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2018年8月 9日 (木)

定年後再雇用で不当な労働条件(賃金・給与)を提示された方へ

1.年金の受給開始年齢(65歳 国民年金法26条、厚生年金保険法42条1号)に達するまでの高齢者福祉を代替させるため、法は事業主に対して高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置を講じることを義務付けています(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項)。

  具体的には、① 定年の引き上げ、② 継続雇用制度の導入、③ 定年の廃止 のいずれかの措置をとらなければなりません。

  厚生労働省が発表している「平成29年『高年齢者の雇用状況』集計結果」によると、高年齢者雇用確保措置は従業員31人以上規模の99.7%で導入されています。また、雇用確保措置の内訳は、① 定年の引き上げ が17.1%、② 継続雇用制度 が80.3%、③ 定年制の廃止 が2.6% となっています。

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11703000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-Koureishakoyoutaisakuka/0000182225.pdf

資料を参照すれば分かるとおり、多くの企業は、雇用安定措置として、継続雇用制度(いわゆる定年後再雇用の制度)を採用しています。

2.継続雇用制度で雇い入れられるにあたっては、現役時の給与よりもかなり低い給与水準が示されることが珍しくありません。

  この点に関係して、近時、大幅な賃金引下げを伴う定年後再雇用の提案をすることの適否が問題になった判例が公刊物に掲載されました。福岡高裁平29.9.7労経速2347-3九州惣菜事件です。

  この事案では、定年前に33万5500円の月額賃金(時給換算1944円)をもらっていた労働者に対し、時給900円・月収ベースで月額賃金8万6400円になるような給与水準を示すことの適否が争われました。

  裁判所は、

 「再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有する」

 「その判断基準を検討するに、継続雇用制度(高年法9条1項2号)は、高年齢者の65歳までの『安定した』雇用を確保するための措置の一つであり、『当該定年の引上げ』(同1号)及び『当該定年の定めの廃止』(同3号)と単純に並置されており、導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ、後二者は、65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり、当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち、当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており、仮に、当該定年の前後で、労働者の承諾なく労働条件を変更するためには、別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当」である

 「したがって、例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。」

 との規範を示したうえ、

「本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。」

「月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。」

と会社側による極端な給与水準の引き下げに違法性を認めました。

 結局、この事案で、裁判所は、会社側に対し、原告への100万円の慰謝料の支払を命じました。

3.定年後再雇用に伴って、給与水準が下がったからといって、直ちに違法性が認められるわけではありません。

  しかし、企業経営的な論理で給与水準を下げざるを得ないとしても、それには一定の限界があります。上述の裁判例は、その限界を画する一例としての意味があります。

  会社側が月収ベースの賃金の75パーセントを減少させた背景には、雇用保険法における高年齢雇用継続給付の仕組み(雇用保険法61条以下参照)と平仄を合わせたことが推察されます。高年齢雇用継続給付とは、60歳以後の賃金が60歳時点の75パーセント未満になった場合に給付金が支給される制度です。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000172176.pdf

  ここから逆算して、60歳時点との比較において25パーセントの給与水準を保障していれば合理性は否定されないはずだという思惑があったのではないかと推察されます。

  しかし、上記の裁判例は75パーセントも給与水準を減少させるのは、行き過ぎだと判断しました。もちろん、上記裁判例は減少幅を構成するパーセンテージだけで結論を出しているわけではありませんが、それでも同様の発想に基づいて定年後再雇用者の給与水準を設定している企業に対して、法的な責任を追及する足掛かりとなる判例には違いありません。

4.定年後再雇用に伴って極端に低い賃金水準を提示されて経済的なお悩みをお抱えの方・理不尽さを感じている方は、ぜひ一度相談にいらしてください。

また、その際には、似たようなお悩みをお抱えの方に声を掛けることをお勧めします。この種の制度論を争う訴訟は、原告の数に応じて争点が拡散していく類の事件ではないため、集団訴訟として事件化できれば、原告の方一人あたりの弁護士費用の負担を大幅に薄められる可能性があるからです。

(弁護士 師子角 允彬)

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