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弁護士コラム

2026年2月16日 (月)

LINEヤフー社に対する弁護士会照会について(通報機能を活用したアカウント特定)

投資詐欺やマッチングアプリでのトラブルなど、LINEを通じた被害のご相談をよく受けます。以前は、LINEヤフー社が「弁護士会照会(弁護士が調査のために情報を求める手続き)」に対してなかなか情報開示をしてくれず、私たち弁護士ももどかしい思いをすることが多くありました。

しかし、近時LINEヤフー社側が弁護士会照会への対応を変えたため、通報機能を正しく使うことで、相手の情報を特定できる可能性が広がりました。

これまで、SNS事業者は通信の秘密やプライバシーの観点から、裁判所を通さない情報開示には非常に消極的でした。特にLINEは、氏名や住所を登録せずに利用できるため、被害者が相手のLINEしか連絡先を知らない場合、調査が完全に行き詰まってしまうことが少なくなかったのです。

これに対し、弁護士会からもSNS事業者の対応について、「被害回復の大きな障害になっている」と強い意見が出されていました。

しかし、昨年末以降、現在は、前述の通りLINEヤフー社側が弁護士会照会への対応を変えたため、LINEの通報機能をきっかけにして、弁護士会照会で相手の電話番号を確認できるようになりました。

「通報しても無視されるだけじゃないの?」と思われるかもしれませんが、この手続きにおいて「通報」は、特定のアカウントをシステム上で一意に特定するための重要な目印になるのです。

もしあなたがトラブルに巻き込まれたら、弁護士に相談する前に以下の準備をしておいてください。これがあるだけで、その後の手続きがスムーズになります。

LINEアプリを最新版にする

まずは、ご自身のLINEを最新の状態にアップデートしてください。

・「プロフィール画面」から通報する

必ず相手の「プロフィール画面」にあるメニューから通報してください。

・通報した「日時」と「回数」をメモする

これが最も重要です。

通報した正確な時刻(分単位)と、何回通報したかを記録してください (〇〇〇〇年〇〇月〇〇日 1520分に1回、など)。通報画面のスクリーンショットを撮っておくのが一番確実です。

弁護士会照会により、相手の電話番号が判明すれば、そこから相手の氏名・住所等が判明する可能性が出てきます。ただ、時間が経つと情報が削除されてしまい、調査ができない可能性が高くなりますので、「怪しい」と思ったら早めに弁護士に相談されることをお勧めいたします。

(大窪和久)

2025年8月22日 (金)

身柄拘束された家族に会えなくなる「接見禁止」という壁に楔を入れた最高裁の判断について

 まず、想像してみてください。

 ある日突然、ご家族が逮捕されたとします。心配で、一刻も早く顔を見て、励ましたいと思うのは当然の気持ちですよね。

 しかし、逮捕された直後は、たとえ家族であっても面会することはできません。さらに、その後の勾留段階で、裁判所から「接見禁止」という決定が出されることがあります。

 これは、文字通り「弁護士以外、誰とも会ってはいけません」という厳しい命令です。面会はもちろん、手紙のやり取りさえも禁止されてしまいます。

 なぜ、こんなにも厳しい処分があるのでしょうか。

 表向きの理由は、「罪の証拠を隠したり、関係者と口裏を合わせたりするのを防ぐため」とされています。

 しかし、これまでの刑事事件の実務では、本人が「私はやっていません」と容疑を否認しているだけで、「証拠隠滅の可能性がある」と非常に広く解釈され、半ば自動的に接見禁止が認められてしまう傾向が長年続いてきました。私が担当した否認事件でも、例外なく接見禁止が付けられており、勾留による身柄拘束がつづいている間、弁護人以外だれとも話すことができない状態にされてしまっていました。

 たった一人、社会から完全に隔離され、連日の取り調べを受けるご本人の孤独と不安は計り知れません。ご家族からの励ましという、一番の心の支えを断たれてしまうのです。このような過酷な状況が、時に無実の人を追い詰め、虚偽の自白を生む温床となってきました。

 

 そんな長年の慣行に、最高裁判所が「待った」をかける判断を行いました(令和7年8月14日 最高裁第三小法廷決定)。

 今回、最高裁が判断した事件は、盗撮の未遂という、比較的単純なものでした。逮捕された方は容疑を否認していました。そして、これまで通例だったように、地方の裁判所は「否認しているから、証拠隠滅のおそれがある」として、接見禁止を認めたのです 。

