« 固定残業代の有効性が否定された例 | トップページ | 3月,4月の神山ゼミのお知らせ »

2019年2月21日 (木)

フランチャイズ加盟店のオーナー(コンビニオーナー)の働き方に対する法的保護について

1.セブンイレブンのフランチャイズ加盟店のオーナーが「24時間はもう限界」として営業時間を短縮したことで、本部と対立しているとの記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16044762/

 記事によると、

「この店舗は人手不足などを理由に、2月1日から午前1~6時の営業をやめ『19時間営業』を開始。本部から『24時間に戻さないと契約を解除する』と通告されている。応じない場合、違約金約1700万円を請求された上、強制解約されてしまうという。」

とのことです。

 加盟店のオーナーである「松本さん」が24時間営業に限界を感じた背景には、妻を亡くし、人手不足が顕著になったことがあるとのことです。

 また、記事では24時間営業を維持するため、

「親の通夜を途中で抜け出し、泣きながら勤務したという人もいる」

とのエピソードも紹介されています。

2.こうした自営業者の法的保護を考えるにあたっては、二つのアプローチ方法があります。

  一つは独占禁止法からのアプローチです。

  独占禁止法というと、一般には、談合や巨大企業による寡占を問題にする法律だというイメージがあります。しかし、力関係に格差のある事業者間の契約を規律するという側面も持っています。

  例えば、優越的地位の濫用という法規制があります。

  独占禁止法は

「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」

と規定しています(独占禁止法19条)。

  そして、独占禁止法2条9項5号ハは、

 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」

 「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」

 を禁止しています。

  加盟店オーナーがフランチャイズ本部から無茶な取引条件を押し付けられている場合、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するとして救済を求めて行くことが考えられます。

  しかし、コンビニの深夜営業に関しては、既に、

「被告(フランチャイズ本部 括弧内筆者)が本件基本契約等の変更を拒み、本件深夜営業を行うことを原告らに求めることは、正常な商慣習に照らして不当に原告ら(フランチャイズ加盟店 括弧内筆者)に対して不利益を与えるものではなく、独占禁止法2条9項5号ハ所定の『不公正な取引方法(優越的地位の濫用)』に当たるということはできない。」

という判例が出されています(東京地判平23.12.22判タ1377-221参照)。

 記事とは前提にする事実関係が違いますし、現在の社会情勢は当時のものとも相当に異なっています。地裁レベルの裁判例ということもあり、どこまで通用性のあるものかは分かりません。しかし、公刊物に搭載されている東京地裁の判例があることは、決して24時間営業を強いられているコンビニオーナーの救済が容易でないことを物語っています。

3.もう一つ考えられるのは、労働法からのアプローチです。

  コンビニのオーナーに労働者性が認められれば、労働基準法を始めとする各種労働法上の保護が受けられます。

  労働基準法上、

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」(労働基準法16条)

とされているので、記事の事案でも労働者性が認められれば、1700万円といった巨額の損害賠償金を支払わされることは防げそうです。

 都労委平成24年不第96号ファミリーマート事件、岡委平成22年(不)第2号セブン-イレブン・ジャパン事件のように、コンビニのオーナーの労働者性を肯定した命令はないわけではありません。

 しかし、これらは労働組合法上の労働者性を認めた事件でしかありません。

 労働者概念については、「労働組合法の方が、労働基準法・労働契約法よりも広い」という理解が一般的であり(山川隆一ほか編著『労働関係訴訟Ⅰ 最新裁判実務体系7』〔青林書院,初版,平30〕16頁)労働組合法上の労働者といえるからといって、直ちに労働基準法上の労働者として労働基準法の保護を受けられることにはなりません。

 一般論としては、フランチャイズ契約の当事者となっている加盟店オーナーを労働者とみるのは、それほど簡単なことではないだろうとは思います。

4.フランチャイズの本部と加盟店の関係もそうですが、力関係に相当な格差があっても、事業者間の契約となると、内容に偏りがあっても、契約自由・自由競争とはそういうものだという理解のもと、裁判所はそのままの内容で契約の有効性を承認することが多いように思われます。

  しかし、働き方が多様化して、労働者とフリーランス・個人事業主との境目が曖昧な就労形態も生じてきている現状を考えると、本当にそれでいいのかと思います。

  望ましいのは事業者間での契約の公平性を担保するための何等かの立法措置だとは思います。

  しかし、それが困難である間は、公平性に欠ける取引条件を押し付けられている個人事業主の法的利益を保護するためには、独占禁止法や労働法を用いた解釈論によるアプローチをとってゆくしかないのだろうと思います。

  勝てる・何とかなると軽々に言える事件類型でないことは確かですが、お悩みの方は、一度相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

 

« 固定残業代の有効性が否定された例 | トップページ | 3月,4月の神山ゼミのお知らせ »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 固定残業代の有効性が否定された例 | トップページ | 3月,4月の神山ゼミのお知らせ »

2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