弁護士コラム

2016年2月17日 (水)

パワーハラスメントへの対応(海上自衛官の住宅火災の事件報道を受けて)

 大分県杵築市で昨年7月、木造2階建ての住宅が全焼して子供4人が焼死した火災で、重過失失火と重過失致死傷の罪に問われた父親の第2回公判が行われたとの報道がありました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160215-OYT1T50086.html

 父親は海上自衛官であり、前任地でパワーハラスメントを受けていたことによるストレスから犯行当時精神状態が不安定だったとのことです。

 パワーハラスメントが本当にあったのか、仮にパワーハラスメントがあったとして失火行為との間で本当に結びつきが認められるのかは気になるところです。ただ、事件の背景にパワーハラスメントがあったとするのであれば、とても痛ましく思います。

 男女雇用機会均等法111項で「必要な措置」を講じることが明確に義務付けられているセクハラとは異なり、パワーハラスメントの防止に関して必要な措置を講じることは法令で明示的に求められているわけではありません。

 ただ、労働契約法5条は

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

と明記しています。この法律の趣旨からも、使用者にはパワーハラスメントの防止に取り組む責任があります。

 厚生労働省は平成24130日に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」を公表し、パワーハラスメントの概念の明確化や予防に取り組んできました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000021i2v.html

また、一般向けには「あかるい職場応援団」というホームページを開設し、

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/

パワーハラスメント対策導入マニュアルという文書を配布しています。

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/jinji/download/

http://no-pawahara.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2014_manual.pdf

 個人的には実体把握から具体的な対応まで簡潔で要点を押さえた文書だと思っていますが、残念ながら広く一般に読まれているとまでは言えないように感じられます。

特に従業員数の少ない会社では、パワーハラスメントに関するルール自体がなかったり、ルールはあってもそれを適切に運用できる人がいなくて形骸化したりしていることが多いように思われます。

 企業にとってダメージを受けるような裁判は、概ねが初期対応の誤りに起因します。パワーハラスメントがあったとしても、いきなり従業員から訴訟提起されることは普通ありません。通常は会社の然るべき部署や上司に相談し、それでもどうにもならずに追い詰められて法的手続をとるといった経過をたどります。

 従業員からパワーハラスメントの相談を受けた時、会社や人事労務担当者としては、それが言い掛かりなのか正当な訴えなのかを見極めることが重要です。見極めた上で適切な対応をとるには、ルールの構築だけではなく、その趣旨に従ってルールを運用することも重要です。

 深刻な労務紛争は成長期の会社にしばしば発生します。

 少数の共同経営者だけで事業を回している内は労働条件がどうだとかいった争いはあまり起こりません。しかし、事業が上手く行って従業員が増えていくと、人間関係に起因する色々な問題が発生してきます。これを創業時の乗りや勢いだけで乗り切ろうとすると大抵足元をすくわれます。成長段階に合わせてきちんとルール作りに取り組んで行けるかで、企業のその後は大きく左右されます。

従業員からパワーハラスメントなどの相談を受けたけれどもどうしたらいいか分からない、これまでは法律家との接点がなかったため誰に相談して良いか分からない、そのような場合には、ぜひ当事務所へのご相談をご検討ください。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年2月 8日 (月)

