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2018年8月 5日 (日)

東京医科大学・女子受験生一律減点方式を考える

東京医科大学が女子の合格者を一定以下に抑えるために、こっそり一律減点していた件で、先日知人から「司法試験の丙案だって不平等だった」と、同列に考えているらしい発言があり、衝撃を受けました。この2つは同列で語れるものではないのですが、ではどこがどのように違うのかという点を今回は分析してみようと思います。

まず、「平等」「差別をしない」というのは憲法14条に端を発するものですが、これが「区別を否定するものではない」ことは皆承知のことと思います。では、何が「区別」として許され、何が「差別」として許されないのか。

これは、端的に言えば、個体差による「合理的な」差を設けることが区別であり、「合理的ではない」差を設けることが差別なのだと思います。たとえば、大人は飲酒喫煙が許されていますが、子どもは許されていません。それは、子どもに対する差別ではなく、子どもという体のできあがっていない弱い個体を飲酒喫煙から遠ざけることが子どもの健康を守るための「合理的な」区別なわけです。

 ところで、司法試験の丙案というのは、旧試験時代、一時期「受験回数が少ない者を優遇して合格させる」目的で取られた制度です。受験回数が3回以内であれば低い点数でも合格できましたが、受験回数が4回を超えている者は、一定以上の点数がないと合格できませんでした。

この制度が一時期採用された理由は、新試験で受験の回数制限が導入された趣旨に通じますが、要するに「人生の全てをかけて試験に挑戦するのはよくない」「そんなに何年もかけないと合格できない人間は根本的に法曹に向いていない」(ので早期に諦めた方が良い)という発想からです。2~3回受ければ70点が取れるようになる者の方が、10回受けて75点が取れるようになった者より実務に出る頃には上回っているだろう、実務家としての時間の中で到達できる地点は前者の方がより高いだろう、という発想で優遇措置を設けたのです。

これに対しては、当初から相当の反対がありました。向いていなかろうが目指すのは勝手だ、初回受験で70点だった者が将来的に90点に、10回目受験で75点だった者が将来的に80点にしかなれない保障がどこにある、というわけで、明らかなのは現時点で70点よりも75点の方が優れているのに75点の方を落とすのはおかしい、という意見です。それでも、一時的にでもこの丙案が採用され、現在の受験の回数制限につながっているのは、制度に一定の合理性があると思われているからです。賛否両論の制度とはいえ、差を設けたことには一応の理屈が成り立っているわけです。

一方で、性差によって扱いを変えることは、多くの場合において区別ではなく差別とされがちです。それは、持って生まれた性別は本人の努力によって変えることのできないものであるうえに、性別そのものはどちらが上でどちらが下という関係にないからです(女性の方が能力が劣るという議論は、例えば力仕事は明らかに筋肉量の多い男性の方が優位であるという類の話であり、全体的に見れば性別による能力の優劣はありません。多くの場合においてこれは、性別による能力差ではなく単なる個体差であったり、環境的な原因による能力差を性別によるものにすり替えているだけです)。とはいえ、性差によって扱いを変えるものであっても、合理的な区別はあります。たとえば、男子校は男子しか入学を認めません。女子には入学の機会も与えられないわけですが、それは男子校は男子のみを集めることで、男子に合った環境を用意し、発達相応の教育を施すという特色をウリにしているからです。もちろん、別学の意味は本当にあるのか、という反論はありますが、それはあくまで賛否両論あるというに過ぎず、一般的に一定の合理性があると思われているから区別として受け入れられているわけです。あるいは、中学高校では男女比率を一定にするために、男子と女子の偏差値が異なるところもあります。これも、男女比率を一定にすることでより達成したい学習目的があるから、一定の合理性ありとして受け入れられているのです。

 では、今回の東京医科大学の件はどうかと言えば、この差別には明らかに合理性がありません。何しろ理由が、「女は産休育休で抜けて戦力にならない、現場を支えているのは男性医師」というものだからです。産休育休で抜けることによる扱いの差は、合理的な区別ではありません。何故なら、生理機能上産休は女性しか取らないとしても、産休はごく短期間で、根本的な問題にはなり得ません。現場が困るとすれば、それは長期間になる育休の方です。

育休は女性が取るもの、家事育児は女性がやるものだと疑っていない現在日本の実態が、最大の問題なのです。仮に、女性は出産、男性は育児と分業されている世界があったとしたら、男が育休を取るのが当たり前になりますから、男性医師の採用を押さえたいはずです。育休を取らずに働きたくても、誰も乳幼児の面倒を見てくれないなら、今の日本は女性の側に育休という犠牲を当然のように求めます。こういう理解のない職場だと、キャリアの断絶はそのまま職業人としての生命に直結するでしょう。それでいて、男性側の身勝手な要求に負けて育休を取れば、今度は現場を離れる女は使えないと言われるわけで、女性はどうすればよいのでしょう?東京医科大学は、当然このような措置が差別に該当するものだとわかっています。だからこそ、このような措置はこれまで公開されることがなかったのです。女性に医師としての適性がないという事実もありません。日本は女性医師の割合が2割程度ですが、世界のレベルで見れば女性医師は約半数を占めます。

現在の日本は、男性に家事育児の負担を押し付けすぎない限度で、女性に対して働け輝けと求めているのです。男性に養われているだけでは生産性がないから働け、でも子どもは生んで育てろ、しかも男性より能力がなければ職場は雇わない。そうしてキャリアを閉ざされ、低収入で働くことに甘んじれば、夫に見放された途端たちまち行き詰まってしまうのですから、人生のリスクを一身に負うことになります。

女性の一律減点措置は論外ですが、それを止めるのが「女性は育休をとるけど性差別はだめとされているから」という理由によるのでは、結局隠れてこのようなことが続きます。男性が育児を行い、育休を取ることが当たり前になれば、自然とこんな性差別には意味がない、むしろ優秀な女性を逃して勿体ないとなるはずで、目指すべきはこちらだと思います。

(石丸 文佳)

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