弁護士コラム

2018年10月 3日 (水)

非弁行為を行うネット削除業者にご注意ください

 近年インターネットの誹謗中傷の被害が増えていますが、その一方でインターネットの投稿・記事の削除請求を代行する業者も存在しています。

 しかしながら、昨年2月に東京地方裁判所は、ネット削除業者の行った「削除代行」は弁護士以外に行うことが法律上禁じられている「非弁行為」に該当することから、依頼者との間の契約は無効となるとした上、ネット削除業者に対して依頼者に代金全額の返還を命ずる判決を下しました(平成29年2月20日東京地裁判決 判例タイムズ1451号237頁。なおこの判決は確定しています)。

 弁護士法72条では、弁護士でないものが報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うこと(非弁行為)を禁止しています。そしてこれに違反した場合には弁護士法77条3号により犯罪行為をしたものとして2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられることとなっています。

 法律上非弁行為が禁止されているのは、法律上の専門知識が担保されていない非資格者が法律問題を扱うことにより、不適切な処理がなされ関係者が被害を受ける危険があるとともに、紛争自体さらに複雑化をしてしまうことがあるからです。私が地方に赴任していた際に取り扱った事件でも、相談に来る前に弁護士資格を有さない者が法律紛争を取り扱ったために紛争が深化してしまっていたケースは多々ありました。そのような事態を防ぐため、法律は厳しい罰則をもって非弁行為を禁じているのです。

 上記裁判において被告のネット削除業者は、ネット記事などの削除代行はウェブサイトに対して情報を提供して削除を依頼するという単純かつ画一的な行為であり、専門的知識も不要であるから、法律事件に関する法律事務にはあたらないという主張をしていました。しかし裁判所は、削除依頼は投稿者の権利を行使することによって、ウェブサイト運営者の表現の自由と対立しながらも記事の削除を行い投稿者の権利を守るという効果をもたらすものであるとして、被告のネット削除業者の言い分を全面的に否定しました。

 この判決以降、ネット削除業者も表立って自ら削除を行うということを宣伝することは少なくなってきたように思われますが、中には専門家を紹介するなどといってみたり、専門家の名前を借りて削除を行うなどという業者もいますので注意が必要です。上記裁判の被告のネット削除業者も、依頼者に対して難易度の高いものはパートナーの行政書士において削除申請を行わせるなどといっていたようです(なお行政書士も報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことは禁じられております)。

 非弁行為を行うネット削除業者に対して依頼を行うことは自ら不利益を被る可能性があるばかりではなく、非弁行為という犯罪に加担することにもなりますので絶対にしてはなりません。ネット上の誹謗中傷の被害にあった場合には専門家である弁護士に直接相談して、説明を受けたうえ納得のいくやり方で依頼するのが良いでしょう。 

(弁護士 大窪 和久)

2018年6月14日 (木)

スタッフ弁護士になる10の理由(その1)

 最近、法テラスの常勤弁護士(スタッフ弁護士)への志望者が減っているといいます。私はスタッフ弁護士として6年間働いた経験から、ロースクール生や修習生に自信を持って法テラスを就職先としてお勧めします。題して「スタッフ弁護士になる10の理由!」(書きながら自分がスタッフ弁護士に戻りたくてなってきたことはさておき・・・)。

 なお、この4月から私は法テラスの広報・調査室長として働いていますが、以下は法テラスの組織としての見解ではなく、かつまた今の自分の所属先を喧伝するために書くわけでもありません(法テラスを宣伝することが私の今の仕事ではあるのですが、それを措いてもという意味で)。純粋に、元スタッフ弁護士としての私個人の意見です。桜丘で2年間修業した後、2006年に法テラス佐渡を立ち上げて3年半を佐渡で過ごし、その後に那覇へ異動して2年半、合計6年間をスタッフ弁護士として過ごしました。

 那覇の後は、法テラスを辞めてアメリカに留学たり、JICAの長期専門家としてネパールに赴任したりしておりましたが、こちらの話はまた別の機会に。とりあえず、「スタッフ弁護士になる10の理由(その1)」いきます!