 しかし、最高裁判所は、この判断を「おかしい」と明確に指摘し、取り消しました。

 その理由は、非常にシンプルかつ力強いものでした。

「被疑者が否認しているとしても、勾留に加えて接見まで禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがえない。それでも証拠隠滅の『現実的なおそれ』があるというなら、その具体的な事情をきちんと指摘しなさい」

 これは、私たち弁護士にとって、そして何より、突然の不幸に見舞われた方々にとって、本当に大きな意味を持つ判断です。

 これまで捜査機関や裁判所が「お決まりの理由」として使ってきたカードを、最高裁が無効だと宣言したようなものです。これからは、単に「否認している」というだけでは接見禁止は認められにくくなります。裁判所は、なぜ家族と会わせると捜査に支障が出るのか、その具体的な根拠を真剣に審査し、説明する責任を負うことになったのです。

 私たち弁護士は、これまでも不当な接見禁止に対して「準抗告」という不服申し立てを行ってきました。しかし、その声が認められるのは簡単ではありませんでした。今回の最高裁の判断は、私たちが「この接見禁止はおかしい!」と主張するための、何より強力な武器になります。

 

 今回の最高裁の判断は、刑事司法が、より個人の権利に配慮した、公正な方向へと進むための大きな一歩です。しかし、その権利を現実に手にするためには、声を上げることが必要です。もし、あなたの大切な人の身に「もしも」のことが起きて、身柄拘束されてしまった場合には、すぐに弁護士に相談してください。

(弁護士 大窪和久)

2025年6月26日 (木)

「諦めないで?」は危険!仮想通貨詐欺の「二次被害」と追跡業者の実態

 今回は、仮想通貨(暗号資産)を使った詐欺の被害に遭ってしまった際に皆様が陥りがちな「二次被害」の危険性について、お伝えしたいと思います。

 近年、SNS型投資詐欺や国際ロマンス詐欺といった手口で、仮想通貨を用いた被害が激増しています。マッチングアプリやSNSのダイレクトメッセージから誘われ、海外の投資サイトへ誘導され、気づけば多額の仮想通貨を送金してしまったというお話を伺うたびに、皆様の悔しさや絶望感を想像せずにはいられません。

 では、なぜ仮想通貨詐欺での資金回収は、これほどまでに困難なのでしょうか?その理由は次の通りです。

1 送金先アドレスの情報不足

 ビットコイン(BTC)などの仮想通貨は、ブロックチェーン上で送金履歴を追跡できます。どこに送金されたか、その先のアドレスは見えるのです。しかし、そのアドレスの持ち主が誰なのか、その先のアドレスを誰が管理しているのか、といった個人情報はブロックチェーン上からは判明しません。特に、「アンホステッドウォレット」と呼ばれる、特定の交換業者に紐づかないウォレットの管理者を特定することはできないのです。

2 海外の暗号資産交換業者による非協力

 ほとんどの場合、皆様が送金した仮想通貨は、最終的に海外の暗号資産交換業者のウォレットにたどり着くことが判明します。しかし、海外の交換所は、口座の凍結や送金先名義の開示に協力してくれないのが実情です。たとえ「この仮想通貨は詐欺で得たものだ」という確固たる証拠があったとしても、海外の壁は非常に高いのです。日本の弁護士が交渉や訴訟手続きを駆使しても、救済は極めて困難な状況にあります。さらに残念なことに、巨額の詐欺被害金が特定の海外暗号資産交換所に送金されているにもかかわらず、その国内のグループ会社も被害回復に協力しない実態が報告されています。これは、私たち弁護士としても、非常に歯がゆい問題です。

 このような厳しい現実から、東京弁護士会の「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点2」や、東京投資被害弁護士研究会の「国際ロマンス詐欺に関するお知らせ&2次被害にご注意下さい」でも指摘されている通り、仮想通貨での送金の類型では、被害が回復された、つまり、金銭を回収できた事例について、一件も報告がありません。これは、皆様に希望のないことを告げているように聞こえるかもしれませんが、これが現時点での「事実」であり、皆様が無駄な費用や時間を使ってさらなる二次被害に遭わないために、まず知っていただきたい重要な点なのです。

 「失ったお金を何とか取り戻したい」そう思うのは当然のことです。そんな皆様の藁にもすがる思いに付け込み、最近は「仮想通貨詐欺の追跡業者」と称する事業者が多数見受けられます。追跡業者は「諦めないでください」「返金の可能性が高くなります」といった言葉で、徹底的な追跡や法的書類の作成を謳いますが、現時点での回収の困難性を踏まえると、これは「誇大又は過度な期待を抱かせる広告」に該当する可能性が極めて高いと考えられます。

