不倫相手女性にも普通に負担割合が生じてきます。

 また、夫婦共通の財産からの金銭の流出が抑止力になるのは、婚姻関係が維持される場合だけです。妻が不貞夫との離婚を決意した場合、不貞夫と不倫相手女性との間での内部的負担割合がどうなっていようが妻にとっては関係ありません。

 ここで重要なのは、妻が不貞夫と別れるつもりになるかどうかは不倫相手女性に全く予測できないことです。偶然的な事情に依存せざるを得ない時点で、紛争予防を目的とした枠組みとしてはかなり問題があると思います。

 記事では行政書士が「不倫女性から依頼を受けて公正証書など公的書類を作成したケースは100件をくだらない」とも書かれています。

 公証人法26条は無効の法律行為について公正証書を作成することを禁止しています。この記事が本当であるとすれば、公正証書の作成に何等かのイレギュラーな事情が介在している可能性もあると思います。

 法律の抜け穴はそうそうありませんし、見つけようとしたところで不幸になる人が増えるだけです。法律の抜け穴を標榜する記事は真に受けないのが一番です。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年7月 1日 (金)

会社役員を辞めたい

 辞めたいのに辞められないというお悩みは、従業員の方だけではなく会社役員(取締役、監査役など)の方にもあるようです。辞められない背景事情により幾通りかの進め方がありますが、今回はオーソドックスな辞め方についてお話します。

 会社役員と会社との関係は委任に関する規定に従うとされています(会社法330条)。

委任契約は各当事者からいつでも解除することができます(民法651条)。

相手方に不利な時期に委任契約を解除した場合、損害賠償義務を負う場合があります(民法6512項本文)。しかし、やむを得ない事由に基づいて契約を解除した場合には、損害賠償義務を負うことはありません(民法6512項但書)。

また、損害賠償義務を負う場合でも、我が国の法制上、賠償額は実損額に限られます。そして、損害が生じたこと及びその額の立証責任は、賠償を請求する側、会社側にあります。

このルールを理解していれば、損害賠償のリスクを抑制しながら辞めることはそれほど難しくありません。

具体的には、一定期間に渡って引継ぎ事務を行うことを申し出ながら辞任の意思表示をすることになります。引継ぎ期間を設けるのは「不利な時期」と言われることを避けるためです。また、引継ぎをしておけば普通は「損害」が生じることはありません。なお、引継ぎを申し出ておけば、仮に会社側が引継ぎを指示しなかったとしても、そのことによって生じた損害は自業自得という言い方をするためでもあります。

辞任した後は、それを会社に登記してもらうことになります。会社が登記をしない場合には、会社を相手取り、辞任登記手続を行うことを求める訴訟を提起することができます。これにより判決が得られれば、会社が登記をしなくても、単独で退任登記をすることが可能になります(ただし、最低員数を欠くことになる場合には仮取締役の選任の申立など更に別途の手続きが必要になります)。

辞めたことを登記上も反映させることができれば、この問題は一件落着です。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年3月30日 (水)

遺言書を置く場所

 前回のブログで、公正証書遺言だけではなく自筆証書遺言も有用である旨書きました。では、作成した遺言書はどこに保管したらよいでしょうか。これは公正証書遺言でも悩ましいことですが、公証役場で保管することのない自筆証書遺言であればより重大な問題となります。

 実は、先日、あるサイトを見ていたら、遺言書を作成したら安全な保管場所を考えましょう、身近な保管場所としては銀行の貸金庫がありますというアドバイスがありました。貸金庫がよいという理由は、銀行は相続人全員の同意がないと貸金庫を解錠してくれないので、貸金庫に保管しておけば、相続人全員が遺言書に気付く可能性が高くなるというのです。

 正直申し上げて、とんでもないアドバイスだと思いました。

 わたしは逆に遺言書を作成したら(公正証書でも自筆証書でも)、間違っても貸金庫だけは入れないようにとアドバイスしています。

 というのは、①被相続人(亡くなった方)が銀行と貸金庫契約をしていたということは家族や親戚でも知らないことがあり、そのこと自体に気付かれない可能性が高い、②気付いたとしても、上記にあるように銀行は相続人全員の同意書(それぞれの印鑑証明書付)がないと解錠に応じないので、相続人のひとりでも協力しない、行方不明であるなどの事情があれば、事実上中を見ることはできなくなってしまいます、③この②のような事情がある中で、貸金庫の解錠については保留にしたまま他の預貯金や不動産について遺産分割協議を何とかしたものの、後に貸金金庫をようやく開けたら遺言書が出てきた、内容を見たらせっかくの協議内容がひっくり返ってしまうものだった・・・という可能性があるからです。また、最終的に銀行で解錠する時には代表者又は全員から委任を受けた代理人のみが確認するのが一般であり(全国に相続人が散らばっている場合解錠のために銀行に集まるのは現実的ではありません)、中に何が入っていたのかについては銀行員も立ち会うことはしない以上、結局、遺言書が貸金庫の中にあったのか、なかったのかについて、紛争が勃発する可能性があります。

