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2019年3月15日 (金)

無期雇用契約から有期雇用契約への変更や、不更新条項は同意してしまったらそれまでか?

1.無期雇用契約から有期雇用契約への同意の効力が争われた事案が公刊物に掲載されていました(熊本地判平30.2.20労判1193-52 社会福祉法人佳徳会事件)。

  この事件では、無期の正職員としての就業の開始後に、契約期間を2年間と明示している労働条件通知書・確認書に署名・押印したことの効力が争点の一つとなっていました。

2.個別合意による賃金や退職金に関する労働条件の変更に関しては

「当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても…直ちに労働者の同意があったとみるのは相当でなく、…同意の有無については当該行為を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断される」

 との判断枠組みが示されています(最二小判平28.2.19民集70-2-123 山梨県民信用組合事件)

  これは、外形的に同意があったとしても、それが自由な意思に基づいてなされたと認められるだけの合理性が客観的に担保されていなければ、同意の効力が否定される場合があるという意味です。このルールは、専門家の間では「自由意思による同意の法理」と言われることもあります。

3.熊本地裁の判決は、無期労働者と有期労働者との間には

「契約の安定性に大きな相違がある」

ことなどから、有期か無期かは

「賃金及び退職金等と同様に重要な事項であるといえる」と判示しました。

  そのうえで、上記最高裁の枠組みと同様の判断基準に従うことを示し、

「期間の定めのある雇用形態に変更した理由について、…労働者の雇用形態を配慮した変更とは考えられないこと」

「雇用形態を変更することについての不利益を原告に十分行ったと認められないこと」

「本件労働条件通知書に署名・押印しなければ解雇されると思ったためこれに署名したとする原告の供述も合理的であること」

を指摘し、

「原告が本件労働条件通知書に署名した行為は、原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない。したがって、原告と被告との雇用契約を期間の定めのある雇用契約へと変更することに原告の合意があったとは認められない。」

と判示しました。

  自由意思による同意の法理が適用される場面は限られていますが、熊本地裁の判決は、無期雇用契約から有期雇用契約に変更する場面においても、同法理の適用を認めた点に意義があります。

4.この判例は、他の紛争類型でも活用できる可能性を持っています。

  例えば、以前、このブログで、

 「女性が20年働いた職場を雇止めされたケースでした。大手企業だから早くに対応も始めていて、法改正時の今から5年前、2013年の契約更新時の新しい契約書に『4月以降の通算契約期間は5年を超えないものとする』と今までなかった文言を追加したそうです。会社側は、当然のように『法律が変わって、5年を超えて更新できなくなった』と説明をして、『ここでやめるか、ハンコを押すかの二択だ』と言ったらしいです」

 との事例をもとに、有期雇用の無期転換ルールを批判する社会保険労務士の記事を紹介させて頂いたことがあります。

 https://www.mag2.com/p/news/375000

http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-6d73.html

 20年も有期労働契約を反復更新していれば、それは期間の定めのない労働契約と同視できるはずだという議論は十分に成り立つのではないかと思います。

 この場面で不更新条項付きの有期雇用契約書に署名・押印してしまったとしても、今回の熊本地裁の判決を引用すれば、「自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない」として不更新条項への同意の効力を否定することができるかも知れません。

  今後、同種の判例が積み重ねられるかまでは不分明ですが、熊本地裁の判決により、無期雇用契約(実質的なものも含む)を有期雇用契約に切り替えられ、その後、契約が更新されることなく雇い止めをされてしまったという場合でも、地位の回復を図ることができる可能性が、より開かれることになったのではないかと思います。

 お悩みの方は、ぜひ、一度ご相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

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