 また、追跡業者は、彼らは「特定調査」や「商品の販売価格」として、被害額の数%といった成功報酬的な費用や調査費用を請求します。しかし、実質的な回収が極めて困難な現状において、これらの費用は、回収見込みのない事案に皆様から高額な金銭を支払わせる結果を招きかねません。

 こうした業者に依頼することは、時間とお金を無駄にするだけでなく、皆様の精神的な負担をさらに増大させる「二次被害」につながりかねませんので、ご注意ください。 

 一方で、仮想通貨詐欺のうち、被害金の支払に銀行振込が介在しているケースでは、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配当金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)に基づき、口座凍結などを通じて一定程度の被害回復が可能な場合もあります。仮想通貨による送金とは、その性質が異なるため、対応も変わってきます。ただ、この場合でも、口座の残高はすぐ引き出されるケースが多いため、回収の可能性が高いとは言えません。

 当事務所では、仮想通貨詐欺の相談にあたっては、回収の困難性を含め、現時点での正確な法的見通しをお伝えします。仮に被害金の支払に銀行振込が介在しているケースでも、被害回復が困難であることを、充分にご理解頂いてからの受任とさせていただいております。

(大窪和久)

2025年2月10日 (月)

改正育児介護休業法の施行

2025年は企業法務に関連する様々な分野で、改正法の施行が予定されています。

その中でも企業の人事・労務の分野に大きな影響を与えるのが、4月1日、10月1日の2回に分けて施行される、改正育児介護休業法です。

改正ポイントは多岐にわたるため、詳細は以下の厚生労働省のホームページをご参照いただければと思いますが、主な改正のポイントは次のとおりです。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

 

【4月1日施行】

-育児関係 

 ①子の看護休暇関係(対象となる子の範囲・取得事由の拡大、除外範囲の縮小)

 ②所定外労働(残業)を制限される対象者の拡大

 ③短時間勤務の代替措置としてテレワークの追加

 ④テレワーク導入の努力義務化

 ⑤育児休業取得状況の公表義務対象企業の拡大

 

-介護関係

 ⑥介護休暇関係(除外範囲の縮小)

 ⑦介護離職防止のための雇用環境整備の義務化

 ⑧介護離職防止のための周知・意向確認、情報提供の義務化

 ⑨テレワークの導入の努力義務化

 

【10月1日施行】

-育児関係

 ⑩柔軟な働き方を実現するための措置、個別の周知・意向確認の義務化

 ⑪仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化

 

以上の改正ポイントのうち、⑤育児休業取得状況の公表義務対象企業の拡大以外の項目は、全ての企業が対象とされているため、注意が必要です。

改正法に従えば、対象企業には今後、以下のような対応やその準備が求められます。

①②③④⑥⑨(休暇関係、テレワーク関係)に関しては、会社の就業規則等を見直し、改正法の内容を反映させる必要があります。また、③④⑨(テレワーク関係)では、企業に、テレワークを利用できるような体制を整備することが求められます。

⑦(介護離職防止のための環境整備)では、選択した措置に応じて、介護休業や介護両立支援制度等に関する研修を準備したり、相談窓口を設置したりすることが求められます。

⑧(介護離職防止のための周知・意向確認義務)では、介護に直面した労働者への介護休業や介護両立支援制度等の周知、労働者への意向確認などが求められます。

⑩(柔軟な働き方を実現するための措置等の義務化)では、始業・就業時刻等に関する定めの変更を行う場合、就業規則等にその内容を反映させることが考えられます。

⑪(育児をする労働者への意向確認)では、妊娠・出産の申し出時と、子が3歳になる前までの適切な時期に、労働者に対し、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取を行うこと、それに応じて適切な配慮を行うことが必要となります。

日常の業務もある中で、労働環境整備のために、上述のような多岐にわたる対応を行うことは容易なことではありません。

しかしながら、改正法により求められる環境整備等を実施することは、長い目で見れば、優秀な人材を獲得し、定着させる環境づくり・仕組みづくりに資するものであり、企業にとっても有益であると考えられます。

(櫻井優里)

2025年1月 6日 (月)

