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2019年3月 4日 (月)

芸能人の方が不当な働き方を強いられていた事件

1.近時、女性歌手の方からの相談を受けました。

  アプリケーションを通じてインターネット配信されている動画番組への出演契約を違約金なしで取り消すことができないかとのことでした。

  契約書を見てみると、

 「報酬金額:番組に関しての金銭報酬は発生しないものとする。」

 「出演依頼者の自由意思による契約であり、出演者は強制的に依頼書提出するものではない旨を確認する。」

 「連絡が取れなくなったり、出演不可となった場合は無催告解除となり直ちに製作費の損害を請求致します。」

 「出演依頼に対するメール・LINEへの返信がない場合(日程含む内容)に関して適時に連絡のない場合、協議の上、製作費の損害を請求致します。」

 「原則24時間以内の返信とします。連絡できない理由がある場合は、速やかに甲(番組制作側 括弧内筆者)への通知を要し、後日証明書類を提示しなければなりません。」

 「番組内で酩酊状態になったとしても、一切の責任は乙(出演者 括弧内筆者)とします。」

 などの文言が並んでいました。

  かみ砕いて言うと、要するに、

タダ働きをしてください、

 ただし、タダ働きを嫌だと言い出せば、番組制作費を払ってもらいます、

 当方からの連絡に対しては24時間以内に返信してください、

 返信がなければ、やはり番組制作費を払ってもらいます、

 番組では酒を飲ませますが、どれだけ酔っても自己責任です、

 あと、この契約は、あくまでも、出演者の自由意思によるという設定になっているので、そこのところ了解しておいてください、

 というものです。

ブラック企業と呼ばれるような会社でも、ここまで無茶な条件を並べて働かせているところは少ないのではないかと思います。

2.自由意思による契約だということを明記している契約書は、街弁をやっていると、それなりに目にすることがあります。消費者被害を生じさせているような会社が挿入していることの多い条項です。弁護士的な発想で言えば、このような条項を入れなければならないこと自体、公正さに欠ける契約であることを自認しているに等しいと思うのですが、問題のある契約を押し付ける側はそうは思わないようです。

  こういう胡散臭い条項から予想されるとおり、番組内容は酷いものだったようです。

  「(芸能界の)先輩やぞ。」などと言いながら飲酒を強要し、性交渉を最初にした時の状況などの性的な質問を執拗に繰り返されたとのことでした。

3.女性歌手の方が、なぜ、このような無茶な契約書を取り交わしたのかと言うと、著名企業が番組のスポンサーをしていて、宣伝になると思ったからです。

  番組はインターネットを通じて生動画で流される形式でした。番組紹介のページに著名企業の名前が掲げられていたほか、契約前に当該企業がスポンサーであると伝えられていました。

  しかし、番組の規模や内容から疑問を持った女性歌手が問い合わせたところ、当該著名企業が問題の番組のスポンサーになっている事実はないことが明らかになりました。

  端的に言ってしまえば、女性歌手の方は騙されていたのです。

4.女性歌手の方は、錯誤に陥らされて契約を結んだものであり、問題の契約は無効であると解されます。実際、スポンサーの件を問い質して交渉したところ、裁判にもならずに番組側は契約が無効であることを認めました。もちろん、違約金を請求されることもありませんでした。

5.芸能関係の方は、フリーランス・個人事業主の立場で仕事をしている人も珍しくありません。

  労働者であれば、労働基準法、労働契約法をはじめとする労働関係の法令によって保護されます。個人事業主の形式をとっていても実質的には労働者と理解されるような働き方をしている方に関しても、労働者性を争うことによって救済を図ることができます。

しかし、名実ともに雇用関係によらず、フリーランス・個人事業主として働く方を守ることは、それほど簡単ではありません。どれだけパワーバランスがとれていなかったとしても、事業者間の契約である以上、基本的には契約自由・自己責任の問題として片付けられてしまうからです。

昨年2月、公正取引委員会が「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表し、フリーランス・個人事業主を保護する方策として独占禁止法が注目されています。

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.html

しかし、独占禁止法を使って契約の私法的効力を否定することは、現実問題として考えると、非常にハードルが高いです。本件でも、本当に当該著名企業が番組のスポンサーであったとするならば、契約の効力を否定できたかは微妙なところだと思います。そう考えると、やはり、不当な契約、不合理な契約は結ばないに越したことはありません。

変な契約を結ばないことは、それほど難しいことではありません。一拍置いて弁護士に契約書をチェックしてもらえば良いのです。その場で契約書への署名・押印を迫るような相手とは契約を結ばなければ良いのです。

弁護士は色々な事案に触れて公平な契約がどういうものなのかを知っているため、変な契約は一読すれば分かります。安心して働くため、フリーランスや個人事業主の方こそ、気軽に相談できる弁護士を確保しておくことをお勧めします。

(弁護士 師子角 允彬)

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