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2020年2月

2020年2月24日 (月)

応召義務に関する新たな通知が発出されました

医師の「応召義務」という言葉は、よく耳にする割には、その義務の範囲がはっきりせず、言葉が一人歩きしているところもあったように思います。

 

ところで、昨今の働き方改革では、医師についても労働時間の規制が議論されています。もし、応召義務を「いつでも、誰からでも、診療を求められたらそれに応じる義務がある」というような理解をしてしまうと、医師に無制限の労働の義務を課すことになり、働き方改革の考えと抵触してしまいます。そのため、医師の応召義務をどのように整理するかが問題となっていましたが、昨年12月に厚生労働省より応召義務に関する新たな通知が発出されました。

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf

 

新たな通知では、診療を求められた時間帯や、患者の容態等の緊急性の有無といった観点から場合分けをして応召義務の有無を検討していますが、注目されるのは、「医師と患者間との信頼関係の有無」という観点からも応召義務の有無を整理した点です。

一般的に信頼関係がこじれる場面として想定されているのは、患者側の態度(迷惑行為)とお金に関して問題が生じた場面です。患者の迷惑行為を理由とした診療の拒否ができる場合の例としては、患者側が診療内容そのものとは関係のないクレームを繰り返し行う場合をあげています。

他方、単に過去の医療費に不払いがあるだけでは、それのみを理由に診療を拒否することはできないとしています。医療費の不払いを理由に診療を拒否できるのは、支払い能力があるのに悪意を持って支払いを拒否したり、支払い能力がないのに医学的な治療を要さない保険適用外の診療を求めるような場合等、正当化される場面を限定的に整理しています。

 

ただ、中には、問題の原因が複合的になっていて、医師側としては診療を拒んでも問題がないケースなのか否かが判別し難いということもあると思います。医業は、法律による規制だけでなく、厚生労働省の種々のガイドラインとの適合も求められるため、最近は、常勤の弁護士を院内においている医療法人も徐々に増えてきました。

クリニック・病院のガバナンスの相談相手としても、弁護士を利用されることをお勧めします。

(小堀 惇)

2020年2月15日 (土)

保釈について

昨今、逮捕とは被害者感情を慮った懲罰である、あるいは保釈は反省に伴う恩恵であるというような誤解が世間では罷り通っているようです。しかし、法はそのような定めになっていません。この段階ではまだ無罪推定が働いているからです。そこで、今回は保釈について改めて説明したいと思います。

保釈というのは、起訴「後」に保釈保証金を積んで被告人の身柄を釈放することができるという制度です。ですから、起訴される前の逮捕勾留段階では保釈は使えません。また、裁判で実刑判決が下れば保釈は取り消され、身柄は拘束されます。金で自由を買うかのような言い方をされることがありますが、その自由は判決が出るまでの暫定的なもので、保釈金はいわばその担保です。

この保釈という制度には、権利保釈と裁量保釈の2つがあります。前者は、条件を満たしていれば保釈「しなければならない」もので、後者は「裁量で」保釈を認めるというものです。

権利保釈の条件は、以下6点です。

  • 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものではないこと。
  • 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがないこと。
  • 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものでないこと。
  • 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がないこと。
  • 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がないこと。
  • 被告人の氏名及び住居が判明していること。

つまり、住所氏名がわかっていて、重い前科がなく、逮捕勾留された事件も重罪犯罪ではないのなら、権利保釈の条件は「常習犯でないこと」と「証拠隠滅や口裏合わせをしないこと」だけなのです。

しかも、保釈は起訴後、つまり取調べが全て終了し、裁判を待つばかりの段階になって初めて可能になる制度です。捜査が全て終わっている段階ですから、捜査機関は既に全ての証拠を手中にしているのであり、今更証拠隠滅も口裏合わせもあり得ない段階にあるのです。そうであれば、この段階で行われるかもしれない証拠隠滅や口裏合わせなど、現実にはほとんど想定できません。

実際には、以上の条件を満たした後に、保釈金を納めることで釈放されますので、事実上の資金条件もありますが、実は逃亡しないこと自体は条件ではありません。逃亡しないことの担保は、お金で図られているのです。 

以上から、お金さえ納められればほとんどの事案で保釈は認められて然るべきというのが本来の保釈の在り方であり、そこに被害者感情や反省はおろか、途中で否認に転じたところで、そんなことは保釈に影響するものではないのです。

とはいえ、保釈を通すには相応の理論武装と物証が必要になるというのが、残念ながら現在の保釈実務です。無罪推定が及んでいる者の権利の確保は、今後も粘り強く取り組んでいくべき課題と言えます。

(石丸 文佳)

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