疑わしきは被告人の利益に

「疑わしきは被告人の利益に」、「100人の罪人を逃がすとも1人の無辜を罰してはならない」というのは近代以降の刑事裁判の鉄則とされています。これが鉄則とされる理由の一つは、市民の素朴な正義感との間に「ずれ」があるからだと思います。罪人許すまじ、逃すまじという素朴な市民感情は、ややもすると「冤罪はないに越したことはないが、100人の悪党をみすみす見逃すのは困る」、「捜査官のミスを絶対に許さないとしたら十分な捜査を遂げられない」という方向に流れます。だからこそ、近代司法はそれに歯止めをかけるのです。

昨年12月16日、仙台高裁は、令和6年9月に猪苗代湖で起きたプレジャーボートによる業務上過失致死傷の事件において、1審の実刑判決を覆し、無罪の言渡しをしました。この事件は小学生1名が死亡、その母親と、一緒に遊びに来ていた別の家族の小学生が傷害を負うという悲惨な事故だったため、無罪判決に対して一部の人から強い非難が寄せられました。

この無罪判決の全文は、最高裁のホームページで「下級裁判所裁判例速報」に掲載されています。それによれば、衝突地点について十数メートルから数十メートルの誤差がありうること、プレジャーボートの確実な航路を特定できないこと、視認状況についても被害者をたやすく発見できたとは言えないことなどを踏まえたうえで、結果の予見可能性はあったけれど、回避することができなかった具体的な可能性を否定できないとされています。

視認状況については交通事故でもよく争われますが、たやすく視認性ありと認定されてしまう傾向があります。この点本件高裁判決は、視認状況について具体的かつ現実的に考察しています。例えば、「操船者に対して、遠いところで動かない物体のある地点を凝視することを求めることは困難であって、本件事故時は、猪苗代湖上には、水上バイクやトーイングボート等が存在し、A船の近傍には注視を要する現に動いている物体が複数あったのであるからなおさらである。」などの指摘がそれです。(もっともこの点は、道路だけを見ていれば良い自動車交通と、360度見張りをしなければならない海上(湖上)航行との違いもあるでしょう)。
判決はまた、人が任意に遊泳したり、水中に滞留したりしていることは想定し難い場所に、救助を求めるといった動作も、ザップボードへの搭乗待機前に所在していた人の存在を予想させ得る水上バイクやザップボード等が周囲に存在することもないままに滞留していることを想定することは相当に困難が伴うことを勘案しなければならないと指摘しています。

それらを踏まえて「被告人に過失を認めるには合理的な疑いが残るので、本件公訴事実については犯罪の証明がない」として無罪を言渡した本件高裁判決は「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則に忠実な判決だというべきでしょう。

被害が大きな事件では、その被害を発生させた者を許すまじと世論が巻き起こるのも当然でしょう。ただ、そのような場合であればこそ、刑事裁判は鉄則を忘れてはならないのだと思います。私は、丁寧かつ具体的な検討をしたうえで、世論の厳しい反発も覚悟の上で、差戻でもなく、無罪の自判をした仙台高裁の裁判官に敬意を表したいと思います。

(櫻井光政)
 

 

 

 

 

 

2024年12月 9日 (月)

情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)による投稿削除の対応の明確化・透明化について

2024年5月17日に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の改正案が公布され、法律名も特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法)となりました。情報流通プラットフォーム対処法は公布から1年以内の施行と定められていますので、2025年5月までには施行されると見込まれます。

情報流通プラットフォーム対処法への改正の趣旨は、誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対して対応の迅速化、運用状況の透明化にかかる措置を義務づけるというものです。大手SNSや匿名掲示板においてなされた誹謗中傷の投稿について削除請求をしたとしても、削除請求の窓口が分からなかったり、削除請求を行っても何ら回答がなかったりすることがよくあります。また、そもそも投稿削除の基準も明らかにされていないことも多いです。こうした問題に対して改善を図るために法改正がなされています。

情報流通プラットフォーム対処法により、対応の迅速化のための措置として、削除申出窓口の整備公表、削除申出への対応体制の整備、削除申出に対する結果の原則14日以内の通知がなされることとなりました。

また、運用状況の透明化のための措置として、削除基準の策定・公表、削除した場合の投稿者への通知がなされることとなりました。

さらに、情報流通プラットフォーム対処法では、大規模プラットフォーム事業者に対して、運営者の氏名(名称)及び住所、法人の場合には代表者の氏名を届出ることが義務化されました。特に匿名掲示板では運営者の素性すらわからないことがありますが、改正法の届出義務により、運営者は素性を明らかにしなければいけないことになります。