 

1 事件に集中できる。

 法テラスの司法過疎対策事務所と、日弁連のひまわり公設事務所の役割は基本的には同じです。私は佐渡にいましたが、佐渡島内の事件をどんな事件でも受けて、地域の司法アクセスを確立することです。異なるのは、法律事務所の「経営」をするかどうか。ひまわり公設に限らず、法律事務所のパートナーになると、事務所の収支はもちろんのこと、雇用主として職員の待遇も考えなければなりません。

 法テラスでは、組織として職員を採用しているため、人事評価に参考意見をつけることを除けば、スタッフ弁護士個人が労使交渉の使用者側になることはありません。事務職員と名実ともに「同士」として、事件に取り組める環境があると言えます。独立し、あるいはひまわりの公設の同期が経営について悩んでいる時に事件処理だけに没頭していた私は、ある意味幸せものでした。

 スタッフ弁護士として働く間、地元の弁護士会の委員会や研修に参加することで、先輩から多くのことを学ぶことができました。ただ、法曹界でよく「事件が人を育てる」と言われるように、依頼者の人生がかかった一つ一つの事件にこそ、最も大きな学びがあります。経営のリスクを負わない以上、事件を数多くこなすことによる経済的な受益こそありませんが、弁護士として事件に集中できる環境はプライスレスです。

 

2 単価の低い事件にも取り組める。

 スタッフ弁護士には一般の弁護士が受け控えてしまうような、時間当たりの単価が低い事件に積極的に取り組むことが期待されています。

 私が経験した「単価の低すぎる事件」の一つには、離婚調停に一年以上かかったものがありました。様々な事情で5年間別居していた高齢者夫婦が、離婚調停の中で、病気や介護、住宅、年金の問題を一つずつ解決し、同居を再開したという事案でした。事件が終了してから暫くしてから、体の不自由な夫の体を妻が支えて事務所を訪ねて下さり、「二人で釣りに行ったんだ!」と魚をくれた時は本当に嬉しかったのを覚えています。

 しかし、常勤弁護士ではなく契約弁護士として事件を受任したいたら、民事法律扶助家事調停の報酬は数万円です。ご本人達が本音で語れるようになるまでの数か月をじっくり付き合えたか。市役所への介護保険の申請に付き合ったり、調停外での夫婦の面談に付き合ったりできたかは疑問です(手弁当を覚悟してやると思うけどね!というのは、今の契約弁護士としての自分に対する宣言)。スタッフ弁護士だったからこそ、とことん付き合って、最後にご夫婦の仲良く並ぶ笑顔を見ることができたのだと思います。

 

3 困難な事件に集中できる。

 さて、ここまで「事件に集中できる」とか言っていませんが、もう一回だけ言います。たまに、「そんなお金にならない事件ばかりやって、弁護士としての力がつくのか?」と言われます。でも、「単価が低い=簡単」ではありません。その多くは、困難さ故に時間がかかり、結果として単価が低くなるものです。

 本来的には困難な事件であれば、その単価があがることが理想なのでしょうが、法テラスの利用者は経済的に困窮しており、民事法律扶助では最終的に利用者本人が弁護士報酬を償還しなければなりません。一方で、国選刑事弁護事件は、報酬計算に係る法テラスの裁量の余地がないようにという弁護士会からの要請から、統一的な基準が作られているため、「例外的な」困難さに対応することができないのが現実です。

 櫻井弁護士から新人の頃に聞かされていたことの一つに、「困難な事件を避けるのはもったいない。困難な事件に真剣に取り組んでこそ力が伸びるし、依頼者からの信頼を勝ち得ることができる。」というものがあります。沖縄では2年半の間に裁判員裁判8件を受けることができました。スタッフ弁護士としての6年間、民事でも刑事でも様々な意味で困難な事件に取り組めたことが、弁護士としての自分の基礎体力を作ったと感じます。

 事件に集中できる環境があり、単価の低く(社会の隅っこで複合的な苦しんでいる人が最も必要とする)、特に困難な事件に取り組むことが期待されている。振り返ってみると、私にとってはとても幸福な時間でした。

 

4 ノーリスクで事務所経営の練習ができる。

 事件に集中できる環境があるとはいえ、事務所の収支が分からない訳ではありません。事件処理にかかる経費はもちろんですが、人件費を含む事務所の固定経費も知ろうとさえすれば、把握することができます。契約弁護士として受任していたら支払われていただろう国選・民事法律扶助事件の報酬は事件毎に分かります。司法過疎事務所であれば、「有償事件」と呼ばれる一般的な弁護士報酬で受任する事件もあります。

 国選・扶助事件だけで収支を合わせることは難しいでしょうが、日々の事務所運営かかる経費を知り、自分がどの程度のボリュームの事件を受けることができるかを知ることは、将来の独立開業する際の貴重なトレーニングになります。一度開業して日々の運転資金を自分で回す前に、「自分の財布から経費を支出する」という痛みなく事務所運営の練習ができるというのはスタッフ弁護士の魅力の一つだと思います。