SNSやネットオークションを利用した詐欺

 当事務所ではWEB上で法律相談を受け付けています。

 http://www.sakuragaoka.gr.jp/contact/consult/

その中でSNSやネットオークションで詐欺にあったという方からの相談が多数寄せられています。

 幾つかの変種はありますが、骨組みは大体共通しています。

 先ず、ツイッターなどSNSを介して知り合った方から、コンサートチケットなどを売ってもらうという話になります。

 売り主は買い主に対して「入金が確認されたら商品を発送する。」といいます。

 これに応じて買い主は指示された口座にお金を振り込みます。

 しかし、いつまで経っても目的の商品は送られてきません。

 売り主に問い合わせると、「もう送りました。」などと返信が帰ってきます。

 買い主は食い下がりますが、次第に売り主からの連絡がこなくなって音信不通状態になります。

 ここで買い主が「だまされた!」となります。

 ネットオークションが使われる場合、最初のきっかけの部分がネットオークションになるだけで、後は同じです。

 計画的な詐欺の疑いが濃厚なのですが、この種の詐欺には被害が潜在化しやすい二つの特徴があります。

 一つ目は、被害金額が少ないことです。

 相談事例をみると被害額は押しなべて被害は数万円~十数万円の幅に分布しています。

 悪徳商法一般に言えることですが、悪い人は似たようなことをそこら中でやるので荒稼ぎができます。しかし、個々の被害金額が少額である場合、弁護士を関与させると大抵費用倒れになります。結果、悪徳業者は訴訟リスクを避けながら商売ができることになります。

 二つ目は、相手方の身元が分からないことです。

 訴訟を提起してお金を取り戻すには相手方の氏名・住所が分かっている必要があります。しかし、買い主はSNSを介して知り合っただけの売り主やネットオークションの出品者の身元までは分からないのが普通です。弁護士会を通じて照会するなどの方法で送金先預金口座や電話番号の主まで突き止められることは珍しくありませんが、他人名義の不正に作られた口座や電話が使われていた場合、弁護士であったとしても犯人の氏名・住所を特定するのは困難です。このことも被害が潜在化したまま拡散することに拍車をかけます。

 経済的に割に合わないことを承知した上で弁護士に調査・訴訟を依頼するのも一つの方法だと思います。

ただ、こうした問題に対しては、被害の相談や届出をしたり、告訴したりするなどの方法で警察に対応を求めるのが最も現実的な対応ではないかと思います。犯人が捕まれば、それが被害弁償に繋がることもあるからです。

 この種の事件は単なる債務不履行との区別がつきにくいので、警察としても慎重な対応をとることが珍しくありません。しかし、同じアドレス、同じ預金口座を利用して被害に遭ったという情報が何件も集まれば、それは警察の方に動いてもらうための原動力になります。

告訴には一定のハードルがありますが、当事務所では告訴状の作成などの書類作成業務も行っています。同種の被害に遭い、告訴等をお考えの方は事件としてのご依頼もご検討ください。

(師子角 允彬)

 

2015年12月28日 (月)

 「裁判で負けたことがない弁護士」「無敗の弁護士」は優秀なのか?

 民事訴訟の判決文を偽造して顧客に渡した弁護士の第一回公判が大阪地裁で行われました。検察側の主張によると、偽造したのは「敗訴がないという自身の経歴に汚点がつくと考えた」からとのことです。

 http://www.yomiuri.co.jp/national/20151221-OYT1T50077.html

 「敗訴したことがない弁護士」「無敗の弁護士」といった言葉の受け取り方は法律家とそうでない方とで懸隔があるように思われます。

 普段あまり弁護士と接点のない方の中には「裁判で負けたことがない」といった宣伝文句から「優秀だからそうなのだろう」という印象を持つ方もいるかも知れません。

 しかし、おそらく多くの弁護士は「敗訴したことがない」という宣伝文句を聞いた時、「余程簡単な事件ばかりやっているのか、裁判の経験自体が殆どないのか、どちらかだろうな。」という冷めた印象を持つのではないかと思います。

 事件には、①誰がやっても勝訴する可能性の高い事案、②勝てるか負けるか予測がつきにくい事案、③誰がやっても敗訴する可能性の高い事案、の三つの類型があります。

 ①の類型は右から左に書類を流しているだけで簡単に勝てます。さしたる論点もない過払金の返還請求訴訟などが典型です。このような事件ばかりやっていれば、確かに負け知らずの弁護士が出来上がると思います。しかし、実力をつけるという意味では幾らやっても仕方がありません。