情報流通プラットフォーム対処法の施行により、これまでよりは誹謗中傷に対する対応が改善されることが見込まれます。また、匿名掲示板の運営者の届出義務化により、投稿削除仮処分・訴訟がやりやすくなる可能性もあります。

従前対応してくれなかった誹謗中傷の投稿に対しても、情報流通プラットフォーム対処法の施行後改めて削除請求を行なうのもよいと思います。

(大窪)

2018年6月14日 (木)

スタッフ弁護士になる10の理由(その1)

 最近、法テラスの常勤弁護士(スタッフ弁護士)への志望者が減っているといいます。私はスタッフ弁護士として6年間働いた経験から、ロースクール生や修習生に自信を持って法テラスを就職先としてお勧めします。題して「スタッフ弁護士になる10の理由!」(書きながら自分がスタッフ弁護士に戻りたくてなってきたことはさておき・・・)。

 なお、この4月から私は法テラスの広報・調査室長として働いていますが、以下は法テラスの組織としての見解ではなく、かつまた今の自分の所属先を喧伝するために書くわけでもありません(法テラスを宣伝することが私の今の仕事ではあるのですが、それを措いてもという意味で)。純粋に、元スタッフ弁護士としての私個人の意見です。桜丘で2年間修業した後、2006年に法テラス佐渡を立ち上げて3年半を佐渡で過ごし、その後に那覇へ異動して2年半、合計6年間をスタッフ弁護士として過ごしました。

 那覇の後は、法テラスを辞めてアメリカに留学たり、JICAの長期専門家としてネパールに赴任したりしておりましたが、こちらの話はまた別の機会に。とりあえず、「スタッフ弁護士になる10の理由(その1)」いきます!

 

1 事件に集中できる。

 法テラスの司法過疎対策事務所と、日弁連のひまわり公設事務所の役割は基本的には同じです。私は佐渡にいましたが、佐渡島内の事件をどんな事件でも受けて、地域の司法アクセスを確立することです。異なるのは、法律事務所の「経営」をするかどうか。ひまわり公設に限らず、法律事務所のパートナーになると、事務所の収支はもちろんのこと、雇用主として職員の待遇も考えなければなりません。

 法テラスでは、組織として職員を採用しているため、人事評価に参考意見をつけることを除けば、スタッフ弁護士個人が労使交渉の使用者側になることはありません。事務職員と名実ともに「同士」として、事件に取り組める環境があると言えます。独立し、あるいはひまわりの公設の同期が経営について悩んでいる時に事件処理だけに没頭していた私は、ある意味幸せものでした。

 スタッフ弁護士として働く間、地元の弁護士会の委員会や研修に参加することで、先輩から多くのことを学ぶことができました。ただ、法曹界でよく「事件が人を育てる」と言われるように、依頼者の人生がかかった一つ一つの事件にこそ、最も大きな学びがあります。経営のリスクを負わない以上、事件を数多くこなすことによる経済的な受益こそありませんが、弁護士として事件に集中できる環境はプライスレスです。

 

2 単価の低い事件にも取り組める。

 スタッフ弁護士には一般の弁護士が受け控えてしまうような、時間当たりの単価が低い事件に積極的に取り組むことが期待されています。

 私が経験した「単価の低すぎる事件」の一つには、離婚調停に一年以上かかったものがありました。様々な事情で5年間別居していた高齢者夫婦が、離婚調停の中で、病気や介護、住宅、年金の問題を一つずつ解決し、同居を再開したという事案でした。事件が終了してから暫くしてから、体の不自由な夫の体を妻が支えて事務所を訪ねて下さり、「二人で釣りに行ったんだ!」と魚をくれた時は本当に嬉しかったのを覚えています。

 しかし、常勤弁護士ではなく契約弁護士として事件を受任したいたら、民事法律扶助家事調停の報酬は数万円です。ご本人達が本音で語れるようになるまでの数か月をじっくり付き合えたか。市役所への介護保険の申請に付き合ったり、調停外での夫婦の面談に付き合ったりできたかは疑問です(手弁当を覚悟してやると思うけどね!というのは、今の契約弁護士としての自分に対する宣言)。スタッフ弁護士だったからこそ、とことん付き合って、最後にご夫婦の仲良く並ぶ笑顔を見ることができたのだと思います。

 

3 困難な事件に集中できる。

 さて、ここまで「事件に集中できる」とか言っていませんが、もう一回だけ言います。たまに、「そんなお金にならない事件ばかりやって、弁護士としての力がつくのか?」と言われます。でも、「単価が低い=簡単」ではありません。その多くは、困難さ故に時間がかかり、結果として単価が低くなるものです。

