死刑執行に抗議する
8月2日,2名の死刑囚に対する死刑が執行されました。私(櫻井)は,死刑は非人道的な刑罰であり,速やかに廃止されるべきだと考えています。欧州諸国では既に廃止されている死刑を維持する必要性は全くありません。存置の根拠に,よく遺族感情が持ち出されますが,先般判決があった,公道レースのような走行で赤信号を無視し,青信号に従って交差点に入ってきた自動車に乗っていた4人を死なせたような危険運転の事故でも法定刑の上限は有期刑です。この場合は遺族の処罰感情がいくら強くても死刑ということにはなりません。法の目的が遺族感情の満足だけでないことの表れです。そうであれば,死刑の根拠を遺族感情に求める,もっと言えば,遺族感情のせいにするのは間違いだと思います。政府は,日本人としての誇りを持てるようにしたいと考えるなら,真っ先に死刑を廃止すべきだと考えます。
以下は死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90の抗議声明を,許可を得て転載します。(櫻井)
抗 議 声 明
本日(8月2日)の庄子幸一さん(64歳・東京拘置所)、鈴木泰徳さん(50歳・福岡拘置所)に対する死刑執行に対し、強く抗議する。
今年日本ではラグビーワールドカップが開催され、世界からの注目度は増している。そんな中での死刑執行は、世界の人々から日本の人権状況を指弾されるだろう。
日本政府は、すでに世界の70%の国と地域が死刑を廃止していることに目を向け、また死刑に誤判が不可避であることを理解し、さらに先の世論調査では、終身刑を導入すれば死刑を廃止してもよいという意見が40%近くに及んでいることを踏まえ、死刑執行を停止して、死刑廃止に向けた議論を開始すべきである。
昨年のオウム事件13名の大量執行の異常さは、EUを始め多くの国から批判された。13名の中には再審請求中の人も多く、そして昨年末の2名の執行も再審請求中の人だった。
今回の執行で、安倍晋三内閣は、第一次で10名、第二、三、四次で38名、合計48名という過去最多の死刑を執行した内閣となった。私たちはこの安倍内閣の残酷さに怒りを禁じえない。
今回の死刑執行がどのような過程を経て決定されているのか、まったく明らかにされていない。どのような基準で、誰がどのように執行される死刑囚を決定しているのか。国家が人の命を奪うという究極的な権力を発動する時に、その過程がまったく明らかにされないのは民主国家としてはあり得ないことだ。しかし、現実にはある日突然「本日死刑確定者何名に対して死刑を執行しました」と、確定判決で認定された「罪状」とともに発表するだけ。再審請求中の人をも執行するという暴挙は、憲法32条の「何人も、裁判所において裁判を受ける権利がある」に対する違反となるにもかかわらず、その執行をする根拠を示すことさえしない。
私たちは、広く社会に向けて、あらためて、このような殺戮の繰り返しや、命を奪うことによっては、なに一つ問題は解決しないこと、そして終身刑等の導入など、死刑を執行しなくてもよい施策を真剣に検討することを呼びかける。
今回処刑された庄子幸一さんは再審請求中だった。庄子幸一さんは、2件の女性殺人事件で死刑判決を受け、2007年11月に死刑が確定した。近年は、被害者への謝罪・償いとして多くの短歌・俳句を詠み、死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金に多数の作品を応募し、その作品は高く評価されている。
また、国会議員が実施した死刑囚アンケートに答えて、「許して下さい。許して下さい。許して下さい。赦しのない時間の中で、貴女方に語りかけることを私に許して下さい。いつの日かこの獄中に終わる命ですが。(中略)我が悔の想いが届く日まで。魂があると信じて生きている限り私を責め来る声に耳を澄ます。そう命のある限り!」アンケートの最後には次のような歌を記している。
「歪みなき悔ゆる叫びの声透る命を賭して血は流れけり」
鈴木泰徳さんは、2004年に福岡で起こった3女性強盗殺人事件の実行犯として2011年に死刑が確定した。裁判では、殺意はなかったことや心身耗弱状態であったことなどを主張していた。現在は、再審請求も恩赦出願もしていなかったと思われる。
山下貴司法務大臣が就任して、2度目の死刑執行だが、参議院選挙が終わり昨日国会が始まったばかりだった。二人の事件記録を精査する余裕などあるわけがなく、慎重さを欠く拙速な執行だったと言わざるを得ない。
私たちは、死刑の廃止を願う多くの人たちとともに、また山下法務大臣に執行された庄司さん、鈴木さんに代わり、そして死刑執行という苦役を課せられた拘置所職員に代わって、山下法務大臣に対し、強く抗議する。
2019年8月2日
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90
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