 少々脱線しますが、「スタッフ弁護士は事件処理経費を『全く』気にしなくていいことが魅力だ!」という人がいます。私は、それは事実ではなく、仮に事実だったとしても「魅力」には当たらないと考えます。確かに、経営者として自分の財布から人件費や固定経費を支出しなければならない開業弁護士に比べれば、経費のことが頭に浮かぶ機会は遥かに少なくて済みます。

 しかし、スタッフ弁護士が受けている事件だからといって、一般弁護士が受任したら出せない経費が支出できる訳ではありませんし、スタッフ弁護士の人件費を含む法テラスの運営費が公費で賄われている以上、コスト意識を持つことは必要です。これは事件の費用対効果を考えるべきと言っている訳ではありません。一回の訪問で済むことが自分の準備不足のために二回目の訪問が必要になってしまうことを避けたり、職員の事務処理がスムーズに進むような工夫をして残業を減らしたりすることで、効率的な事務所運営を行なうことが求められると考えています。ただ、法律事務の独立性があるため、このような細かいことを組織側から言われることは、少なくとも私がスタッフ弁護士をしていた頃はありませんでした。自ら律することで、自分や職員の負担を減らしてワークライフバランスを高めることにも繋がると思います。

 社会人経験のないまま弁護士になった私には、経営者としてのリスクを負う前に事務所運営の練習ができたこと、職員との人間関係学んだことは、とても貴重な経験となりました。

 

2018年5月 1日 (火)

弁護士に依頼するともっとモメる?

1.弁護士に相続を相談するデメリットとして、「もっとモメるかも」という指摘をしている方がいます

http://sozock.com/category56/entry172.html)。

 しかし、所掲のサイトでの指摘は、弁護士業務の実体を誤解しているように思われます。

2.所掲のサイトは「弁護士の場合は、モメればモメるほどお金になるという仕事の性質上、まとまる方向に話が進まない可能性があります。」と指摘しています。

  この点が誤解の出発点であるように思われます。

3.相続問題を扱うようないわゆる町弁が事件を受任する場合、着手金-報酬金という報酬形態をとるのが一般です。

  着手金というのは、「事件の結果に関わらず、最低限、これだけの費用が発生しますよ。」という事件処理の対価のことです。

報酬金というのは、「得られた金銭の何%」といったように、成果に対して発生する費用です。依頼が成功しなければ報酬は発生しないのが普通です。

4.弁護士が事件を受任する場合、先ず、依頼人の依頼の趣旨を確認します。

  その後、依頼人の依頼の趣旨を実現するにあたっての着手金、報酬金の見積もりをします。依頼人が了承すれば、契約書を取り交わし、事件処理に入るという手順をとります。

弁護士が依頼人に見積もりを提示するうえでポイントになるのは、着手金-報酬金方式で契約をする場合、弁護士費用が発生するのが、基本的に事件の着手時と終結時の二回に限られるということです。

半年で事件が解決しようが、事件解決までに10年かかろうが着手金-報酬金の額は変わりません。

  しかし、半年で解決できるか事件解決までに10年かかるかは弁護士にとっては非常に重要な意味を持ちます。

  例えば、着手金30万円の事件でも、半年で解決すれば着手金換算で1か月あたり5万円の利益を生みます。しかし、着手金60万円の事件でも解決までに10年かかれば、1か月あたり着手金換算で5000円の利益しかもたらさないことになります。これではとても経営が成り立ちません。

弁護士業務は、モメればモメるほど金になるどころか、モメればモメるほど利益が薄くなって儲からなくなるというのが実体に近いと思います。

5.セカンドオピニオンや、合い見積もりをとることが珍しくなくなっている東京の市場環境では、過大な着手金を提示すれば、顧客は他所に流れてしまいます。

  そのため、見積もりを提示するにあたっては、依頼の趣旨を実現することの可否だけではなく、発生する労力や紛争解決までに要する期間を正確に見通すことが経営上重要な意味を持ってきます。

  報酬を得るために必要な部分で徹底的に争うのは普通のことです。手を抜くと顧客満足度・評判や技量が落ちるため、予想外の労力が発生するとしても、この点で易きに流れる弁護士は少ないと思います。

  しかし、必要のないところでわざとモメさせようという発想を持っている弁護士は、漫画の世界ではともかく、現実には殆どいないと思います。

  引用元のような記事を見れば、弁護士に事件処理を依頼することで、意味のないモメ事を作られてしまうのではないかというご懸念をお持ちの方が出てくるかも知れませんが、そうした理由で依頼をためらう必要はないと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2017年5月19日 (金)