 本来的には困難な事件であれば、その単価があがることが理想なのでしょうが、法テラスの利用者は経済的に困窮しており、民事法律扶助では最終的に利用者本人が弁護士報酬を償還しなければなりません。一方で、国選刑事弁護事件は、報酬計算に係る法テラスの裁量の余地がないようにという弁護士会からの要請から、統一的な基準が作られているため、「例外的な」困難さに対応することができないのが現実です。

 櫻井弁護士から新人の頃に聞かされていたことの一つに、「困難な事件を避けるのはもったいない。困難な事件に真剣に取り組んでこそ力が伸びるし、依頼者からの信頼を勝ち得ることができる。」というものがあります。沖縄では2年半の間に裁判員裁判8件を受けることができました。スタッフ弁護士としての6年間、民事でも刑事でも様々な意味で困難な事件に取り組めたことが、弁護士としての自分の基礎体力を作ったと感じます。

 事件に集中できる環境があり、単価の低く(社会の隅っこで複合的な苦しんでいる人が最も必要とする)、特に困難な事件に取り組むことが期待されている。振り返ってみると、私にとってはとても幸福な時間でした。

 

4 ノーリスクで事務所経営の練習ができる。

 事件に集中できる環境があるとはいえ、事務所の収支が分からない訳ではありません。事件処理にかかる経費はもちろんですが、人件費を含む事務所の固定経費も知ろうとさえすれば、把握することができます。契約弁護士として受任していたら支払われていただろう国選・民事法律扶助事件の報酬は事件毎に分かります。司法過疎事務所であれば、「有償事件」と呼ばれる一般的な弁護士報酬で受任する事件もあります。

 国選・扶助事件だけで収支を合わせることは難しいでしょうが、日々の事務所運営かかる経費を知り、自分がどの程度のボリュームの事件を受けることができるかを知ることは、将来の独立開業する際の貴重なトレーニングになります。一度開業して日々の運転資金を自分で回す前に、「自分の財布から経費を支出する」という痛みなく事務所運営の練習ができるというのはスタッフ弁護士の魅力の一つだと思います。

 少々脱線しますが、「スタッフ弁護士は事件処理経費を『全く』気にしなくていいことが魅力だ!」という人がいます。私は、それは事実ではなく、仮に事実だったとしても「魅力」には当たらないと考えます。確かに、経営者として自分の財布から人件費や固定経費を支出しなければならない開業弁護士に比べれば、経費のことが頭に浮かぶ機会は遥かに少なくて済みます。

 しかし、スタッフ弁護士が受けている事件だからといって、一般弁護士が受任したら出せない経費が支出できる訳ではありませんし、スタッフ弁護士の人件費を含む法テラスの運営費が公費で賄われている以上、コスト意識を持つことは必要です。これは事件の費用対効果を考えるべきと言っている訳ではありません。一回の訪問で済むことが自分の準備不足のために二回目の訪問が必要になってしまうことを避けたり、職員の事務処理がスムーズに進むような工夫をして残業を減らしたりすることで、効率的な事務所運営を行なうことが求められると考えています。ただ、法律事務の独立性があるため、このような細かいことを組織側から言われることは、少なくとも私がスタッフ弁護士をしていた頃はありませんでした。自ら律することで、自分や職員の負担を減らしてワークライフバランスを高めることにも繋がると思います。

 社会人経験のないまま弁護士になった私には、経営者としてのリスクを負う前に事務所運営の練習ができたこと、職員との人間関係学んだことは、とても貴重な経験となりました。

 

2018年5月 1日 (火)

弁護士に依頼するともっとモメる?

1.弁護士に相続を相談するデメリットとして、「もっとモメるかも」という指摘をしている方がいます

http://sozock.com/category56/entry172.html)。

 しかし、所掲のサイトでの指摘は、弁護士業務の実体を誤解しているように思われます。

2.所掲のサイトは「弁護士の場合は、モメればモメるほどお金になるという仕事の性質上、まとまる方向に話が進まない可能性があります。」と指摘しています。

  この点が誤解の出発点であるように思われます。

3.相続問題を扱うようないわゆる町弁が事件を受任する場合、着手金-報酬金という報酬形態をとるのが一般です。

  着手金というのは、「事件の結果に関わらず、最低限、これだけの費用が発生しますよ。」という事件処理の対価のことです。

報酬金というのは、「得られた金銭の何%」といったように、成果に対して発生する費用です。依頼が成功しなければ報酬は発生しないのが普通です。

4.弁護士が事件を受任する場合、先ず、依頼人の依頼の趣旨を確認します。

  その後、依頼人の依頼の趣旨を実現するにあたっての着手金、報酬金の見積もりをします。依頼人が了承すれば、契約書を取り交わし、事件処理に入るという手順をとります。

弁護士が依頼人に見積もりを提示するうえでポイントになるのは、着手金-報酬金方式で契約をする場合、弁護士費用が発生するのが、基本的に事件の着手時と終結時の二回に限られるということです。

