予告ない即時解雇は可能か?
1.「問題社員はすぐクビに。予告なく即日解雇が可能な雇用契約は?」と銘打った記事が掲載されていました(https://www.mag2.com/p/news/381188)。
記事は、問題のある社員を雇うことへのリスク対策として、
「採用時には2か月の有期雇用契約にすべきです。2か月以内の有期雇用契約であれば、期間途中で問題が発覚した場合に、解雇予告なく即日解雇が可能です。もちろん、2か月での雇止めもできます。」
との方法を紹介しています。
しかし、これは間違いだと思います。
このような方法をとっても、即時解雇は可能にはなりません。
2.労働基準法上、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」とされています(労働基準法20条1項本文)。
ただ、このルールは例外があり、
「二箇月以内の期間を定めて使用される者」
には適用されません(労働基準法21条2号)。
記事の筆者は、この解雇予告手当の例外規定を根拠に「解雇予告なく即時解雇が可能」と称しているものと思われます。
しかし、これは解雇の有効性と解雇予告手当の除外事由に該当するか否かを混同しています。
法は「使用者は、期間の定めのある労働契約・・・について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定しています(労働契約法17条1項)。
有期労働契約では「やむを得ない事由」がない限り労働者を解雇することはできません。解雇予告手当の支払い義務の存否は、「やむを得ない事由」が認められて解雇できる場合に問題になることです。厚生労働省労働基準局が発行している概説書にも、労働基準法21条2号の説明箇所で「契約に期間の定めがある場合に、その契約期間満了前に解除することは、民法上は原則としてやむを得ない事由があるとき(同法第六二八条、同様の規定として労働契約法第一七条第一項)又は使用者が破産したとき(同法第六三一条)に限られており(これらの事由の存しない解雇は無効と解される…)、無条件には解雇することができない。」と明記されています(厚生労働省労働基準局『労働基準法 上』〔労務行政,平成22年版,平23〕325-326頁)。
解雇予告手当の支払義務の存否は、解雇が有効になし得る場合であって初めて問題になるものです。2か月以内の有期雇用契約にしたところで、客観的に合理的な理由、社会通念上相当であると認められる理由のない即時解雇はできません。
3.更に言えば、有期雇用にした趣旨や目的が労働者の適正を評価・判断するためである場合、有期雇用にしてもあまり意味がありません。
最高裁が、
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
との判断を示しているからです(最三小判平2.6.5民集44-4-668)。
最高裁の判断は20年以上も昔に出されたものであり、下級審判例の蓄積も進んでいます。期間の定めが試用期間であると理解される場合、当然のことながら、期間の経過をもって自動的に雇止めにすることはできません。労働やの適性を評価・判断する趣旨で有期雇用契約を締結する場合、特段の事情がない限り、有期雇用契約とは扱ってもらえないのです。
4.記事は、
「2か月たって問題がないようでしたら、更に6か月の有期雇用契約を結びます。」
と論旨を進めています。
しかし、法は、
「使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。」
と規定しています(労働契約法17条2項)
また、「試用の期間の延長規定・・・の適用は、これを首肯できるだけの合理的な事由のある場合でなければならない。」と無制約な試用期間の延長を否定した裁判例も古くから出されています(大阪高判昭45.7.10労判112-35参照)。
記事にあるような細切れの有期雇用契約で労働者の適正を見極めるという制度設計は、構築したところで、それが裁判になった場合に有効に機能するのかは甚だ疑問です。
5.問題のない有為な人材を集めたいのであれば、有為な人材にとって魅力的な処遇を用意することが肝要です。余程給料が高いのであれば別かも知れませんが、経営者の方は、自分が労働者であったとした場合、有期雇用契約で細切れにされ、地位が不安定になっているような会社に応募したくなるかを考えてみると良いと思います。きちんとした処遇ができないと、問題のある方しか応募してくれなくなり、それがまた歪な制度設計に繋がるという負のスパイラルに陥ってしまう危険があります。そして制度設計の歪さは集団訴訟のリスクを抱えることに繋がってしまいます。就業規則の作成・変更を行うにあたっては、弁護士と相談のうえ、慎重に検討することが肝要です。
また、所掲のような記事を真に受けた会社から不安定な立場に置かれた挙句、合理的な理由もなく雇い止めに遭った方がおられましたら、一度相談に来てみてください。私の実務感覚上、裁判所は法を潜脱しようとするやり方に対しては、それが露骨であればあるほど厳しい姿勢をとってくれます。
(弁護士 師子角 允彬)
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