桜丘釣り同好会

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桜丘法律事務所釣り同好会の活動報告です。

先日の企画は、GWの2日間かけて行われた、勝どきマリーナ主催のフィッシング講習でした。

1日目は釣りのプロによる講習でじっくり座学を行い、2日目は実際にボートで海に出て学んだ知識を実践に活かします。

参加メンバーは、櫻井、大窪、神山(昌)、馬場(新人)の4名。

4名のうち釣り経験者は櫻井のみで、他3名はほぼ初心者。

普段は頼もしい権利の守り手たちも、釣竿を目の前にてんやわんやの様子。

1日目は釣りのプロから優しい手ほどきを受け、全員何とか釣り具の役割や魚たちの生態について理解することができました。

2日目は本番。メンバー達は目当てのシーバスを釣り上げに東京湾へと繰り出します。

波にもまれ、川崎港付近まで来たところで、ポイントを探し、実践編がスタートしました。

ルアーが消波ブロックに引っかかったり、釣り糸が切れたりと、トラブルに見舞われながらも、メンバーたちは竿を振ります。

開始から1時間ほど経ったころ、新人の馬場が50センチほどもあろうかというシーバス(スズキ)を釣り上げました。

桜丘では、普段の仕事はもちろん、同好会においても教育を欠かしません。

釣り2回目の新人が成果を出すことができたのも、日ごろの教育の賜物といえるでしょう。

GWもとうに終わり、忙しい日々に戻りました。

次は仕事で大きな成果を上げるべく、日々汗を流します。

(馬場)

2017年5月 3日 (水)

憲法記念日に思うこと

憲法記念日に思うこと

 

 日本国憲法が施行されて満70年を迎えた。基本的人権の尊重を軸に国民主権と平和主義を高らかに謳うわが憲法は,今なおわが国が進むべき道を示し続けていると思う。

 またそれだけに,安易で粗野な憲法改正の議論には反対である。未来永劫いかなる改正にも反対と言っているわけではない。しかし今日の改正議論は,与党の改正憲法草案などを見てもわかるとおり,安易で粗野だと言いたい。

 

 改正の根拠の1つに「押しつけ」憲法論がある。しかし「押しつけ」論には無理がある。私がそう考える最大の論拠は,「押し付けられた」とされる際の,すなわち昭和21年2月13日外務大臣官邸でのホイットニーGHQ民生局長と松本丞治国務大臣,吉田茂外務大臣の会談でホイットニーが述べた「脅し文句」の内容だ。その「脅し文句」は,「日本国政府が政府案に拘泥するならマッカーサーはマッカーサー草案か政府案かを国民に選択させるつもりだ」というものであった。

原文は次の通り。誤読を避けるためにフレーズ全部を紹介する。

General MacArthur feels that this is the last opportunity for the conservative group, considered by many to be reactionary, to remain in power; that this can only be done by a sharp swing to the left; and that if you accept this Constitution you can be sure that the Supreme Commander will support your position. 

I cannot emphasize too strongly that the acceptance of the draft Constitution is your only hope of survival, and that the Supreme Commander is determined that the people of Japan shall be free to choose between this Constitution and any form of Constitution which does not embody these principles.

http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/077/077tx.html

 この件についてはいつも言うのだが,「直接国民に選ばせるぞ」と言われて「脅された」と感じるのは当の国民ではない。時の政府が,自身が作成した政府案の方が国民の支持を得られると考えたなら,「望むところだ」と答えればいい。そうしなかったのは,政府自身が,国民はマッカーサー草案を支持するに違いないと考えていたからであろう。そんなことになったらとんだ恥さらし,国民の支持も失うだろう。だから,マッカーサーはホイットニーを通じて,この草案受諾を「last opportunity for the conservative group」といい,「if you accept this Constitution you can be sure that the Supreme Commander will support your position.」言っているのである。

 

 押し付けられた者がいるとしたら,「the conservative group(保守派)」であろうが,「Supreme Commander will support your position.」と地位を保証してもらっておきながら後になって「押し付けられた」などと言い出すのは,私から見ればむしろ卑怯な態度だ。

 そもそもわずか1年前に,若者たちに「国のために死ね」と言っていた者たちの中に1人でも,命を賭してマッカーサー草案に反対した者がいたか。そのような主張をしてGHQと断固闘って投獄されたり獄死したりした者がいたか。

 私は半世紀以上も経って,証人のほとんどが息絶えてから,「抵抗できなかった」「押し付けられた」などと言い出す者を,到底信じることができない。

 

