刑事事件

2016年8月30日 (火)

勾留請求却下率の増加について

 少し前になりますが、容疑者の勾留請求却下率が過去10年間で5倍超になったとの報道がありました。

 http://www.sankei.com/affairs/news/160328/afr1603280008-n1.html  

 報道によれば、全国の地裁、簡裁で平成17年に0.47%だった勾留請求却下率は平成26年には2.71%まで上昇し、過去10年間で約5.8倍になったということです。日本では昔から「人質司法」と言われ、裁判官が被疑者被告人の身柄拘束を安易に認めてしまうことが問題とされてきました。ただ、裁判所が身柄拘束を安易に認める傾向は変わってきており、報道にもあるとおり否認事件であっても最高裁が身柄拘束を認めない判断をするようになっています。

 私は11年の間司法過疎地と呼ばれる場所で弁護士をしており、その間地域で刑事事件を数多く担当しました。私が担当した刑事事件で捕まった方から一番多く受けた訴えは「一刻も早く外に出たい」というものでした。刑事事件で結論的には罰金刑や懲役刑の執行猶予がなされる場合であったとしても、その結論が出るまでに何日間もずっと身柄拘束が続くということによって、精神的に相当追い詰められてしまいます。また、身柄拘束で仕事に行けないことによって職場を首になるなどその後の生活にも大きな影響を及ぼすことになります。

 早急に身柄拘束を解くため弁護人が勾留請求の却下を求めたり、裁判官がなした勾留決定に対する準抗告を行うことはとても重要です。前記のように裁判官が身柄拘束を安易には認めないようになっているとはいえ、弁護人が身柄拘束を争わなければずっと身柄拘束されてしまう危険は依然として高いからです。

 被疑者勾留が続きそのまま起訴された後であっても、保釈が認められる場合には身柄拘束は解かれることにはなります。ただ、起訴される前の被疑者勾留だけでも原則として10日間までは身柄拘束されることとなり、その間の不利益は非常に大きいものがあります。

 現在施行されている刑事訴訟法では、死刑又は無期もしくは長期三年を超える懲役もしくは禁固にあたる刑の事件の被疑者が勾留され身柄拘束されている場合には、国が弁護人をつけることとされています(被疑者国選制度。なお法改正により、2018年6月までにはすべての被疑者勾留事件まで国が弁護人をつける形に制度が変わります)。私も被疑者の国選弁護人として数多くの事件で被疑者の身柄拘束を争ってきました。ただ被疑者の国選弁護人として活動できるのはすでに勾留されてしまった「後」のこととなってしまいますので、弁護人がベストを尽くしたとしても勾留により身柄を拘束されるリスクそのものをゼロにすることはできません。

 身柄拘束されるリスクを少なくするためには、勾留される前、できれば逮捕される前に弁護人がつくことが本来望ましいです。逮捕される前に弁護人が被害者と示談交渉するなどして、捜査機関に逮捕をさせないようにする活動ができればベストです。

 また、逮捕されてしまったとしても、早急に弁護人がつけば勾留請求の取消を求めることで勾留されることを防ぐことができます。逮捕された直後は前記のように被疑者国選制度は使えませんが、弁護士会で実施している当番弁護士制度を使い無料で弁護士に接見に来てもらうこともできます。

 当事務所では刑事事件に関する相談については無料となっております。前記の通り身柄拘束に対してはいち早い弁護士による対応が重要となりますので、ご家族が警察に捕まってしまった場合であるとか、自分が刑事事件で捕まるか不安に思っている場合などはお気軽にご相談していただければと思います。

(弁護士 大窪和久)

2016年8月 7日 (日)