 私自身の個人的な経験に照らすと、弁護士の実力は、②、③の類型にどれだけ真剣に取り組んできたかによって差がつくように思われます。

 勝つか負けるか分からない勝負で勝とうと思った場合、事実を丁寧に調査したり、法令・判例を徹底的に調査したりして、文字通り全力で争わなければなりません。

 また、誰がやっても敗訴する可能性が高い事案でも、10負けるのか5負けるのかといった差はあります。追い打ちを受けるような負け方か、将来に禍根を残さないような負け方かといった点も重要です。敗訴する可能性の高い事案は依頼人の側に弱点になるような事実があることも多く、どうすれば傷を最小限に抑えられるのかには相当神経を使います。

 ②、③で研鑽を重ねていると、事実関係を漏れなく聴き取る能力が向上したり、法律や判例の知識が増えたり、土壇場でも活路を見出す思考の柔軟性が培われたりします。ただ、見通しのつきにくい事件で勝負をしているため、どれだけ一生懸命やっていても、ある程度敗訴判決を受けて土がつくことは避けられません。

 私から見て優秀な弁護士は、②や③の事件から逃げることはありません。敗訴する可能性の高い事案であったとしても、見通しを話した上で依頼人が事件を委ねてくれるのであれば、必死になって、勝訴の可能性を広げるための方法や、より依頼者の利益に資する負け方を考えています。

 テレビドラマの中であればともかく、現実の世界で無敗の経歴は弁護士としての実力を図る尺度にはならないと思います。弁護士を探す時の参考の一助になれば幸いです。

(師子角允彬)

2015年8月20日 (木)

お墓の承継者は誰か?いない場合どうするの

少子高齢化社会、核家族化の影響でしょうか。死後事務やお墓に関する相談を受ける機会が多いように思います。今回はお墓の承継に関してよくある悩みをとりあげます。

●お墓の承継者は誰か?
 お墓という性質上、それを建てた方や管理している方自身がそこに入ることが多いですが、その後誰がそれを引き継ぐのかという問題が常に生じます。生前お墓守をしていても自分自身が入った後に誰も引き継いでくれなければ意味がありません。

 この点、民法では以下の通り規定されています。
民法897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

1項にある「前条」とは、民法896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」ですから、お墓の承継は相続の対象となるわけではないということです。
もっとも、民法897条1項の後段でも示されているように、被相続人が指定できるとあるので、その限りでは相続に近い部分もあるといえます。それ故に遺言書において「祭祀承継者は〇〇〇とする」と記載する例も多くあります。問題はそのような指定がない場合ですが、民法は「慣習に従って」としています。
「慣習」?何だそれは?と思われる方もいるかもしれません。確かに曖昧です。慣習は文字通り慣習なので、何かに明記されたルールとは異なります。家や土地にもよりますが、いわば何となく代々行ってきた例にのっとりましょうというということです。実際何となく長男、何となく名前を継いでいる親族という家が多いように思います。
ただ、お墓を承継するということはお墓の管理方法について決定する権利を持つということでもありますが、管理費を支払ったり、事実上お寺などから求められるお布施を負担したり、法要をとりしきる負担も負う(お墓の承継者の絶対的義務というわけではないですが)ということです。それに見合う経済的精神的余裕がない方が承継したとしても十分にお墓を守れないということも生じ得ます。その意味でも、できれば被相続人が生前に諸々のバランスを考えて承継者を指定しておくというのがよいでしょう。