 別の根拠に,70年も変わらないのでは時代にそぐわなくなっているだろう,というものがある。しかし私たちは部屋の模様替えをするわけではない。問題にすべきはその理念を変更したり何かを加えたりする必要があるか,ということである。私は,今のところその必要はないと考えている。なぜならわが憲法の基本原理である基本的人権の尊重が,理念のレベルで未だに国民に根付いていないと思うからだ。

 

 改正論者の中にしばしばみられる議論に,憲法のせいで権利ばかり主張する者が増えてきた,というものがある。どうも,自分勝手な人々やわがままな消費者が生まれたのは憲法のせいだと言わんばかりである。けれども,法律を真面目に学んだ者の中では自明のことだが,人権は,基本的には国家や公権力類似のものに対する権利であるし,それゆえに他者の人権を侵さぬ限り最大限尊重されるべきものである。人権について正しく理解していれば,自身の人権を主張するがゆえに他者の人権をないがしろにしていいという考えには至らないはずなのであって,むしろ「行き過ぎた人権意識」などと言う者の方が人権について正しい理解をしていないのではないかと思われる。人権とは,ものすごく大雑把に言えば,国や公的機関から個人の自由を脅かされないことと,人にふさわしい最低限の生活を営むことが可能な援助を国や公的機関から受けることができることからなる。単なる自分勝手やわがままと基本的人権に由来する権利主張とは明確に異なるのである。

 また,10年ほど前にベストセラーになった,数学者が書いた新書に,「憲法には人は平等だと書かれているが,実際には不平等ではないか」という趣旨で憲法を批判している部分があり,呆れたことがあった。現実に不平等が存するからこそ,人の価値は本質において平等なのだと宣言する必要があるのだ。そして,その尊厳において平等に扱われるべきことが謳われているのだ。それをわからぬ者が大勢いるうちは,まだまだ憲法の理念が十分に国民に共有されているとは言えないと思う。

 

 そういうわけで,残念ながら,国民も政府も,未だ憲法が要求するレベルの人権感覚を身に着けるに至っていないというのが私の今の認識だ。憲法を改正するなど,まだ何十年も早い,というのが今の私が思うことだ。
                               (櫻井光政)

2016年2月17日 (水)

パワーハラスメントへの対応(海上自衛官の住宅火災の事件報道を受けて)

 大分県杵築市で昨年7月、木造2階建ての住宅が全焼して子供4人が焼死した火災で、重過失失火と重過失致死傷の罪に問われた父親の第2回公判が行われたとの報道がありました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160215-OYT1T50086.html

 父親は海上自衛官であり、前任地でパワーハラスメントを受けていたことによるストレスから犯行当時精神状態が不安定だったとのことです。

 パワーハラスメントが本当にあったのか、仮にパワーハラスメントがあったとして失火行為との間で本当に結びつきが認められるのかは気になるところです。ただ、事件の背景にパワーハラスメントがあったとするのであれば、とても痛ましく思います。

 男女雇用機会均等法111項で「必要な措置」を講じることが明確に義務付けられているセクハラとは異なり、パワーハラスメントの防止に関して必要な措置を講じることは法令で明示的に求められているわけではありません。

 ただ、労働契約法5条は

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

と明記しています。この法律の趣旨からも、使用者にはパワーハラスメントの防止に取り組む責任があります。

 厚生労働省は平成24130日に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」を公表し、パワーハラスメントの概念の明確化や予防に取り組んできました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000021i2v.html

また、一般向けには「あかるい職場応援団」というホームページを開設し、

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/

パワーハラスメント対策導入マニュアルという文書を配布しています。

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/jinji/download/

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2014_manual.pdf

 個人的には実体把握から具体的な対応まで簡潔で要点を押さえた文書だと思っていますが、残念ながら広く一般に読まれているとまでは言えないように感じられます。

特に従業員数の少ない会社では、パワーハラスメントに関するルール自体がなかったり、ルールはあってもそれを適切に運用できる人がいなくて形骸化したりしていることが多いように思われます。

 企業にとってダメージを受けるような裁判は、概ねが初期対応の誤りに起因します。パワーハラスメントがあったとしても、いきなり従業員から訴訟提起されることは普通ありません。通常は会社の然るべき部署や上司に相談し、それでもどうにもならずに追い詰められて法的手続をとるといった経過をたどります。

 従業員からパワーハラスメントの相談を受けた時、会社や人事労務担当者としては、それが言い掛かりなのか正当な訴えなのかを見極めることが重要です。見極めた上で適切な対応をとるには、ルールの構築だけではなく、その趣旨に従ってルールを運用することも重要です。