就職活動と前科・前歴

 被疑者、被告人から、警察に捕まったことが就職活動に与える影響について相談を受けることがあります。

 典型は、

① 履歴書の賞罰欄に捕まったことを書かなければならないのか、

② 前科や前歴のことを面接でどのように言えば良いのか、

というものです。

 弁護士によって回答は別れると思いますが、私なりの考え方をお伝えさせて頂きます。

 先ず、①の問題についてお話しします。

 結論から言うと、前歴に留まる限り記載しなくても構わないと思います。他方、前科をお持ちお方の場合、賞罰欄に「なし」とは書けません。この場合、賞罰欄を空欄にしておいたり、賞罰欄のない履歴書を使用したりして対処することになります。

 前歴とは、罪を犯したものの起訴猶予になった履歴や、少年時代に処分を受けたりした経歴などをいいます。前科とは分かりやすく言えば、裁判所で有罪判決を受けたことをいいます。

 履歴書「賞罰」欄の「罰」の解釈について、東京高裁(東京高判平3.2.20労判592-77)は、

「履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべき」

と判示しています。

この判例では上告がされていますが、最高裁でも東京高裁の判断は維持されています(最判平3.9.19労判615-16)。

 この判決を根拠にすれば、「有罪判決を受けたわけではないから『罰』はない」という解釈が成り立ちます。ここから前歴である限り賞罰欄には記載しなくても良いのではないかというアドバイスが導かれます。

 他方、確定した有罪判決を受けている場合、賞罰欄に「なし」と記載することはできません。

 しかし、積極的に告知しないことにはそれほどの問題はないと思います。

 前の職場においてセクハラ・パワハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことを理由とする解雇の可否が問題となった事案ではありますが、東京地裁(東京地判平22.11.10労判1019-13)は、

「告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない。」

と判示しています。

 少し大雑把に言えば、要するに積極的に虚偽を述べない限り秘匿しておく分は構わないという理解が成り立ち得るということです。セクハラ・パワハラと前科は異なりますが、これを類推することで、賞罰欄を空欄にしておいたり、賞罰欄のない履歴書を使ったりすることは差し支えないのではないかというアドバイスが導かれます。

 次に、②の問題についてお話しします。

 この問題への回答のヒントも上述の東京地裁の判例にあります。

 尋ねられた場合に積極的に嘘を言うことはできませんが、嘘にならない範囲で回答したり、聞かれない限り黙っているという姿勢で臨んだりすることは差支えないのではないかと思います。

 以上が就職希望者、労働者側の立場に立ったアドバイスになります。

 なお、これとは逆に使用者側から前科・前歴のある人の採用を見合わせる方法を尋ねられた場合には、特定の書式の履歴書の使用を指定したり、面接で明確に尋ねたりしておくといったアドバイスをすることになります。

「採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。」

と判示した判例もあるため(前掲東京地判平22.11.10労判1019-13)、採用側には注意が必要です。

(弁護士 師子角 允彬)

2015年9月10日 (木)

法の抜け穴は見つからない-アキバの「見学店」摘発について

マジックミラー越しに制服姿やスクール水着姿の女性を見学する秋葉原の「見学店」の経営者が興行場法違反で摘発されたとのことです。

http://www.sankei.com/affairs/news/150909/afr1509090013-n1.html

 興行場法とは聞き慣れない法律だと思いますが、昭和23年から施行されている古い法律です。

 興行場法は「映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は見せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設」を興行場として定義し(興行場法11項)、「業として興行場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない」と規定しています(興行場法21項)。

 無許可で経営すると6月以下の懲役又は5千円以下の罰金に処せられます(興行場法81号)。報道によると、今回摘発された方も、無許可で営業したことが理由とされています。

 記事を読んだ方の中には、なぜ風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)で摘発されないのかと疑問に思われる方がいると思います。

 これは「見学店」が風営法では規制できないことに理由があります。

 風営法が規制する「風俗営業」は風営法21項で定義されています。キャバレーやナイトクラブなどが掲げられていますが、客を接待したり遊興・飲食させたりしない点で「見学店」の営業は「風俗営業」のどれにも該当しません。