 実際、わたしが関わった案件でも、貸金庫の解錠までに煩雑な手間と長い時間を要しました。貸金庫の中にほとんど何も入っていないこともありましたし、うやうやしく不動産の登記済証とともに公正証書遺言が入っていたこともありました。これも開けるまでは絶対に分からないことです。また、開けた人しか確認できないことでもあります。

 同様に、自宅内の厳重すぎる金庫もお勧めしません。無用な手間や費用がかかってしまい、それらを誰が負担するのかでももめることがあります。

確かに、遺言書を作成してみたはいいものの、どこに置くかは悩ましいものです。内容によっては、容易に家族の目につくところには置きたくないということもあるでしょう。昔からよく利用されている典型的な場所は仏壇の引き出しですが、仏壇がある家ばかりではありませんし、引き出しも容易に開けることができる以上、やはりどうなのかという問題があります。

そこで、ひとつの選択肢としてお考え頂きたいのが法律事務所です。遺言書作成の法律相談をした延長として、弁護士を遺言執行者(相続が発生した時に遺言書の内容を実現してもらう人)に指定し、さらに保管まで托すことができます。家族には、〇〇法律事務所の〇〇弁護士に預けているので何かあったら連絡するようにと伝えておけばよく、内容まで打ち明ける必要もありません。また、定期的に面会したり連絡をとりあったりするホームロイヤー契約を弁護士と締結し、最新の財産状況や健康状態なども把握しておいてもらう方法もあります。貸金庫に入れっぱなしにしておくよりはるかに安心で確実です。

遺言書の利用が現実的になるのは将来であることにも鑑み、当事務所では複数弁護士での対応もしています。ホームロイヤー契約の形態も様々なものがあります。まずはお気軽にご相談下さい。

(亀井真紀)

2016年3月29日 (火)

まずは自筆証書遺言から

 遺言書をどうやって作るか?と問われたら、公正証書で!と弁護士はじめ多くの専門家は回答するはずです。わたしもそのようにアドバイスをしています。

 しかし最近は、そのトーンが少し落ちてきて、必ずしもいきなり公正証書にしなくてもよいのではと思っています。

 そもそも公正証書遺言のメリットとしてあげられるのは、①公証人が作成に関わるので、形式的にも内容的にも無効になる可能性が少ない、②本人が亡くなった後に相続人が検認手続きをする必要がない、③公証役場に原則として20年保管されるので紛失や破棄などの恐れがない、ということです。

 しかし、一方で、①公証役場で作成しなければならない(出張で公証人が自宅や病院に来てくれることもあるが出張旅費が余分にかかる)、②公証役場に手数料を支払う必要があるということになります。

 この点、公証役場は東京であれば45箇所もあり、どこで作成することも可能なので、それほど大きな問題にはなりませんが、例えばわたしが以前赴任していた北海道の紋別市に公証役場はなく(その昔はあったのに!)、最寄りの公証役場は約100キロ離れた北見でした。これは多少極端な例ではありますが、高齢の方などにとっては近所にないということは躊躇する十分な理由になろうかと思います。

 また、それ以上に手数料はどの方にものしかかってくる問題になります。実は公正証書遺言の手数料は一律ではなく遺言の対象となる財産の額によって異なります。仮に「全ての財産を〇〇に相続させる」というごくシンプルな遺言を作成する時でも、自身が保有する預貯金、株式、不動産や株など全ての財産の総評価額(不動産の場合は固定資産評価証明書を提出します)を申告して手数料を決めてもらいます。不動産を複数所有していればそれなりの額になるのは必須で、人によっては手数料だけで10万円くらいになる方もいます。

 もちろん、亡くなった後に財産を誰に譲るのかという重要な法律行為である以上、それくらいの費用や手間はやむを得ないといえばそうなのですが、ご自身がまだ比較的若くてもしかしたら遺言の内容もまだ変えるかもしれないと考えている方にとって、数万円の出費はやはり大きなものです。当然ながら作成し直すときは、修正部分の対象財産に応じて手数料がかかります。