半年で事件が解決しようが、事件解決までに10年かかろうが着手金-報酬金の額は変わりません。

  しかし、半年で解決できるか事件解決までに10年かかるかは弁護士にとっては非常に重要な意味を持ちます。

  例えば、着手金30万円の事件でも、半年で解決すれば着手金換算で1か月あたり5万円の利益を生みます。しかし、着手金60万円の事件でも解決までに10年かかれば、1か月あたり着手金換算で5000円の利益しかもたらさないことになります。これではとても経営が成り立ちません。

弁護士業務は、モメればモメるほど金になるどころか、モメればモメるほど利益が薄くなって儲からなくなるというのが実体に近いと思います。

5.セカンドオピニオンや、合い見積もりをとることが珍しくなくなっている東京の市場環境では、過大な着手金を提示すれば、顧客は他所に流れてしまいます。

  そのため、見積もりを提示するにあたっては、依頼の趣旨を実現することの可否だけではなく、発生する労力や紛争解決までに要する期間を正確に見通すことが経営上重要な意味を持ってきます。

  報酬を得るために必要な部分で徹底的に争うのは普通のことです。手を抜くと顧客満足度・評判や技量が落ちるため、予想外の労力が発生するとしても、この点で易きに流れる弁護士は少ないと思います。

  しかし、必要のないところでわざとモメさせようという発想を持っている弁護士は、漫画の世界ではともかく、現実には殆どいないと思います。

  引用元のような記事を見れば、弁護士に事件処理を依頼することで、意味のないモメ事を作られてしまうのではないかというご懸念をお持ちの方が出てくるかも知れませんが、そうした理由で依頼をためらう必要はないと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2017年5月19日 (金)

桜丘釣り同好会

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桜丘法律事務所釣り同好会の活動報告です。

先日の企画は、GWの2日間かけて行われた、勝どきマリーナ主催のフィッシング講習でした。

1日目は釣りのプロによる講習でじっくり座学を行い、2日目は実際にボートで海に出て学んだ知識を実践に活かします。

参加メンバーは、櫻井、大窪、神山(昌)、馬場(新人)の4名。

4名のうち釣り経験者は櫻井のみで、他3名はほぼ初心者。

普段は頼もしい権利の守り手たちも、釣竿を目の前にてんやわんやの様子。

1日目は釣りのプロから優しい手ほどきを受け、全員何とか釣り具の役割や魚たちの生態について理解することができました。

2日目は本番。メンバー達は目当てのシーバスを釣り上げに東京湾へと繰り出します。

波にもまれ、川崎港付近まで来たところで、ポイントを探し、実践編がスタートしました。

ルアーが消波ブロックに引っかかったり、釣り糸が切れたりと、トラブルに見舞われながらも、メンバーたちは竿を振ります。

開始から1時間ほど経ったころ、新人の馬場が50センチほどもあろうかというシーバス(スズキ)を釣り上げました。

桜丘では、普段の仕事はもちろん、同好会においても教育を欠かしません。

釣り2回目の新人が成果を出すことができたのも、日ごろの教育の賜物といえるでしょう。

GWもとうに終わり、忙しい日々に戻りました。

次は仕事で大きな成果を上げるべく、日々汗を流します。

(馬場)

2017年5月 3日 (水)

憲法記念日に思うこと

憲法記念日に思うこと

 

 日本国憲法が施行されて満70年を迎えた。基本的人権の尊重を軸に国民主権と平和主義を高らかに謳うわが憲法は,今なおわが国が進むべき道を示し続けていると思う。

 またそれだけに,安易で粗野な憲法改正の議論には反対である。未来永劫いかなる改正にも反対と言っているわけではない。しかし今日の改正議論は,与党の改正憲法草案などを見てもわかるとおり,安易で粗野だと言いたい。

 