 また、風営法はいわゆる性風俗店を「店舗型風俗特殊営業」として規制しています。店舗型風俗特殊営業の定義は、風営法26項で定義されています。これによると「衣服を脱いだ人の姿態」(風営法263号、同施行令2条)は店舗型風俗特殊営業に該当します。しかし、「見学店」は制服やスクール水着を着用しているため店舗型性風俗特殊営業にも該当しません。

 「見学店」は直観的に見れば性風俗店の亜種ですが、風営法で摘発されなかった理由は上記の点にあると思われます。

 本件で刑事事件化を避けるためには、二つの点を意識しておく必要があったのではないかと思います。

 一つ目は、警察は社会秩序を維持するためであれば、活用できるものは何でも使うということです。

 興行場法は本来善良な風俗を保持するための法律ではありません。

 興行場の経営の許可は「条例で定める公衆衛生上必要な基準に適合しないと認めるとき」に与えられないとされているにすぎません(興行場法22項)。規制されているのは、機械換気設備や便所の構造等です(東京都興行場の構造設備及び衛生措置の基準等に関する条例6条、9条、同施行規則6条、6条の27条等参照)。風営法のように清浄な風俗環境の保持や少年の健全な育成という観点から設けられた法律(風営法1条参照)とは毛色が異なります。

経営者は風営法の規制対象外であることに目を付けて「見学店」を始めたのかも知れません。しかし、法に抜け穴はそうそうあるものではありません。警察の社会秩序の維持にかける矜恃を甘くみたのが逮捕されるに至った背景にあるのではないかと思います。どのような業種であっても、経営者には、嗅覚が危険だと告げるものは警戒し、安易に「抜け穴」に飛びつかないことが求められます。

二つ目は、行政官庁の指導は決して軽視してはならないことです。

 報道によると本件でも無許可営業の警告が実施されています。経営者は「1度の指導では取り締まられないと思った。」とのことですが、これが事実であれば行政官庁の指導に対する認識が甘すぎると言わざるを得ません。個人的な実務経験に照らすと、行政官庁は外部に意見を表明するにあたり様々な観点から慎重な検討を重ねているように思われます。これには対象者が従わなかった場合を想定しての警察との折衝も含まれます。そうした過程を経て外部に出て来た見解(警告)を無視するということはリスク回避の観点からは有り得ません。本件も警告された時点で何らかの手当をしていれば逮捕には至らなかったのではないかと思われます。

 直観的に危なそうだなと思ったり、行政官庁から何らかの指導がされたりした場合には、慎重に行動すべきでしょう。

(師子角允彬)

2015年2月11日 (水)

刑事事件の初回無料接見

桜丘法律事務所では、本年1月中旬から、刑事事件の依頼について、初回の接見を無料で行うサービスを始めています。
http://www.sakuragaoka.gr.jp/first/

当事務所がこのサービスを始めたことを、まだ余り広く認知されてはいないようですが、刑事事件専門の事務所以外で、初回接見無料のサービスを行っている事務所は少ないのです。

 当事務所は、民事事件も多数扱っている事務所ですが、同時に、神山啓史弁護士を中心に刑事事件について情熱と高い能力を有する弁護士たちが活動していることで知られています。

 刑事事件においては、逮捕されたらすぐに弁護士が駆け付けることがどれだけ大切か、数多くの刑事事件を扱った私たちは、身を持って感じています。 誰でも初めて逮捕されたときには、普段はあんなに優しく見えた警察官が、大きな声を出し命令してくることに混乱し、自分の置かれた状況が全く見えないまま、警察官の言うなりに犯行を認める調書を次々に取られてしまいます。

 唯一の味方は弁護士なのに、弁護士が会いに来るまでに時間が掛っては、取り返しがつかなくなる可能性があります。

 一刻も早く身近な人が弁護士に払う費用のことを心配せずに、とにかく一度警察署に会いに行ってくれるよう電話を掛けて来てくれることが出来るように、私どもは、例え既に受けている事件で手一杯であろうと、優先的に時間を作ることを決意して、毎日の当番を決めて対応することにしました。