 このように様々な事情でいきなり公正証書遺言を作成することに躊躇を感じる方には、わたしはまずは自筆証書遺言の作成を勧めたいと思います。有効性に問題が生じることがあるというのが自筆証書遺言のデメリットですが、これは自筆証書遺言を作成することが難しいことを意味するわけではありません。例えば、紙を用意して、「遺言書 わたしの財産の全ては〇〇に相続させる。平成〇年〇月〇日 ○○○○(名前) 印」と全て直筆で記載し、押印すればそれは立派に有効な遺言書です。封はしてもしなくてもかまいません。注意すべきなのは、パソコンを利用せずに全部直筆で記載する、日付を書く、押印(認印でもかまいません)をすることです。それでも心配であれば、弁護士に単発の法律相談で見てもらい、チェックしてもらえばより完璧です。内容面でも迷いがあれば、分配方法等アドバイスを受けることもできます。30分の法律相談は一般的に5000円ですから公正証書遺言作成手数料を考えればリーズナブルです。

また、亡くなった後に検認手続きを要するというデメリットも自筆証書遺言ではありますが、これも考え次第といえます。つまり検認手続きの負担を負うのはあくまでも残された相続人らで、自分が生きている間にしなければならないわけではありません。また、検認手続きは家庭裁判所に申し立てをする手続きですが、裁判のように難しいものでも長期になる手続きではありません。必ずしも大きなデメリットともいえないということです。

自筆証書遺言も、十分に効果的だし、安価に簡単に作成できるというメリットはあるといってよいでしょう。むしろ、形式的にも費用的にもハードルの高い公正証書遺言の作成に躊躇している間に遺言書作成の機を失ってしまい、結局、相続人らに紛争を巻き起こすくらいなら、まずは今現在の自分の信念に従って手書きの自筆証書遺言を作成しておくというのはとても大事なこととだと思います。

 とは、いえ何からどのように記載すればよいか分からない・・そういう方向けには最近合宿での遺言セミナーもあるみたいですが、単純にまずは弁護士にご相談頂ければと思います。内容面、形式面のアドバイスをさせて頂きます。実際、何を書くか決めていなかった方でも、色々と家族のお話をする中で、お考えを整理されていく方が多いようです。

(亀井真紀)

2016年3月 4日 (金)

辞めたいのに辞めさせてくれない会社4(退職妨害の類型)

 会社による退職妨害の問題は何度かこのブログでもご紹介してきました。

 http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-6fb3.html 

 http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-7153.html 

http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-c301.html 

 初めて記事にした時から3年以上が経過しましたが、依然としてこの種のトラブルは多いようです。ある程度事例が集まってきたため、類型別に対処法を整理しておきたいと思います。

1.退職届を受け取らない・無視する型

  上司が退職届を受け取ってくれない、退職を思いとどまるように執拗に尋問されたり説得を受けたりする、退職届を出したはずなのに受け取っていないと言い張られるといったタイプの典型的な退職妨害です。

  何かあるとすぐ会社の代表権者宛に内容証明郵便を送るなどの喧嘩腰の交渉は個人的には好きではないのですが、この場合には代表取締役宛に内容証明郵便で退職の意思表示を伝えることが必要になります。無期雇用契約の場合、基本的には2週間の予告期間を置いて退職することができます(民法6271項)。相当数の有給休暇が残っていれば、労働日を有給休暇に充てることで相手方と顔を合わせずに退職できる可能性もあります。

予告期間は就業規則等で伸長できるとする見解とできないとする見解の両説があります。実務的には2週間経過後に会社に行かないでも問題になることは殆どありません。また、損害賠償を示唆されることもありますが、①損害の立証が困難であること、②立証に成功しても大した金額にならないことが多いこと(損害賠償請求事件を依頼するための弁護士費用の方が高くつきかねないこと)から、訴訟提起される可能性自体も非常に低いと言って良いと思います。

2.無茶な合意型

  退職の際の予告期間について交わされた無茶な合意を盾にとって退職を妨害する類型です。

  例えば、使用者が従業員を雇入れる時に「辞める時には半年前までに予告します。」といった誓約書の提出を求めていた事例がありました。その件では誓約書を盾に取って退職が妨害されていました。

  そこまでするのであれば半年間の有期雇用契約にすれば良いのにとは思いますが、期間を定めることにより使用者の側からの解雇が制限することを防ぎたいのだと思います。

  合意は守られなければならないのが原則です。

  しかし、どんな合意でも守らなければならないかと言えば、決してそのようなことはありません。

  就業規則や合意によって予告期間を延ばすことができるとする見解も、せいぜい1か月程度までとしている程度で、6か月前に予告するとする合意に法的効力を認める見解は私の知る限り存在しません。普通の法律家はこのような合意は労働者の退職の自由を不当に制限するもので無効だと理解していると思います。