 深刻な労務紛争は成長期の会社にしばしば発生します。

 少数の共同経営者だけで事業を回している内は労働条件がどうだとかいった争いはあまり起こりません。しかし、事業が上手く行って従業員が増えていくと、人間関係に起因する色々な問題が発生してきます。これを創業時の乗りや勢いだけで乗り切ろうとすると大抵足元をすくわれます。成長段階に合わせてきちんとルール作りに取り組んで行けるかで、企業のその後は大きく左右されます。

従業員からパワーハラスメントなどの相談を受けたけれどもどうしたらいいか分からない、これまでは法律家との接点がなかったため誰に相談して良いか分からない、そのような場合には、ぜひ当事務所へのご相談をご検討ください。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年2月 8日 (月)

SNSやネットオークションを利用した詐欺

 当事務所ではWEB上で法律相談を受け付けています。

 http://www.sakuragaoka.gr.jp/contact/consult/

その中でSNSやネットオークションで詐欺にあったという方からの相談が多数寄せられています。

 幾つかの変種はありますが、骨組みは大体共通しています。

 先ず、ツイッターなどSNSを介して知り合った方から、コンサートチケットなどを売ってもらうという話になります。

 売り主は買い主に対して「入金が確認されたら商品を発送する。」といいます。

 これに応じて買い主は指示された口座にお金を振り込みます。

 しかし、いつまで経っても目的の商品は送られてきません。

 売り主に問い合わせると、「もう送りました。」などと返信が帰ってきます。

 買い主は食い下がりますが、次第に売り主からの連絡がこなくなって音信不通状態になります。

 ここで買い主が「だまされた!」となります。

 ネットオークションが使われる場合、最初のきっかけの部分がネットオークションになるだけで、後は同じです。

 計画的な詐欺の疑いが濃厚なのですが、この種の詐欺には被害が潜在化しやすい二つの特徴があります。

 一つ目は、被害金額が少ないことです。

 相談事例をみると被害額は押しなべて被害は数万円~十数万円の幅に分布しています。

 悪徳商法一般に言えることですが、悪い人は似たようなことをそこら中でやるので荒稼ぎができます。しかし、個々の被害金額が少額である場合、弁護士を関与させると大抵費用倒れになります。結果、悪徳業者は訴訟リスクを避けながら商売ができることになります。

 二つ目は、相手方の身元が分からないことです。

 訴訟を提起してお金を取り戻すには相手方の氏名・住所が分かっている必要があります。しかし、買い主はSNSを介して知り合っただけの売り主やネットオークションの出品者の身元までは分からないのが普通です。弁護士会を通じて照会するなどの方法で送金先預金口座や電話番号の主まで突き止められることは珍しくありませんが、他人名義の不正に作られた口座や電話が使われていた場合、弁護士であったとしても犯人の氏名・住所を特定するのは困難です。このことも被害が潜在化したまま拡散することに拍車をかけます。

 経済的に割に合わないことを承知した上で弁護士に調査・訴訟を依頼するのも一つの方法だと思います。

ただ、こうした問題に対しては、被害の相談や届出をしたり、告訴したりするなどの方法で警察に対応を求めるのが最も現実的な対応ではないかと思います。犯人が捕まれば、それが被害弁償に繋がることもあるからです。

 この種の事件は単なる債務不履行との区別がつきにくいので、警察としても慎重な対応をとることが珍しくありません。しかし、同じアドレス、同じ預金口座を利用して被害に遭ったという情報が何件も集まれば、それは警察の方に動いてもらうための原動力になります。

告訴には一定のハードルがありますが、当事務所では告訴状の作成などの書類作成業務も行っています。同種の被害に遭い、告訴等をお考えの方は事件としてのご依頼もご検討ください。

(師子角 允彬)

 

2015年12月28日 (月)

 「裁判で負けたことがない弁護士」「無敗の弁護士」は優秀なのか?