 これは、刑事事件に対する私どもの情熱の現れであります。

不肖、離婚弁護士を表象する私も、メンバーの一人として、電話が掛ってくることをお待ちしています。

安心して頼っていただくための入り口になることを願っております。

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2014年3月12日 (水)

精神発達遅滞の被告人への無罪判決が示唆すること

平成25年8月30日、京都地方裁判所で重度精神発達遅滞(田中ビネー知能検査ⅤでIQ25)の被告人に対して無罪判決が言い渡されました(判例時報2204-142)。

精神発達遅滞とは要するに知的障害のことです。侮蔑的な意味が含まれるとして現在はあまり好まれる表現になっていませんが、「知恵遅れ」などと言われることもあります。

被告人は普通乗用自動車1台を盗んだとして常習累犯窃盗罪で起訴されていました。常習累犯窃盗罪という言葉は法律家以外の方にとって馴染みのない犯罪だと思いますが、簡単に言えば過去10年以内に窃盗で3回以上服役した人が更に盗みを働いたときに成立する犯罪です(盗犯等ノ防止処分ニ関スル法律3条参照)。

この件でも自動車を盗んだとされているのは平成24年9月27日ですが、被告人は平成15年ころから既に3回も窃盗罪で服役していました。

 重度精神発達遅滞の事例は心神喪失を理由に不起訴となる例が多く、起訴された後に裁判で心身喪失と認定される例は極めて稀です。本判決は重度精神発達遅滞の場合につき責任能力を否定した数少ない判例として実務上注目を集めました。

 この判決は、事例として珍しいだけではなく、二つの点で重要な示唆を含んでいると考えています。

 一つ目は知的能力に問題のある被告人の表面的な言葉に惑わされてはならないという点です。

 最初に述べたとおり、常習累犯窃盗という犯罪は簡単に成立する犯罪ではありません。過去に少なくとも3回は刑事裁判を受けているはずです。何度となく機会がありながら被告人の責任能力は適切に評価されてきませんでした。

 被告人の責任能力を見抜けなかった理由の一つには、被告人が捕まる度に謝罪や反省の弁を述べていたことがあるようです。こうした言葉が述べられると「悪いことだと認識できているのだから責任能力を問うことに支障はないはずだ。」という発想に陥りがちです。

しかし、本件の被告人は「車を盗むのはいいことかわるいことか」という問いかけに対して「悪いこと」と答えはするものの、「なにがどう悪いの」と問いかけても応答できていませんでした。盗みが悪いことだという漠然とした認識はあったとしても、なぜそれをしてはいけないのかが全く理解されていなかったのです。

従前の裁判が被告人の更生に寄与できなかったのは、法曹関係者がこの点を看過していたからだと思われます。誰かがおかしいと思って責任能力の有無を慎重に調べていれば、裁判はより意味のあるものになっていたはずです。

 二つ目は司法と福祉とが適切に連携していれば、過去に罪を重ねた知的障害者であっても、罪を犯すことなく社会生活を営むことができるという点です。

 この被告人は窃盗だけではなく強制わいせつ(未遂)での前科も有しています。しかし、強制わいせつでの再犯は窃盗での再犯とは異なりきちんと自制できていました。

 判決文を読むと、この差が生じた理由が、福祉による支援が得られていたかどうかにあることが分かります。

 被告人は平成23年2月に刑務所を出た後、京都市東部障碍者地域生活支援センターの介護福祉士から支援を受けていました。この介護福祉士は強制わいせつ未遂での前科等を考慮し、再犯を起こさせないように留意しながら被告人を支援してきました。結果、被告人は強制わいせつが悪いことをある程度理解し、自制できるようになりました。

このことは窃盗の場合について尋ねられた時の受け答えとの対比から読み取ることができます。強制わいせつについては「いいことか悪いことか。」という問いかけに対して「悪いこと。」と答えた後、「どうして悪いことなの。」という問いかけに対して「かわいそうやからや。」と応じることができています。