  誓約書を差し入れないと仕事につけないことから、やむにやまれず無茶な内容の合意を取り交わしたとしても、そのような合意の効力は否定できる可能性があります。

  約束したのは自分だからと気に病む必要もありません。この場合も合意に効力がないことを前提に2週間の予告期間を置いて出勤しなければ良いと思います。

3.現代のタコ部屋型

  社宅や寮などの住居を提供して従業員を働かせ、辞めたいというと集団で暴行(物差しで叩くなど)を加えたり暴言を浴びせたりして退職を阻止する類型です。出社しないとひっきりなしに電話がかかってきたり、住居に押しかけられたりします。多くの場合、低賃金で転居するだけの経済的余裕がありません。

放っておくと、鬱病などの精神疾患を発症して働けなくなるまで酷使され続け、用がなくなると雇用契約を打ち切られ、社宅・寮からの退去を請求されます。このような会社(最早犯罪組織と言っても良いかも知れませんが)からは一刻も早く逃げ出すことが必要です。

  この場合、法律専門家を関与させ、先ずは身の安全を確保するところから始めると良いと思います。

実家など退去できる場所がある場合には速やかに社宅・寮を退去します。

すぐに退去するあてがない場合には、暴行などの違法行為を止めるように通知し、相手方の反応によっては警察を介入させることも必要になります。

  その後、速やかに退職の意思表示をします。場合によっては、損害賠償請求や未払い時間外手当の支払も請求することになります。

 ある程度退職妨害の実体が分かってきたため、類型化して周知を図ることにしました。

 当事務所では引き続き退職妨害の相談も受け付けています。

 お困りの方は、お気軽にご相談ください。

 

(弁護士 師子角 允彬)

2016年2月29日 (月)

不倫・不貞と職場への連絡

 最近、芸能人や国会議員、落語家などの不倫がテレビや雑誌で連日のように取り上げられています。

 こうした世相を反映してか、不倫・不貞の事実を暴露することについての相談を受けることが増えています。

 不倫・不貞で被害を受けた方からは、「不倫していることを職場に連絡してやることはできないのでしょうか。」と相談を受けることがあります。また、「不倫していることを職場に連絡してやる。」と脅されている方からは、「職場に連絡をされると困ります。何とかならないでしょうか。」という相談を受けます。

 不倫・不貞を職場に連絡することが許されるかどうかは、場合を分けて考える必要があります。

1.先ず、不倫・不貞をしたという証拠がない類型があります。

  こうした場合に職場への連絡が許されないのはもちろんです。例えば妻が、証拠もないのに夫が不倫をしていると決めつけ、「夫が不倫をしている。」などと会社に連絡すれば、当然不法行為が成立します。脅迫や名誉毀損などの犯罪にも問われかねません。「職場に連絡をする。」と脅されている側としては、当然、連絡行為を控えるようにと強く要求することができます。

2.次に不倫・不貞をした事実自体は確かに存在するという類型があります。

この場合も、配偶者が不倫・不貞をしたと敢えて職場に連絡することは基本的には許されません。夫婦間での紛争は基本的には職場とは関係がないからです。

夫が不倫の事実を否定していたケースではありますが、妻が離婚交渉中に夫の職場に内容証明郵便を送りつけたり、職場に押しかけたりしたことについて、妻及び妻の代理人弁護士への損害賠償請求が認められた事例もあります(東京地判平181218LLI/DB判例秘書登載)。この判例では、夫側が妻側に職場ではなく自宅に連絡して欲しいと通知していたこと、第三者である職場の人間に助言や介入を求める特段の必要性が認められないことなどが指摘されています。

弁護士によって見解が分かれるかも知れませんが、職場に連絡をしたいという方がいれば、私なら控えておくよう助言します。職場に連絡をして相手方が失職すると婚姻費用や慰謝料の回収に支障が生じることもあります。一時的に気持ち良くなっても現実的に見れば得策でもありません。そういった観点から説明すると、落ち着きを取り戻してくれる方が多いようです。

他方、「(夫ないし妻から)職場に連絡すると脅されている。」という相談者には他の連絡先(自宅、代理人弁護士の法律事務所等)を伝え、職場への連絡を控えるように通知することをお勧めします。

3.不倫・不貞をめぐる紛争の亜種として、配偶者のある相手(例えば妻のいる男性)と職場内不倫をしていた者が捨てられた腹いせに「職場に不倫・不貞の事実をばらしてやる。」と相手を脅かすケースがあります。