 民事訴訟の判決文を偽造して顧客に渡した弁護士の第一回公判が大阪地裁で行われました。検察側の主張によると、偽造したのは「敗訴がないという自身の経歴に汚点がつくと考えた」からとのことです。

 http://www.yomiuri.co.jp/national/20151221-OYT1T50077.html

 「敗訴したことがない弁護士」「無敗の弁護士」といった言葉の受け取り方は法律家とそうでない方とで懸隔があるように思われます。

 普段あまり弁護士と接点のない方の中には「裁判で負けたことがない」といった宣伝文句から「優秀だからそうなのだろう」という印象を持つ方もいるかも知れません。

 しかし、おそらく多くの弁護士は「敗訴したことがない」という宣伝文句を聞いた時、「余程簡単な事件ばかりやっているのか、裁判の経験自体が殆どないのか、どちらかだろうな。」という冷めた印象を持つのではないかと思います。

 事件には、①誰がやっても勝訴する可能性の高い事案、②勝てるか負けるか予測がつきにくい事案、③誰がやっても敗訴する可能性の高い事案、の三つの類型があります。

 ①の類型は右から左に書類を流しているだけで簡単に勝てます。さしたる論点もない過払金の返還請求訴訟などが典型です。このような事件ばかりやっていれば、確かに負け知らずの弁護士が出来上がると思います。しかし、実力をつけるという意味では幾らやっても仕方がありません。

 私自身の個人的な経験に照らすと、弁護士の実力は、②、③の類型にどれだけ真剣に取り組んできたかによって差がつくように思われます。

 勝つか負けるか分からない勝負で勝とうと思った場合、事実を丁寧に調査したり、法令・判例を徹底的に調査したりして、文字通り全力で争わなければなりません。

 また、誰がやっても敗訴する可能性が高い事案でも、10負けるのか5負けるのかといった差はあります。追い打ちを受けるような負け方か、将来に禍根を残さないような負け方かといった点も重要です。敗訴する可能性の高い事案は依頼人の側に弱点になるような事実があることも多く、どうすれば傷を最小限に抑えられるのかには相当神経を使います。

 ②、③で研鑽を重ねていると、事実関係を漏れなく聴き取る能力が向上したり、法律や判例の知識が増えたり、土壇場でも活路を見出す思考の柔軟性が培われたりします。ただ、見通しのつきにくい事件で勝負をしているため、どれだけ一生懸命やっていても、ある程度敗訴判決を受けて土がつくことは避けられません。

 私から見て優秀な弁護士は、②や③の事件から逃げることはありません。敗訴する可能性の高い事案であったとしても、見通しを話した上で依頼人が事件を委ねてくれるのであれば、必死になって、勝訴の可能性を広げるための方法や、より依頼者の利益に資する負け方を考えています。

 テレビドラマの中であればともかく、現実の世界で無敗の経歴は弁護士としての実力を図る尺度にはならないと思います。弁護士を探す時の参考の一助になれば幸いです。

(師子角允彬)

2015年8月20日 (木)

お墓の承継者は誰か?いない場合どうするの

少子高齢化社会、核家族化の影響でしょうか。死後事務やお墓に関する相談を受ける機会が多いように思います。今回はお墓の承継に関してよくある悩みをとりあげます。

●お墓の承継者は誰か?
 お墓という性質上、それを建てた方や管理している方自身がそこに入ることが多いですが、その後誰がそれを引き継ぐのかという問題が常に生じます。生前お墓守をしていても自分自身が入った後に誰も引き継いでくれなければ意味がありません。

 この点、民法では以下の通り規定されています。
民法897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

1項にある「前条」とは、民法896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」ですから、お墓の承継は相続の対象となるわけではないということです。
もっとも、民法897条1項の後段でも示されているように、被相続人が指定できるとあるので、その限りでは相続に近い部分もあるといえます。それ故に遺言書において「祭祀承継者は〇〇〇とする」と記載する例も多くあります。問題はそのような指定がない場合ですが、民法は「慣習に従って」としています。
「慣習」?何だそれは?と思われる方もいるかもしれません。確かに曖昧です。慣習は文字通り慣習なので、何かに明記されたルールとは異なります。家や土地にもよりますが、いわば何となく代々行ってきた例にのっとりましょうというということです。実際何となく長男、何となく名前を継いでいる親族という家が多いように思います。
ただ、お墓を承継するということはお墓の管理方法について決定する権利を持つということでもありますが、管理費を支払ったり、事実上お寺などから求められるお布施を負担したり、法要をとりしきる負担も負う(お墓の承継者の絶対的義務というわけではないですが)ということです。それに見合う経済的精神的余裕がない方が承継したとしても十分にお墓を守れないということも生じ得ます。その意味でも、できれば被相続人が生前に諸々のバランスを考えて承継者を指定しておくというのがよいでしょう。