●お墓の承継者がいない場合はどうするの?
被相続人の指定や慣習により、承継者が決まればいいですが、現実には子供がいない、いても経済的・物理的に無理、その他諸事情により承継する者がいないということは珍しくありません。民法897条で家庭裁判所が定めるともありますが、承継しようとする者が誰もいない時に職権で決めてくれるわけでもありません。管理の負担を強いることは誰にもできないのです。
この場合、お墓がどうなるのかについては、墓地や霊園の規則によることになります。多くの場合は無縁仏として整理され、最終的にはお墓も撤去され、合葬(共同墓地に入るなど)されることになるでしょう。縁故者(例えば友人など)の立場で、それは忍びないということで、承継を名乗り出ることもできますが、墓地や霊園によっては親族でないことを理由に容易に承諾しないこともあります。いずれにしても交渉が必要です。
また、古いお寺や墓地によっては、そのような規則がないこともあります。その場合はまた「慣習」という曖昧なもので運用されることになりますが、やはり最終的には墓が撤去され、合葬されることが多いでしょう。
ただ、お寺や墓地側としては、この場合お墓の整理、すなわち改葬となるので、墓地、埋葬等に関する法律施行規則第3条に従い、縁故者などに対して、1年以内に申し出るべき旨を官報に掲載するなど所定の手続きを経た上で、自治体の許可を得なければなりません。いうまでもなくこれはお寺や墓地などにとっては負担です。それ故に承継者がどのような人か、きちんと管理してくれるのか、その後はどうなのかということが大きな関心事になってくるわけです。
今は、予め将来に向けた永代供養や合祀の約束をしておく、共同墓地に最初から入れる、負担を軽くするためにロッカー式の納骨堂を利用する等、供養の仕方も多様になっています。無縁になってしまう前に、供養する側とされる側でコミュニケーションをとり、お互いが安心できるような方法について話し合いをすることが何より大事です。

(亀井真紀)

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2015年8月19日 (水)

障害者支援施設

最近、立て続けに、障害を持った方のご相談を受けています。正確にはご家族の方からとなります。

 現在の法律では、障害を持った18歳以下の児童については、児童福祉法の適用があり、福祉型障害児入所施設に入所し、18歳以上の障害を持った方は、障害者総合支援法に基づく生活介護及び施設入所支援による入所となります。

 ただ、この法律の適用が年齢によって変わるということは、子供のときから障害を発症して、長く施設に入所している方に取っては、とても分りにくく困惑するものになっています。

 ご相談に見えた二件とも、お子様は、もう既に30歳を超えておられます。子供の頃には、親のコントロールが可能であったものが、もう身体も大きくなり、力も強くなり、親が押さえることが出来なくなっています。 知的障害は、改善することもあるようですが、悪化するときには、保護者が自宅で面倒を見ることは不可能な状態になることが多いようです。

 ところが、現在のようになったのは、平成24年4月1日施行の法改正によるものなのですが、それまでは、児童のうちに施設に入所していれば、そのまま成年になっても、同じ施設に入所を継続していられたものが、法改正によって、18歳を超えたら、福祉型障害児入所施設を出て、障害者支援施設を探して移らなければならないことになりました。

 このことにより、保護者は新たな悩みを抱えることになりました。高齢者支援施設でも起きている問題がここでも発生しています。18歳になってあらたな障害者支援施設を探しても、どこの障害者支援施設も希望者であふれ、なかなか入れる施設が見つかりません。

 さすがに次の施設が見つからないときでもすぐに追い出されることは無いようですが、平成30年3月31日には、経過措置の期限が来ます。

その期限が来ても入れる施設が見つからないときには、どうしたらいいのでしょう。

 保護者や障害を持った方たちは、追い詰められています。

 このように施設に置いて貰えなくなるかもしれないという心理状態の中では、預かって貰うだけで有り難いという気持ちになり、施設の支援の仕方について、不服をいうことはなかなか出来ないものです。

 多少の怪我、多少のミスについて、施設に文句を言う人は、本当に少ないのだと聞きました。

 でも、お話しを聞く限り、施設が完璧な支援、介護を行なっているとは思えないケースがあり、それでもやれる限りはやってますという専門家とは思えない言葉が返って来ます。「何回言っても言うことを聞かないのです。」って、彼に理解する能力はあったかな、

 誰かが勇気を持って訴えることをしなければ、障害者支援施設の改善は期待できないのではないかと相談者は言います。

 そのとおりだと思います。でも、七生福祉園溺死事件を見ても、施設および施設職員がどうあるべきだったのかの立証は、なかなか専門外の者には難しそうです。またまた勉強の日々が続きます。

