SNS上の誹謗中傷の投稿者を特定するための「新たな裁判手続」について
2020年12月21日付のNHKニュースにて、「SNS上のひぼうや中傷被害防止へ 新たな裁判手続きの創設決定」という報道がなされました。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201221/k10012775821000.html
報道によれば、「フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが、SNS上でひぼう中傷を受ける中で自殺した問題をきっかけに、総務省の有識者会議が投稿した人の情報開示に関する検討を進め、21日の会合で新たな裁判手続きの創設を決めました」とのことで、この「新たな裁判手続」によってSNS上の誹謗中傷の投稿者に関する情報開示が「迅速に進められる」ということになっています。この「新たな裁判手続」を創設するようになった背景、及び現時点で分かっている内容について本ブログで紹介致します。
総務省の有識者会議(発信者情報開示の在り方に関する研究会)は、今年の4月から12月まで11回行なわれており、議事の内容等についてもホームページ上で公開されています。「新たな裁判手続」の内容についても、リンク先の最終とりまとめ(案)の中で紹介されています。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/index.html
「新たな裁判手続」を創設するようになった背景としては、誹謗中傷の投稿者に関する情報開示の裁判手続の負担が大きすぎるという点があります。
SNS上の誹謗中傷の投稿により権利侵害がなされていることが明白な場合でも、情報を有しているSNSの運営者や接続プロバイダは原則として裁判外では開示しません(特に海外の法人については、裁判所の決定がなければ開示することはないといって良いです)。そのため法的手続が必須となるのですが、その場合、(1)SNSの運営者に対して仮処分を申立てた上、仮処分の結果接続プロバイダからのアクセスに関する情報の開示を受ける(2)接続プロバイダに対して訴訟を行い、勝訴してプロバイダの契約者に関する情報の開示を得るという二回の裁判手続を経る必要があります。
このように二回の裁判手続を要し時間も費用もかかることから、被害者にとっては非常に大きな負担となっています。また、時間を要している間に、接続プロバイダのログ保存期間を徒過し、時間切れで特定に至らないということも珍しくはありません。
総務省の有識者会議で創設を決めた「新たな裁判手続」については、最終とりまとめ(案)によれば、次のような内容になるようです。
- SNSの運営者に情報を開示させた上、接続プロバイダの発信者情報の保全を行い、接続プロバイダに情報を開示させるという一連の手続を一回で行なうようにする。
- 現行法上の開示請求権を存置し、現行の手続(上記二回の裁判手続を経て特定させる)も維持する(被害者は手続を選択することができる)。
- 開示する要件としては、現行法と同様(権利侵害の明白性が認められる場合)とする。
「新たな裁判手続」について現在明らかになっている内容からしても、誹謗中傷の投稿者に関する情報開示の裁判手続の負担はかなり軽減されることになるでしょう。手続の詳細については今後更に検討されることになりますが、被害者のSNS上で誹謗中傷を受けて泣き寝入りする人が少しでも減るよう、実効的な手続を導入していただきたいものです。
弁護士 大窪和久
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