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2019年2月

2019年2月21日 (木)

フランチャイズ加盟店のオーナー(コンビニオーナー)の働き方に対する法的保護について

1.セブンイレブンのフランチャイズ加盟店のオーナーが「24時間はもう限界」として営業時間を短縮したことで、本部と対立しているとの記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16044762/

 記事によると、

「この店舗は人手不足などを理由に、2月1日から午前1~6時の営業をやめ『19時間営業』を開始。本部から『24時間に戻さないと契約を解除する』と通告されている。応じない場合、違約金約1700万円を請求された上、強制解約されてしまうという。」

とのことです。

 加盟店のオーナーである「松本さん」が24時間営業に限界を感じた背景には、妻を亡くし、人手不足が顕著になったことがあるとのことです。

 また、記事では24時間営業を維持するため、

「親の通夜を途中で抜け出し、泣きながら勤務したという人もいる」

とのエピソードも紹介されています。

2.こうした自営業者の法的保護を考えるにあたっては、二つのアプローチ方法があります。

  一つは独占禁止法からのアプローチです。

  独占禁止法というと、一般には、談合や巨大企業による寡占を問題にする法律だというイメージがあります。しかし、力関係に格差のある事業者間の契約を規律するという側面も持っています。

  例えば、優越的地位の濫用という法規制があります。

  独占禁止法は

「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」

と規定しています(独占禁止法19条)。

  そして、独占禁止法2条9項5号ハは、

 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」

 「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」

 を禁止しています。

  加盟店オーナーがフランチャイズ本部から無茶な取引条件を押し付けられている場合、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するとして救済を求めて行くことが考えられます。

  しかし、コンビニの深夜営業に関しては、既に、

「被告(フランチャイズ本部 括弧内筆者)が本件基本契約等の変更を拒み、本件深夜営業を行うことを原告らに求めることは、正常な商慣習に照らして不当に原告ら(フランチャイズ加盟店 括弧内筆者)に対して不利益を与えるものではなく、独占禁止法2条9項5号ハ所定の『不公正な取引方法(優越的地位の濫用)』に当たるということはできない。」

という判例が出されています(東京地判平23.12.22判タ1377-221参照)。

 記事とは前提にする事実関係が違いますし、現在の社会情勢は当時のものとも相当に異なっています。地裁レベルの裁判例ということもあり、どこまで通用性のあるものかは分かりません。しかし、公刊物に搭載されている東京地裁の判例があることは、決して24時間営業を強いられているコンビニオーナーの救済が容易でないことを物語っています。

3.もう一つ考えられるのは、労働法からのアプローチです。

  コンビニのオーナーに労働者性が認められれば、労働基準法を始めとする各種労働法上の保護が受けられます。

  労働基準法上、

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」(労働基準法16条)

とされているので、記事の事案でも労働者性が認められれば、1700万円といった巨額の損害賠償金を支払わされることは防げそうです。

 都労委平成24年不第96号ファミリーマート事件、岡委平成22年(不)第2号セブン-イレブン・ジャパン事件のように、コンビニのオーナーの労働者性を肯定した命令はないわけではありません。

 しかし、これらは労働組合法上の労働者性を認めた事件でしかありません。

 労働者概念については、「労働組合法の方が、労働基準法・労働契約法よりも広い」という理解が一般的であり(山川隆一ほか編著『労働関係訴訟Ⅰ 最新裁判実務体系7』〔青林書院,初版,平30〕16頁)労働組合法上の労働者といえるからといって、直ちに労働基準法上の労働者として労働基準法の保護を受けられることにはなりません。

 一般論としては、フランチャイズ契約の当事者となっている加盟店オーナーを労働者とみるのは、それほど簡単なことではないだろうとは思います。

4.フランチャイズの本部と加盟店の関係もそうですが、力関係に相当な格差があっても、事業者間の契約となると、内容に偏りがあっても、契約自由・自由競争とはそういうものだという理解のもと、裁判所はそのままの内容で契約の有効性を承認することが多いように思われます。