 ちなみに、当職の近況と映像が下記に載っています。
  よろしければ、どうぞ見てください。
   

http://www.bengo4.com/other/1146/1305/n_3344/


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2015年8月17日 (月)

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)2

イタリアの航空会社の元契約社員の日本人客室乗務員が妊娠を理由とする雇い止めが違法であることを理由に雇用継続を求める訴えを提起したようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H96_X20C15A6000000/

 また、今年6月24日にはマタハラで係争中の女性5名が記者会見を行い、法整備によるマタハラの根絶を訴えています

マタハラを巡る係争は、秋田では平成25年から平成26年にかけて1.5倍に増加したようです。

 また、鳥取でも平成25年から平成26年にかけて前年比で4割増加したとのことです(https://www.nnn.co.jp/news/150628/20150628004.html)。

 全国的な統計に触れたことはありませんが、係争事例の増加は全国的な傾向ではないかと思われます。

 女性の活躍を進める意味でも政府はマタハラの防止に向けて法整備を検討しています。

ただ、現在の法律でもマタハラには相当程度対抗することができますし、政府もマタハラの防止には力を入れています。

 例えば、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」)9条3項は、
 

「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと…を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

と明記しています。

 特に解雇に関しては、男女雇用機会均等法9条4項で、

「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。」

と非常に強い規制がとられています(ただし、妊娠・出産等を理由とする解雇でないことを事業者が証明した時は別です)。

不利益取扱いは解雇に限ったことではなく、雇い止め、契約更新回数の引き下げ、契約内容変更の強要、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、不利益な自宅待機命令、昇進・昇格の人事考課で不利益名評価を行う、仕事をさせない・もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をすることなど広汎に渡ります。そのことは厚生労働省のHPでも広報されています
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089158.pdf)。

男女雇用機会均等法に関する通達は平成27年1月にも改正されています。この改正の中では、妊娠・出産、育児休業等を「契機として」なされた不利益取扱いが原則として違法と解されることが明確化されています。女性の活躍を謳う政府の方針や少子化対策もあいまって、マタハラの防止は国が力を入れている領域の一つではないかと思います。

法整備はより良い制度を構築するための不断の努力の延長であって、現行法に致命的な欠陥があるわけではないように思われます。完全無欠というつもりはありませんが、現行法の枠内でも権利を守るためにできることはたくさんあります。報道から読者が現行法に穴があるかのような誤解を受けないかと気になったため、本記事を執筆することにしました。

問題をお抱えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

(師子角允彬)

2015年8月14日 (金)

189-児童相談所全国共通ダイヤル3ケタ化

皆さんは、児童相談所全国共通ダイヤルというものをご存知でしょうか?これは、虐待かもと思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談をすることができる全国共通の電話番号です。児童相談所全国共通ダイヤルに電話をかけると、お近くの児童相談所につながります。通告・相談は匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。

児童虐待と思われる事態を見聞きしたときは、児童虐待防止法上の通告義務が生じますが、虐待事案のみならず、自分の子育てについての相談などもできるので、積極的に活用して欲しいものです。

これまでも、児童相談所全国共通ダイヤルはあったのですが、10桁の番号で覚えにくく、あまり市民の皆さんに浸透していませんでした。そこで、子供たちや保護者のSOSの声をいち早くキャッチするために、平成27年7月1日より、「189」(いちはやく)という110番や119番のように覚えやすい3ケタの番号に変更されました。

勿論、児童相談所に通告をしたからといって、常に虐待事案が解決するわけではありません。児童相談所で不適切な対応をされてしまうケースもまま見受けられます。

しかし、児童虐待と思しき事態を見聞きしながら、それを放置してしまうと、虐待を受けているかもしれない児童は救われません。

実は、私自身も、児童虐待の現場を目撃して、児童相談所に通告をしたことがあります。その際に、区をまたいだ場合の縦割り行政に辟易したことは事実ですが、現場で対応されている皆さんはとても親身になって対応をしてくれていました。