 しかし、この介護福祉士は被告人の生活範囲に鍵を付けたままの自動車が多くあるということを認識しておらず、自動車盗は十分に警戒していませんでした。

 結果、自動車盗と強制わいせつとで、被告人の悪いことの認識や理解度には差がつくことになりました。そのことは被告人による本件犯行を許すことへと繋がりました。

 ただ、ここで私が指摘したいのは介護福祉士の職務の適否ではありません。重要なのはIQ25の重度精神発達遅滞の人であっても、適切なケアさえ受けられていれば、悪いことを悪いと認識した上で、罪を犯すことなく社会生活が営めるということです。この判決は福祉が知的障害者による累犯を阻止する希望となり得ることを示しています。

 もっと早く責任能力について適切な評価がなされ、福祉からの支援を受けていれば、被告人の人生は変わっていたかも知れません。犯罪の被害に傷つく人も生まれなかったかも知れません。最初に捕まった時点で、確かな知見を持った弁護人が、被告人に違和感を覚え、鑑定を請求し、十分な申し送り事項とともに被告人を福祉と結びつけていれば、被告人を含め不幸になる人はずっと少なかったと思います。

 責任能力が問題となる事件に限らず、知識・経験の十分な弁護人の関与は、裁判を意義のあるものにするために欠かすことができません。

 当事務所は刑事弁護に特に力を入れています(http://keiji.sakuragaoka.gr.jp/)

 刑事事件に関してお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

(師子角允彬)

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2013年10月 3日 (木)

現代人文社「傍聴弁護人から異議あり!」

先日の「刑事弁護プラクティス」に続き,現代人文社より,間もなく「傍聴弁護人から異議あり!」が出版されます。

本書では,当事務所の亀井真紀弁護士が担当した裁判員事件と,当事務所出身の田岡直博弁護士が担当した裁判員事件が取り上げられています。

「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」などの法廷傍聴記で有名な北尾トロさんが,いくつもの裁判員裁判を傍聴して,「弁護人の一人になったつもりで」弁護人の弁護活動を批評したものです。軽妙ながら鋭い指摘がなされており,なるほど,弁護活動がこのように受け止められているのかと,とても参考になりました。

特に刑事事件を取り扱う弁護士にお勧め出来る内容だと思いました。
(新谷泰真)

Igiari


2013年6月28日 (金)

北区収賄冤罪事件・不起訴のお知らせ

(★記事作成につき,依頼者のご了解を得ています。)

 当事務所の,新谷泰真,石丸文佳,髙木良平弁護士が弁護人を務めていた,東京都北区営繕課主任主事(以下,「依頼者」といいます)の収賄事件は,平成25年6月24日付で,嫌疑不十分による不起訴処分となりましたので,ご報告いたします。

「東京・北区主事らを不起訴 贈収賄の証拠「見つからず」」
http://www.asahi.com/national/update/0624/TKY201306240427.html

東京地検は24日、東京都北区発注の中学校校舎新築工事にからみ、収賄容疑で警視庁に逮捕された北区の営繕課主任主事(60)と、贈賄容疑で逮捕された同区内の建築会社専務(61)を嫌疑不十分で不起訴処分とし、発表した。処分理由は「贈収賄と認めるに足る証拠が見つからなかった」と説明した。

「北区中学工事汚職、贈・収賄側とも異例の不起訴」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130624-OYT1T01670.htm?from=ylist

東京都北区の中学校新築工事を巡る汚職事件で、東京地検特捜部は24日、警視庁に収賄容疑で逮捕され、処分保留で釈放された同区営繕課の主任主事(60)と、贈賄容疑で逮捕され、同様に釈放された建築会社専務(61)をそれぞれ不起訴(嫌疑不十分)とした。


 捜査機関が逮捕に踏み切った汚職事件で、贈賄側、収賄側共に不起訴となるのは極めて異例。特捜部は「逮捕するだけの疑いはあったが、起訴に足りる証拠はなかった」として詳細な理由は明かさなかった。捜査を担当した警視庁幹部は「不起訴については地検が判断したことなので、コメントする立場にない」と話している。

