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2019年5月14日 (火)

転載 今井亮一の裁判傍聴バカ一代「右直事故」

今井さんの許可を得て転載します。

 

☆★☆☆★☆☆☆★☆☆☆☆
 
今 井 亮 一 の
 裁 判 傍 聴 バ カ 一 代
(いちだい)
 <典型的な「右直事故」、
   失われなくていい若い命がまた>
 2019年5月11日(土) 第2253号
☆☆☆☆★☆☆☆★☆☆★☆

 前号のオービス裁判が終わって13時48分頃、同じフロアの202号法廷へ入ってみた。
 13時30分~14時30分、刑事第2部(伊藤吾朗裁判官)で「過失運転致死」の審理。 ※東京地裁は刑事第○部だが、さいたま地裁は第○刑事部なのだ。

 被告人は非身柄。中堅の女性弁護人と男性弁護人の間に座っていた。黒のパンツスーツで地味な小顔少女…。
 検察官の後ろに、喪服の年配男性が。被害者の父親だろう、静かな悲しみの底にいる、という感じだ。その隣の中年男性は被害者参加弁護士か。
 傍聴席に喪服の若い男女が2人ずついる。

画像
 ※画像は本件と関係ない。本件の自動二輪の損傷は画像の程度ではなかったはず。

 ちょうど検察官が論告を始めるところだった。

検察官 「最も基本的かつ重要な注意義務を怠り…右折進行する際、対抗直進車の…」

 被告人は普通乗用車を運転して交差点を約15キロの速度で右折、その左側面前部へ直進の自動二輪を衝突させ、25歳男性を外傷性脳損傷などで死亡させたのだという。
 典型的な右直(うちょく)事故だ。

 私は昔、オートバイ乗りだった。
 オートバイは前面の面積が小さいため、対向車からは速度が読みにくく、かつ実際より遠くに見える。そこから起こる右直事故が非常に多い。法的にどっちが悪くても良くても、死傷するのは体がむき出しのオートバイのほうだ。オートバイ乗りの基本は「ケガと弁当は自分持ち」。気をつけろ!
 そのようにあちこちで何度も何度も教わった。
 とくに右折車は信号の変わり目に右折することが多い。黄色信号のとき、普段はアクセルを巻いて(※)突っ切るのだけど、対向車線に右折待ちの車両がいるときは止まろうよ、ということが身についた。 ※オートバイのアクセルは右ハンドルグリップを手前に巻いて開けるようになっている。

検察官 「ドライブレコーダーの…衝突…被告人車両は大きく傾き…」

 なにぃ、普通乗用車を衝撃で大きく傾けるって、被害者の自二はどんだけスピードを出してたんだ?

検察官 「被告人…前科がない…保険により賠償…母親が公判廷で…を約束…そこで求刑です」

 求刑は禁錮10月だった。
 死亡事故で求刑が10月ってかなり低い。「うわ、バイクが高速だったんだね」と私は傍聴ノートに書いた。

 13時53分、被害者の意見陳述を被害者参加弁護士が行なった。
 かつれつよく、良い声ではつらつと、徹底的に被告人を悪く言った。被害者側の速度については一切触れず。なんと空虚な有能さか、申し訳ないけど私はそう思った。

弁護士 「被告人を厳罰に処さなければ同じことをくり返すでしょう」

 なんだと、この野郎! 私はムカついた。
 こんな小娘(被告人)を有罪にして満足するお前らが、右直事故が当たり前に起こる事故であることを結果として隠し、右直事故により進路をそれた車両が歩道で信号待ちをしている“柔らかな命”を奪う事態を、これからも招き続けるのだ!

 続いて弁護人が最終弁論。
 相弁護人の席にいた男性弁護人(もみあげからあごへ黒い髭)が、主任の女性弁護人のさらに裁判官席寄りに立ち、紙を見ることなく述べ始めた。裁判員裁判好きな弁護士なのだね、きっと。
 こんな部分があった。

弁護人 「甲12号証…(被害者の自二は)時速86キロから93キロのスピード…甲2号証…制限速度は40キロ…甲4号証…ドライブレコーダー…衝突の0.7秒後に赤信号になっている…3.3秒前に黄色に変わった」

 


 交通部門の警察官も検察官も持っているこの本によれば、時速90キロで車両は25m進行する。
 被害者の自二がずっと90キロの速度だったとすれば、交差点の82.5m手前で黄色になったのに止まらず、交差点に突っ込んだことになる。
 負傷ですまず死亡に到ったのは、ひとえに被害者自身の速度の出し過ぎじゃないのか。
 しかし、25歳の若い命が失われたのだし、いちおう直進優先のルールがあるので、右折車のほうを処罰しとこう、そういうことと思えた。

 若い頃の私は、オートバイでけっこうかっ飛ばした。「ケガと弁当は自分持ち」と教わっても、他人事と考えていたところがある。

今井  「うわっ、今の瞬間、大事故になって死んでてもおかしくない。助かったのは幸運としか言いようがない。おかげで今後はこのシチュエーションに注意するけれども、不運にも死んでしまう人もいるんだろうなぁ」

 そのようにひりひり思ったことが何度もある。本件の被害者は死んでしまった、そう言えるかも。
 判決期日を決めるに当たり、被害者参加弁護士が言った。

弁護士 「命日が5月26日…それ以降が良いと…」

 裁判官が5月31日を提案すると、検察官が言った。

検察官 「命日から少なくとも1週間以上いただきたいと…」

 判決は6月6日(木)11時30分からB棟301号法廷となった。
 おそらくは昨年の5月26日、25歳の若者が右直事故で亡くなったのだ。なんてこった、合掌。

──────★ 編集後記 ★───────

1、交通事故の多くは交差点及びその付近で起こる。人や車両が交差するのだから当たり前だ。
2、右折車は信号の変わり際に右折することが多い。
3、右折車は、対向直進自二が実際より遠くにいると感じ、かつその速度を見誤りがちだ。
4、直進自二と右折車との右直事故は、自二にとっては典型的な事故パターンである。
5、直進自二は信号の変わり際の交差点へ突っ込むな!
6、どっちが悪くても死傷で大損するのは自二の側だ!
7、速度が高いほど回避しにくく、かつ死傷の程度は大きくなる!

 右直事故はありふれており、自二の運転者が死亡したくらいではまず報道されない。
 報道されても、以上7つの流れにテレビ、新聞が言及することは絶対にない。たぶん、「死傷した側をムチ打つのか!」とクレームが殺到するから。そもそもそんな言及は記者クラブメディアの役割から外れるし。
 かくして、起こりやすい事故が起こり続け、失われなくていい命が失われ続ける、そういう構図が私には見える。

 あなたが自二や四輪を運転するなら、これまで以上に肝に銘じてください。
 自二や四輪を運転する方が周囲においでなら、うるさく教えてあげてください。

 4月末に332部、5月4日に328部だった発行部数は、なんと現在333部! ありがとうございます~!

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