もし、皆さんが、虐待かもしれないと思うような事態を見聞きした場合や、子育てに悩んでいる友人知人がいる場合、まずは児童相談所全国共通ダイヤルに電話して下さい。
そして、いつそんな事態になるかわかりませんから、まずは「児童相談所全国共通ダイヤル」「189」を自分の携帯電話にでも登録しておくことをお勧めいたします。

2015年7月16日 (木)

大田区議会議員いぬぶし秀一氏に対する抗議と議会に対する申入れをしました

今年は中学校の教科書採択がなされる年です。4年前,大田区の教育委員だった私も当然採択に携わりました。その際の採択で,歴史教科書は多数決の結果育鵬社の教科書に決まりました。

私が推した教科書は別の教科書でしたが,採択自体は公正に行われました。ところが今年の第2回定例区議会の一般質問において,いぬぶし秀一議員は,あたかも私が教科書採択が公正でなかったと言いふらしているかのような発言をしました。

https://www.youtube.com/watch?v=Q4MSkSur-gc&feature=youtu.be (12分01秒~20秒)

これではまるで私が自分の意見が通らなかった腹いせに手続に難癖をつけているかのようです。到底看過することができないので,同議員に対して抗議をし,大田区議会議長に対して申入れをしました。
 申入れの内容は以下の通りです。

申 入 書

拝啓 大田区議会並びに議員各位におかれましては日ごろから地方自治の精神にのっとり大田区民のために尽力されていることと存じ,感謝申し上げます。さてこの度は,去る6月22日の定例会における犬伏秀一議員の一般質問の中に事実に反する誤った発言がありましたので,これに対して事実に反する旨の指摘があったことを議会においてご報告されたく本状をもって申し入れます。

 上記一般質問で,犬伏区議は,育鵬社の教科書の評価について質問を行った際に,「『公正な教科書採択を求める大田区民の会』なる名称の団体が,あたかも前回の教科書採択は公正でなかったかのようなチラシや講演会を開催しており,当時採択に携わった教育委員までが公正でなかったというような発言を繰り返しています。」と述べているのを知り,驚きました。ここにいう「当時採択に携わった教育委員」は私を指すと思われるところ,全く事実に反するからです。

前回の中学校教科書採択のとき,私は大田区の教育委員を務めていました。社会科の歴史教科書について,私は帝国書院を推しましたが,他の委員の方々は全員育鵬社を選ばれたため,大田区の歴史教科書は育鵬社に決まりました。その採択は,教育総務部長が明確に回答された通り,公正を疑われるようなものではなく,どの委員に対しても,どこからも,圧力などがかかることはなく,それぞれの委員がそれぞれの考えで意見を述べ,公正に行われたものでした。私は,自分が推した教科書が採択されなかったことは残念に思いますが,だからと言って採択が不公正だなどと思ったことはありませんし,そのような発言をしたこともありません。

私はその年の12月で教育委員の任期を終え,退任しましたが,その翌年の春に,「公正な教科書採択を求める市民の会(以下「市民の会」と略称します。)」の方から講演の依頼を受けました。
私はこの依頼に対して,「育鵬社に反対したという趣旨ではなく,『中学校教科書を選ぶ時に考えたこと』というテーマでならお受けします。」とお断りして依頼を受けました。
聴衆の中には,どこからか不当な圧力がかかったとか,何らかの画策がされたなどという話を期待した人もいたかもしれませんが,そのような誤解は解きたかったので,「どこからか見えやすい圧力がかかったということはありませんし,制約もありませんし,外からいろんなことを言われることもなくて,各自が考えたところを述べていたという感じです。議論をして結果的には決まったということなんです。」と説明しました。そして,「教育委員がフリーに議論して,その結果そういう風になったということは,世の中全体の雰囲気をよく表していることなのかも知れないという風に思っています。」と述べました。
採択の手続きに関して私が述べたのは以上の事実です。その後何度か教科書の内容についての講演を依頼されましたが,採択が公正でなかったなどということは一度も,一言も言っていませんし,もともとそのようには考えていません。