本事件は,東京都北区発注の中学校校舎新築工事にからみ、建設業者に入札予定価格を教える見返りに,現金を受け取ったという収賄罪の容疑で逮捕された事件です。

依頼者が入札予定価格を業者に教えた事実も,現金を受け取った事実もなく,依頼者は収賄事件とは全く無関係でした。

しかしながら,捜査機関の見込み捜査により,犯人と目された依頼者は,逮捕前から,長期間・長時間にわたる取調べを受けることになりました。捜査機関としては,依頼者が収賄を犯したという前提,つまり依頼者が犯人である事を前提に取調をするわけですから,身に覚えがないことだと主張しても聞き入れてもらえません。
また,捜査を受けていることを誰にも話さないように,と固く口止めされたため,依頼者は,家族に相談することもできず,弁護士と相談することもできず,一人で取り調べを受け続けることになりました。

自分の言い分を聞いてもらえず,連日のように犯人と決めつけられる取調べを受け続ける中で,依頼者は次第に心を折られていき,自分の言い分をきちんと主張する気力を失っていってしまいました。そして,警察の誘導に乗る形で,収賄を認める供述をするようになりました。

依頼者からの自白が得られたことで,捜査機関は,正式に事件を立件しようと,依頼者の逮捕に踏み切りました。

逮捕後,我々が弁護人として受任した当初から,依頼者は,「自分は収賄事件などやっていない。工事の予定価格を漏らしたこともないし,現金を受け取ったこともない」と明言しました。

逮捕後も,連日長時間にわたり,厳しい取調べが行われ,捜査機関は依頼者の自白を引き出そうと躍起になりましたが,弁護団も連日接見を行い,依頼者を励まし続けると共に,絶対に虚偽の自白をしないよう,アドバイスを続けました。
また,検察官に対して,録画による取り調べの可視化をするよう申し入れると共に,不当な取調べが行われた際には,取調べに対する抗議を適宜行い,虚偽自白を防ぐことに努めました。
(結局,可視化はされませんでしたが…)

同時に,刑事証拠保全手続きの申立を行って弁護側証拠の収集に努めるとともに,勾留理由開示をおこない,公開の法廷で,無実を訴える依頼者の言い分を明らかにしました。

捜査機関は,依頼者を逮捕した後,依頼者の通帳やキャッシュカード等を差押え,金銭の受領や受領した金銭の使途などの捜査をしていました。しかし,本件では,もともと金銭授受の事実自体がありませんから,依頼者が現金を受領したり,多額の現金を使ったりした形跡が出るはずもありません。

結局,依頼者と収賄事件とを結びつける証拠は見つからず,勾留期限の満期を持って釈放された後,6月24日付で,検察官は起訴を断念しました。

本件の問題点は,関係者の自白に頼った見込み捜査が行われ,かつ,強引な取調べも辞さずに自白を獲得することに力が注がれる一方で,金銭の使途など,金銭の授受に関する客観的な証拠の収集・検討を怠ったことです。任意捜査の段階から,客観的な証拠を収集して慎重に検討していれば,そもそも事件が成り立たないこと,依頼者が収賄事件とは無関係である事が早期に判明し,依頼者が逮捕されることもなかったのではないかと思えてなりません。

旧態依然とした,自白偏重の捜査が,今回のような事態を招いたと言ってよいでしょう。自白偏重の弊害は明らかであり,そこからの脱却は急務でしょうし,強引な取調べを防止するためにも,取調べの可視化は必須であると感じた事件でした。

最後に,今回の不起訴処分により,無辜の依頼者が裁判にかけられることなく,もとの平穏な生活を取り戻せたことを,何よりも嬉しく思います。

(新谷泰真)

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2013年5月 9日 (木)