セクシャル・ハラスメントによって性的関係を結ばされた場合や、企業秩序に悪影響を及ぼすような態様で交際が行われていた場合(職場で性交渉に及ぶなど)には職場に事実を申告することは許容されると思います(後者の場合、申告者自身も懲戒処分を受ける可能性がありますが)。

ただ、交際自体が仕事と無関係な時間・場所で行われ、こちらも相手に配偶者があることを知って付き合い始めたというケースであれば、職場への連絡を正当化することはできないのではないかと思います。

 個人的には当事者間の紛争に職場を巻き込むといった場外乱闘的な事件処理は好ましくないと思っています。そういうことをしても不幸の総量が増えるだけで、誰の利益にもならないというのが弁護士としての実感です。

 不倫・不貞に関係して職場が巻き込まれそうになっている方は、ぜひご相談にいらしてください。紛争解決の軌道を修正するお手伝いができればと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年2月23日 (火)

賃料削減・賃料減額を標榜する会社・コンサルの問題点、トラブルをお抱えの方へ。

 電子メールを利用していると、様々な迷惑メールが送られてきます。

 比較的多く送られてくるメールの中に賃料の削減を勧誘するものがあります。

メールの文面には「テナント賃料を80%の確率で最大45.7%減額」「賃貸物件の『80%が賃料の適正化ができる』」などとうたい、「完全成果報酬型」で「賃料の値下げ交渉を御社に代わって行います。」「当社は6年・11000件実績」「今まで貸主様とトラブルになった例はひとつもありません。」などと、耳ざわりの良い言葉が並んでいます。

 しかし、こうした事業には適法性に疑義があります。

 弁護士法72条は「弁護士又は弁護士法人でない者」が「報酬を得る目的」で「業」として「法律事務を取り扱」うことを禁止しています。

 「法律事務」とは「法律上の効果を発生変更する事項の処理を指す」と理解されています(東京高判昭和39・9・29高刑集17-6-597参照)。

 一旦合意された賃料は、基本的には、家主と改めて合意をし直すか、賃料減額請求(借地借家法32条)という手続をとらない限り減額されることはありません。

 賃料減額の交渉は家主との法律関係を変更する事項の処理にほかならず、「法律事務」そのものではないかと思われます。

 これを株式会社が報酬を得ながら1万件以上も反復継続して行っていたとすれば、非弁行為(弁護士法72条違反)が強く懸念されます。

 また、弁護士としての実務経験に照らすと、法的手続(調停・訴訟など)をとらないで賃料の減額を実現することは困難です。それは家主の側に任意の減額に応じるメリットがないからです。家主側は法的手続をとられない限り従前通りの賃料を請求できるのが基本です。法的手続を前提とした賃料減額請求を受けない中で交渉のテーブルに着くことは普通ありません。少なくとも、家主側から相談を受けた弁護士は、賃借人が余程大事な顧客でもない限り、丁重に断った上で法的手続がとられるまで放置しておけばよいと回答するのが一般的ではないかと思います。

 メールには「『80%以上』が適正賃料ではなく、“払い過ぎ賃料”が発生している可能性がある」「賃貸物件の『80%が賃料の適正化ができる』」と記載されています。しかし、こういったことを記載している業者との取引をしようとする場合には、その統計の取り方をきちんと確認する必要があります。また、仮に、80%もの賃料減額の交渉を実現できているというのであれば、何らかの非合法活動によって無理矢理家主に言うことを聞かせていないかどうかも確認する必要があります。家主とのトラブルが一件もないとの表示に対し、業者が「トラブル」をどう定義しているのかも回答してもらう必要もあると思います(どんなに懇切丁寧な商売をしていても、1万件以上の交渉案件を処理してトラブルが1件もないという事態は常識的に考えられません)。

 メールには、「当方ではBtoB向け・事業を営む方向けに配信をさせていただいており」と記載されています。

 事業者同士の取引は、消費者保護を目的とした法律の多くが適用されません。しかし、一口に事業者といっても、紛争解決の経験にはかなりの差があります。小規模な会社の経営者様の中には弁護士が持つ違和感には気付かない方がいるかも知れません。

 賃料削減相談に応じますと言ったうたい文句を信じて契約を結んだものの、相手方会社の対応に疑義があるといったお悩みをお抱えの方は、ぜひ一度ご相談にいらしてみてください。

 弁護士法違反に基づき契約の無効を主張し、返金を請求する余地がないかなどを検討させて頂きます。

(弁護士 師子角 允彬)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