そして講演の内容の本題は,私が推した帝国書院の教科書と育鵬社の教科書とを比較して,私が帝国書院を推した理由について21か所の記述を例にとり,解説したものです。その解説も適切なものだったと思います。現に,帝国書院が優れている例として挙げた,「ルネサンスを説明するための三美神の変遷の図版」は今回そっくりそのまま,今年の育鵬社の教科書に掲載されました。また,同じく帝国書院が優れている例として挙げたアイヌオムシャの錦絵も,今年の育鵬社の教科書に掲載されるようになりました。さらに,前回の育鵬社には「帝国主義」の語が一言も載っていないことも指摘しましたが,これも,今年の教科書には載ることになりました。育鵬社が私の講演録をご覧になったとは思いませんが,私が指摘した21項目のうち3項目も取り入れられ,改善されているわけです。

 以上の次第ですから犬伏議員の「当時採択に携わった教育委員までが公正でなかったというような発言を繰り返しています。」という発言は全く事実に反するものであるに止まらず,元教育委員である私が事実に反する発言をして教育委員会を貶めているかのような印象を議員各位はじめ広く大田区民に与えるもので,誠に遺憾です。
 よって,犬伏議員の発言が根拠のない誤ったものであることを指摘させていただくとともに,この指摘があったことを議会においてご報告いただきたく,本申入れに及ぶ次第です。
 
末筆ながら大田区議会並びに議員各位のますますのご活躍を祈念いたします。
敬具

(櫻井光政)

デモ活動への警察撮影について

昨日(2015年7月15日)、国会議事堂前で行われていた安保関連法案に反対するデモに、見守り弁護士として参加してきました。これぞ表現の自由という、素晴らしい場でした。

そこで散見されたのが、警察官によるデモ活動の撮影です。
弁護士が違法であることを告げてもなかなか辞めませんでしたが、粘り強く繰り返し抗議し、一人ずつ辞めさせました。

このような撮影行為は、憲法13条の趣旨に反し許されません。記録のためとか、今後のデモのためとか、違法行為が行われそうとか、色々言ってきますが全て許されません。
理由は、以下のとおりです。見かけたときは「撮影は辞めて下さい、判例を知らないんですか」と注意して、このブログを警察官に見せてください。

デモ活動を、【警察が撮影】する行為は、原則として憲法13条の趣旨に反し許されません。例外は、次の1~3の要件を全て満たした場合だけです( 最大判昭和44年12月24日)
※公益目的の報道機関による撮影、一般市民による撮影は別です

1 現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合
2 証拠保全の必要性および緊急性があり
3 その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき

まず、現に犯罪が行われなければ、1には該当しません。
そして、周りに多数の警察官がいて目撃しているのが通常ですから、証拠保全の必要性もありません。警察官の調書だけで十分です。もちろん、何も犯罪行為が行われていないところを継続的に広く撮影し続ける行為は違法です。

【該当判旨抜粋】
憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
 これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法一三条、三五条に違反しないものと解すべきである。

【判例のリンク】
最高裁大法廷判決昭和44年12月24日(刑集23・12・1625)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/765/051765_hanrei.pdf

(小口幸人)

2015年6月 4日 (木)

不可能を要求する司法~カネミ油症新認定訴訟の顛末

去る6月2日、最高裁は「上告審の受理をしない」決定を出しました。

カネミ油症新認定訴訟裁判のことです。

これまで何度か書いてきましたが、カネミ油症新認定訴訟というのは、昭和43年にカネミ倉庫がダイオキシン類を食用油に混入させるというありうべからざる事故を起こしたことで、九州・西日本で多くのカネミ油症患者が発生しましたが、その被害者が原告となって、加害企業であるカネミ倉庫に対する賠償請求を起こしたものです。本件訴訟の患者たちの多くは、平成14年の認定基準の変更によって認定された「新認定患者」です。カネミ油症患者であることが客観的に明らかになったことで、事故から長い年月が経過した平成20年、ようやく訴訟提起が叶いました。