  しかし、働き方が多様化して、労働者とフリーランス・個人事業主との境目が曖昧な就労形態も生じてきている現状を考えると、本当にそれでいいのかと思います。

  望ましいのは事業者間での契約の公平性を担保するための何等かの立法措置だとは思います。

  しかし、それが困難である間は、公平性に欠ける取引条件を押し付けられている個人事業主の法的利益を保護するためには、独占禁止法や労働法を用いた解釈論によるアプローチをとってゆくしかないのだろうと思います。

  勝てる・何とかなると軽々に言える事件類型でないことは確かですが、お悩みの方は、一度相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2019年2月10日 (日)

固定残業代の有効性が否定された例

1.固定残業代とは、残業代(割増賃金)を予め基本給に組み込んだり、定額の手当として残業代を支払ったりする仕組みをいいます。

  固定残業代が有効であるためには、

通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要…(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,最高裁平成27年(受)第1998号同29年2月28日第三小法廷判決・裁判所時報1671号5頁参照)」

とされています。

また、固定残業代を導入したとしても、使用者は、

「割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,・・・その差額を労働者に支払う義務」を負います(以上、最二小判平29.7.7労判1168-49等参照)。

2.使用者には「労働時間を適切に管理する責務」があります(平成13.4.6基発第399号「労働時間の適正な把握のため使用者が講ずべき措置に関する基準」参照)。この義務は固定残業代を導入したところで免れることはできません。そのことは、上記基準が、

① 「本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定の全部又は一部が適用される全ての事業場とする」と明記していること

 ② 「時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認」を求めていること

 からも明らかです。

このことは、固定残業代を導入することが、企業側から見て経済合理性がないことを意味します。

  個々の労働時間を把握する責務から解放されるわけではありませんし、定額残業代を上回る時間外勤務手当が発生していないかを確認するため法所定の方式に従って時間外勤務手当を計算する作業を免れるわけでもないからです。

  そして、実際の時間外勤務手当が定額残業代を下回っている場合には本来払わないで良い残業代を支払うことになりますし、実際の時間外勤務手当が定額残業代を上回っている場合にはその差額を労働者に支払わなければなりません。

  法の趣旨をきちんと順守すれば、理論上、定額残業代を導入した場合の企業の人件費総額は、導入以前よりも常に高くなることになります。

3.ところが、現実には、固定残業代を導入している・導入したがっている企業は相当数に及びます。

  このことは法の趣旨を曲解した適法性に疑義のある運用がなされている例が蔓延しているからではないかと思います。実際、固定残業代の適否を巡る紛争は頻発していて、しばしば判例集にも掲載されています。

  近時、判例集に掲載された東京高裁平30.10.4労判1190-5イクヌーザ事件もその一つです。

  この事案では、月80時間分の固定残業代を基本給に組み込んでいたことの有効性が問題になりました。この事案では基本給23万円のうち、8万8000円が月間80時間の時間外勤務に対する割増賃金とする旨が記載された雇用契約書が取り交わされていました。

  裁判所は、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準に言及したうえ、

 「1か月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり,このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して,基本給のうちの一定額をその対価として定めることは,労働者の健康を損なう危険のあるものであって,大きな問題があるといわざるを得ない。そうすると,実際には,長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき,通常は,基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。」

 との規範を示し、

 「本件固定残業代の定めは,労働者の健康を損なう危険のあるものであり,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当」

 であると判示しました。

  その後、裁判所は基本給の全部を時間外、深夜割増賃金算定の基礎となる賃金額としたうえで時間外勤務手当の額を計算し、使用者側に200万円を超える時間外・深夜割増賃金額と100万円を超える付加金の支払いを命じる判決を言い渡しました。

4.最初に述べたとおり、法の趣旨に従って運用する限り、固定残業代は本来経済合理性に乏しい仕組みです。求人広告で基本給を高く見せかけるだとか、過大な時間数を設定して定額働かせ放題の仕組みとして運用するだとか、法が想定していないような趣旨で導入されている例は、相当数眠っているのではないかと思います。

  固定残業代の名のもとに不当な扱いを受けているのではないかとお感じの方がおられましたら、ぜひ、一度ご相談においでください。その疑問には十分な理由がある可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

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