●お墓の承継者がいない場合はどうするの?
被相続人の指定や慣習により、承継者が決まればいいですが、現実には子供がいない、いても経済的・物理的に無理、その他諸事情により承継する者がいないということは珍しくありません。民法897条で家庭裁判所が定めるともありますが、承継しようとする者が誰もいない時に職権で決めてくれるわけでもありません。管理の負担を強いることは誰にもできないのです。
この場合、お墓がどうなるのかについては、墓地や霊園の規則によることになります。多くの場合は無縁仏として整理され、最終的にはお墓も撤去され、合葬(共同墓地に入るなど)されることになるでしょう。縁故者(例えば友人など)の立場で、それは忍びないということで、承継を名乗り出ることもできますが、墓地や霊園によっては親族でないことを理由に容易に承諾しないこともあります。いずれにしても交渉が必要です。
また、古いお寺や墓地によっては、そのような規則がないこともあります。その場合はまた「慣習」という曖昧なもので運用されることになりますが、やはり最終的には墓が撤去され、合葬されることが多いでしょう。
ただ、お寺や墓地側としては、この場合お墓の整理、すなわち改葬となるので、墓地、埋葬等に関する法律施行規則第3条に従い、縁故者などに対して、1年以内に申し出るべき旨を官報に掲載するなど所定の手続きを経た上で、自治体の許可を得なければなりません。いうまでもなくこれはお寺や墓地などにとっては負担です。それ故に承継者がどのような人か、きちんと管理してくれるのか、その後はどうなのかということが大きな関心事になってくるわけです。
今は、予め将来に向けた永代供養や合祀の約束をしておく、共同墓地に最初から入れる、負担を軽くするためにロッカー式の納骨堂を利用する等、供養の仕方も多様になっています。無縁になってしまう前に、供養する側とされる側でコミュニケーションをとり、お互いが安心できるような方法について話し合いをすることが何より大事です。

(亀井真紀)

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2015年8月19日 (水)

障害者支援施設

最近、立て続けに、障害を持った方のご相談を受けています。正確にはご家族の方からとなります。

 現在の法律では、障害を持った18歳以下の児童については、児童福祉法の適用があり、福祉型障害児入所施設に入所し、18歳以上の障害を持った方は、障害者総合支援法に基づく生活介護及び施設入所支援による入所となります。

 ただ、この法律の適用が年齢によって変わるということは、子供のときから障害を発症して、長く施設に入所している方に取っては、とても分りにくく困惑するものになっています。

 ご相談に見えた二件とも、お子様は、もう既に30歳を超えておられます。子供の頃には、親のコントロールが可能であったものが、もう身体も大きくなり、力も強くなり、親が押さえることが出来なくなっています。 知的障害は、改善することもあるようですが、悪化するときには、保護者が自宅で面倒を見ることは不可能な状態になることが多いようです。

 ところが、現在のようになったのは、平成24年4月1日施行の法改正によるものなのですが、それまでは、児童のうちに施設に入所していれば、そのまま成年になっても、同じ施設に入所を継続していられたものが、法改正によって、18歳を超えたら、福祉型障害児入所施設を出て、障害者支援施設を探して移らなければならないことになりました。

 このことにより、保護者は新たな悩みを抱えることになりました。高齢者支援施設でも起きている問題がここでも発生しています。18歳になってあらたな障害者支援施設を探しても、どこの障害者支援施設も希望者であふれ、なかなか入れる施設が見つかりません。

 さすがに次の施設が見つからないときでもすぐに追い出されることは無いようですが、平成30年3月31日には、経過措置の期限が来ます。

その期限が来ても入れる施設が見つからないときには、どうしたらいいのでしょう。

 保護者や障害を持った方たちは、追い詰められています。

 このように施設に置いて貰えなくなるかもしれないという心理状態の中では、預かって貰うだけで有り難いという気持ちになり、施設の支援の仕方について、不服をいうことはなかなか出来ないものです。

 多少の怪我、多少のミスについて、施設に文句を言う人は、本当に少ないのだと聞きました。

 でも、お話しを聞く限り、施設が完璧な支援、介護を行なっているとは思えないケースがあり、それでもやれる限りはやってますという専門家とは思えない言葉が返って来ます。「何回言っても言うことを聞かないのです。」って、彼に理解する能力はあったかな、

 誰かが勇気を持って訴えることをしなければ、障害者支援施設の改善は期待できないのではないかと相談者は言います。

 そのとおりだと思います。でも、七生福祉園溺死事件を見ても、施設および施設職員がどうあるべきだったのかの立証は、なかなか専門外の者には難しそうです。またまた勉強の日々が続きます。

 ちなみに、当職の近況と映像が下記に載っています。
  よろしければ、どうぞ見てください。
   

http://www.bengo4.com/other/1146/1305/n_3344/


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