痴漢サイト成りすまし事件

今日,驚くような事件が報道されていました。

痴漢交流サイト“なりすまし”に騙され?堂々お触りの男逮捕 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130509/crm13050907400003-n1.htm 痴漢のインターネットサイトを利用した同容疑者は、合意の上での「痴漢プレー」を主張しているが、女性はこれを全面否定。同署は、何者かがネット上で女性に成り済ましたとみて調べている。

容疑者が利用したとみられる痴漢プレー掲示板には「和歌山線で痴漢してくれる人いませんか」などの書き込みがあり、座っている車両も指定していた。途中駅で下車した男もこのサイトを利用したとみられる。

痴漢サイト成り済まし?女性わいせつ被害、電車で隣の男が触る http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/05/09/kiji/K20130509005765670.html

容疑者は「ネットのサイトで女性から電車の時間と車両を指定された」と供述。女性は通勤時、いつも同じ席に座っているといい、同署はこの習慣を知る人物が成り済ましたのではないかとみて調べている。

被害に遭った女性はとてもお気の毒です。また,被害女性に何らかの悪意をもってなりすました人物がいることも,気味が悪い感じがします。

さて,この事例,刑法や刑事弁護の観点から見ると,なかなか興味深い問題を含んでいます。
本件の被疑者は強制わいせつ罪で逮捕されていますが,言い分としては,「触ったことは間違いないが,ネットの書き込みは本人によるものと信じており,本人の承諾があったと信じていた」というものになるのでしょう。

強制わいせつ罪においては,被害者の承諾があることは構成要件該当性を阻却する事由になります。承諾があったと誤信していたのであれば,故意がかけるために犯罪が成立しないということになりそうです。

仮に自分が本件の弁護人になった場合は,対捜査機関の関係では,承諾があったと誤信し,故意がかけるために犯罪が成立しない,不起訴処分にすべきだという主張をしつつ,対被害者との関係では,結果として意に反して猥褻行為を働いたことは間違いないので,謝罪の上示談交渉を試みて,告訴取消による不起訴処分を目指すという,両面作戦をとるのではないか,ということを,報道を見て考えていました。

当事務所でも,痴漢事件の刑事弁護は多く取り扱っていますが,このような珍しい事例は見たことがありません。

(新谷泰真)

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2013年2月14日 (木)

勾留について

グアムで痛ましい通り魔事件が起こりました。グアムは日本からも近く,観光客のほとんどが日本人という観光地です。リゾートや観光に出かけた先で,なぜこのような事件に巻き込まれなければならないのかと思うと,残念でなりません。亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に,怪我をされた方の一刻も早い回復をお祈りしています。

さて,この事件については,被疑者が勾留されたとのニュースが出ていました。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1400Y_U3A210C1CR0000/

ニュース中,

 検察当局は13日に刑事手続きを開始。容疑者は同日、勾留手続きのため裁判所に出廷し、裁判所は200万ドル(約1億8700万円)の保釈金を設定して勾留を命じた。

との記載があり,日本の被疑者の勾留制度とはずいぶん違うのだな,と驚きました。

日本の場合,被疑者段階での勾留には保釈制度はなく,保釈が可能になるのは起訴されてからとなっています。また,殺人罪のような重大犯罪,特に本件のように何人も死傷させている事件では,起訴された後であってもなかなか保釈が認められるものではありません。弁護人からすると,非常に抽象的な罪証隠滅の恐れ等を理由に,保釈が通らない事案も数多いと感じます。

それに比べると,高額の保釈保証金を設定するという条件は付くものの,被疑者段階で,なおかつ本件のような重大事件であっても,身体拘束からの解放の途を残しておくグアムの制度は,ずいぶん大胆な制度のように感じられました。
(もっとも,これだけ高額の保釈保証金を納めるのは非常に難しいでしょうから,事実上釈放はされないことには変わりないのでしょう)

同様の制度を日本にそのまま導入してよいかは検討する必要がありますが,少なくともまずは争いの無い比較的軽微な事件から,被疑者段階での保釈制度を導入して,不必要な身体拘束を減らしていってもよいのではないか,と思いました。