今回の最高裁の判断は、原審・控訴審の、本件被害は既に除斥期間の経過により請求権を喪失したという判断を維持し、確定させたことになります。

最高裁の判断には、大きな問題点が2つあります。

ひとつには、除斥期間の起算点を昭和44年から動かさなかったことです。

除斥期間というのは、時効に似たものですが、時効と異なり、原則起算点は不法行為時から動きませんし、中断もしません。
しかし、これまでの公害被害、たとえばじん肺訴訟や水俣病、B型肝炎など、裁判所は多くの訴訟で起算点を動かして、被害者を救済して来ました。
じん肺訴訟では、最高裁はその起算点を「最終の行政上の決定を受けた日あるいはじん肺を原因とする死亡の日」としています。つまり、じん肺の被害の発生時自体ははるかに以前のことであっても、行政上の決定を受けた日や死亡時まで起算点をずらして、除斥期間に掛かることを防いできたのです。それは、行政上の決定を受ける前に予め最終被害を申告するということが不可能だからでした。法は不可能を求めないとされてきたのです。

もうひとつは、除斥期間であることに拘泥したことです。

民法724条は、除斥期間を定めたものであるということを前提にこれまで話が進められてきましたが、実は法文上、これが除斥期間を定めたものとはどこにも記載されておらず、また法の起案者は、もともとこの条文を時効のつもりで作成していました。ところが、平成元年の判例以降、解釈としてこれは除斥期間を定めたものであるとされてきたのです。これには強い反対意見が当時からあり、結果、多くの判例で除斥期間であるとすれば悲惨なことになる被害者を救うために、起算点を動かすという技を使わざるを得なくなりました。このような問題を受けて、今年度中に可決される予定の改正民法では、当該条文は時効を定めた条文であると明記される予定だったのです。これが時効であるなら、起算点は動きますし、中断もあります。
しかし、最高裁は、このような流れを一顧だにせず、民法724条は除斥期間を定めた規定であるという判断を維持したわけです。

カネミ油症新認定患者は、油症事件発生以来、多くの病気を次々と発症し、莫大な医療費を支払いながら、お前は油症患者ではない、生まれつきのかたわものであると言われて生きてきました。それは、昔はカネミ油症患者であることを明らかにする、血中のダイオキシン濃度を測る技術が未発達であったことによるものです。水俣病などとも異なり、カネミ油症患者であることの認定は、一般の医師の検査ではできません。年1回の健診を受け、油症研究班の認定を受けることが、唯一絶対の油症患者であることを明らかにする手段でした。

平成に入り、科学技術が追いついてきた結果、平成16年以降、多くの患者がようやくカネミ油症を患っていると認定されました。認定前は、詐病扱いすらされていた患者に、自らが油症被害を受けた者であることの立証は不可能でした。事実、過去には思い余って未認定患者が訴訟を起こしたこともありましたが、患者であることの証明ができないとして、請求は早々に棄却されています。
ところが、今回の裁判所の一連の判断は、結局「認定されていなくても訴訟提起はできたはず」「事実上難しかったというのは理解するけど理論上は可能だったはず」というものでした。司法は、事実上の不可能を要求したのです。

加害企業のカネミ倉庫は、患者への支払が必要だからという理由で、国から保管米を回してもらい、安定収入を得て順調な発展を遂げています(注・カネミ倉庫は認定患者に対しては一部医療費を負担しています)。その一方で、このように多くの患者を闇に葬り、裁判所もこのような不正義を追認したことになります。
司法とは何か、正義とは何か。考えさせられる判決でした。


(石丸文佳)

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