 改正の根拠の1つに「押しつけ」憲法論がある。しかし「押しつけ」論には無理がある。私がそう考える最大の論拠は,「押し付けられた」とされる際の,すなわち昭和21年2月13日外務大臣官邸でのホイットニーGHQ民生局長と松本丞治国務大臣,吉田茂外務大臣の会談でホイットニーが述べた「脅し文句」の内容だ。その「脅し文句」は,「日本国政府が政府案に拘泥するならマッカーサーはマッカーサー草案か政府案かを国民に選択させるつもりだ」というものであった。

原文は次の通り。誤読を避けるためにフレーズ全部を紹介する。

General MacArthur feels that this is the last opportunity for the conservative group, considered by many to be reactionary, to remain in power; that this can only be done by a sharp swing to the left; and that if you accept this Constitution you can be sure that the Supreme Commander will support your position. 

I cannot emphasize too strongly that the acceptance of the draft Constitution is your only hope of survival, and that the Supreme Commander is determined that the people of Japan shall be free to choose between this Constitution and any form of Constitution which does not embody these principles.

http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/077/077tx.html

 この件についてはいつも言うのだが,「直接国民に選ばせるぞ」と言われて「脅された」と感じるのは当の国民ではない。時の政府が,自身が作成した政府案の方が国民の支持を得られると考えたなら,「望むところだ」と答えればいい。そうしなかったのは,政府自身が,国民はマッカーサー草案を支持するに違いないと考えていたからであろう。そんなことになったらとんだ恥さらし,国民の支持も失うだろう。だから,マッカーサーはホイットニーを通じて,この草案受諾を「last opportunity for the conservative group」といい,「if you accept this Constitution you can be sure that the Supreme Commander will support your position.」言っているのである。

 

 押し付けられた者がいるとしたら,「the conservative group(保守派)」であろうが,「Supreme Commander will support your position.」と地位を保証してもらっておきながら後になって「押し付けられた」などと言い出すのは,私から見ればむしろ卑怯な態度だ。

 そもそもわずか1年前に,若者たちに「国のために死ね」と言っていた者たちの中に1人でも,命を賭してマッカーサー草案に反対した者がいたか。そのような主張をしてGHQと断固闘って投獄されたり獄死したりした者がいたか。

 私は半世紀以上も経って,証人のほとんどが息絶えてから,「抵抗できなかった」「押し付けられた」などと言い出す者を,到底信じることができない。

 

 別の根拠に,70年も変わらないのでは時代にそぐわなくなっているだろう,というものがある。しかし私たちは部屋の模様替えをするわけではない。問題にすべきはその理念を変更したり何かを加えたりする必要があるか,ということである。私は,今のところその必要はないと考えている。なぜならわが憲法の基本原理である基本的人権の尊重が,理念のレベルで未だに国民に根付いていないと思うからだ。

 

 改正論者の中にしばしばみられる議論に,憲法のせいで権利ばかり主張する者が増えてきた,というものがある。どうも,自分勝手な人々やわがままな消費者が生まれたのは憲法のせいだと言わんばかりである。けれども,法律を真面目に学んだ者の中では自明のことだが,人権は,基本的には国家や公権力類似のものに対する権利であるし,それゆえに他者の人権を侵さぬ限り最大限尊重されるべきものである。人権について正しく理解していれば,自身の人権を主張するがゆえに他者の人権をないがしろにしていいという考えには至らないはずなのであって,むしろ「行き過ぎた人権意識」などと言う者の方が人権について正しい理解をしていないのではないかと思われる。人権とは,ものすごく大雑把に言えば,国や公的機関から個人の自由を脅かされないことと,人にふさわしい最低限の生活を営むことが可能な援助を国や公的機関から受けることができることからなる。単なる自分勝手やわがままと基本的人権に由来する権利主張とは明確に異なるのである。

 また,10年ほど前にベストセラーになった,数学者が書いた新書に,「憲法には人は平等だと書かれているが,実際には不平等ではないか」という趣旨で憲法を批判している部分があり,呆れたことがあった。現実に不平等が存するからこそ,人の価値は本質において平等なのだと宣言する必要があるのだ。そして,その尊厳において平等に扱われるべきことが謳われているのだ。それをわからぬ者が大勢いるうちは,まだまだ憲法の理念が十分に国民に共有されているとは言えないと思う。

 

 そういうわけで,残念ながら,国民も政府も,未だ憲法が要求するレベルの人権感覚を身に着けるに至っていないというのが私の今の認識だ。憲法を改正するなど,まだ何十年も早い,というのが今の私が思うことだ。
                               (櫻井光政)

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