(新谷泰真)

2013年2月 7日 (木)

遮へい措置

 先日担当した裁判員裁判で,証人本人の希望で,遮へい措置が解かれたという場面がありました。遮へい措置を安易に認める運用に疑問をもったので,少しコメントします。

 刑事裁判では,一定の場合に,証人尋問の際の遮へい措置が認めらます(刑訴法157条の3第1項及び第2項)。「遮へい措置」というのは,具体的には,①証人と被告人の間に衝立を立てて,一方から又は相互に相手の状態を認識できなくすること,②証人と傍聴人の間に衝立を立てて,相互に相手の状態を認識できなくすることです。

 被告人には証人に尋問をする権利があります(憲法37条2項)。被告人としては,十分に尋問を行うため,単に証人がどんな内容を証言しているのかだけでなく,どんな表情や仕草で証言をしているのかを法廷で確認する必要があります。また,裁判は公開が原則です(憲法82条1項)。国民としても,公正な裁判が行われているかを監視するため,証言内容だけでなく,証人の表情・仕草を確認する必要があります。したがって,証人と被告人の間も,証人と傍聴人の間も,遮へい措置は認められないのが「原則」です。

 とはいえ,事件の内容,証人と被告人との関係,証人と傍聴に来る可能性のある関係者との関係等によっては,証人が,被告人や傍聴人の前で証言することが精神的に難しいという場合があります。証人が証言できなければ,真実の発見が後退します。そこで,証人と被告人の間は,「圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって,相当と認めるとき」に(刑訴法157条の3第1項),証人と傍聴人の間は,「相当と認めるときに」(刑訴法157条の3第2項)に限って,遮へい措置が認められることになっているのです。あくまで,遮へい措置は,証人の自由な証言を確保する必要性から認められる「例外」です。

 先日の裁判員裁判は,息子が母親に凶器で怪我をさせたという親子の事件でした。検察官は被害者の母親を証人として申請するとともに,証人と被告人の間,証人と傍聴人の間の遮へい措置を求めました。弁護人は遮へい措置は不要である旨の意見を述べました。裁判所は,検察官の意見に従って,証人と被告人の間,証人と傍聴人の間の遮へい措置を認めました。

 実際に証人尋問が始まると,不思議なことが起きました。弁護人は,母親に,どういう気持ちで遮へい措置を希望したのかを質問しました。すると,証人の母親は,裁判官と裁判員に言いました。「遮へいって何ですか?これ(衝立)は何のためにあるんですか?これ(衝立)いらないんですけど。息子はここ(法廷)にいるんですか?息子に会いたいんですけど。」

 弁護人は,そうであれば,遮へい措置の必要はない旨の意見を述べました。その結果,証人と被告人の間の衝立は撤去されました。親子の久しぶりの再会でした。証人が被告人に話しかけたため,尋問は一時中断しました。再開後,弁護人は,久しぶりに息子の顔をみてどう思ったかを質問しました。

 弁護人として疑問に思うのは,検察官は,本当に,証人の自由な証言を確保する必要があると考えて遮へい措置を求めたのかという点です。検察官は,捜査段階で,被告人に対する被害感情を述べた母親の調書をとっていました。母親が法廷で被告人の姿を見たら,息子に対する気持ちから被害感情についての証言を変えるかもしれません。でも,遮へい措置をしておけば,そのリスクを減らせます。断定はできませんが,あの法廷での母親の言葉を聞く限り,遮へい措置をしたかったのは,証人ではなく,検察官だったのではないか。「やっぱり,被告人のことは怖いという気持ちがあるんですよね。」と証人を誘導して,恣意的に遮へい措置を求めたのではないか。そんな疑念をもたざるをえません。

 裁判所に対しても,検察官の言うことを鵜呑みにして安易に遮へい措置を認めることがないよう,十分注意をしてもらいたいと思いました。

(鏑木信行)

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