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2018年7月 2日 (月)

違法解雇で慰謝料を請求できる場合-妊娠等を理由とする解雇

1.法律上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とされています(労働契約法16条)

  このルールをもとに、違法な解雇をされた労働者は、使用者に対して労働契約上の地位の確認を求めることができます。

  労働契約法上の地位の確認が認められれば、解雇されたことによって働けなかった期間に相当する賃金の支払いを求めることができます。

  違法な解雇は、収入の途を奪ってしまうというだけではなく、働いている人に対して大きなショックを与えます。しかし、裁判例の傾向として、こうした精神的苦痛に対して慰謝料まで請求できる事例は決して多くはありませんでした。一般論として、賃金が支払われることで経済的な損失が補填されれば、解雇に伴う精神的苦痛は緩和されると理解されているからです。

  こうした一般論が裁判例として集積される中、近時、注目される裁判例が公刊物に掲載されていました。東京地判平29.7.3労判1178-70です。

2.この裁判例では、妊娠・出産と近接して行われた解雇の有効性が問題になりました。

  解雇の有効性を判断するにあたり、裁判所は、

「事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。」

「本件においては、原告が第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば…被告において…原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、原告は特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、被告は、原告がこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。」

 と判示し、解雇を無効と判断したうえで、事業主に対し、賃金の支払いに加え、慰謝料50万円の支払いを命じました。

3.労働者が妊娠・出産したことや、育児休業をしたことを理由に解雇することは法律で禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項、育児休業法10条)。

  明文で禁止されているため、真実は妊娠・出産、育休取得を理由に解雇する場合でも、事業主が「妊娠・出産、育休取得を理由に解雇しました。」と言うことは先ずありません。勤務態度不良、成績不良、適格性欠如など、他にもっともらしい理由を掲げるのが普通です。

  そのため、解雇の有効性をめぐる紛争では、専ら、事業主が挙げている「もっともらしい理由」に解雇を正当化するだけの客観的合理性・社会的相当性が認められるかが争点となるのが通例で、均等法9条3項や育休法10条への違反に解雇無効を導くほか、どのような法的効果が付与されるのか(慰謝料請求の根拠となるのか)が今一判然としていませんでした。

  この裁判例は、

① 妊娠・出産、育児休業の取得と近接した時点の解雇について、客観的合理性・社会的相当性を欠く場合には、仮に他にもっともらしい理由を掲げていたとしても、均等法9条3項違反、育休法10条違反の問題が生じ得ること、

② 単に労働契約法16条違反であるに留まらず、それと同時に均等法違反、育休法違反にも該当する場合、解雇期間中の賃金だけではなく慰謝料まで請求する余地を認めたこと、

に意義があるように思います。

  どこまでが妊娠・出産、育児休業の取得と「近接」しているのかは積み残しの課題です。ただ、この裁判例では、育休明けから解雇の意思表示がされるまで、約8か月の時間的間隔があります。8か月程度の間隔では、未だ「近接」しているとの評価は失われないのだと思われます。

4.労働事件を含め、普通の規模の民事事件の着手金は、50万円もあれば概ねカバーすることが可能です。

  妊娠・出産、育休取得から近接した時期に解雇され、そのことに納得できていない方がおられましたら、ぜひ、一度相談にいらしてください。

  権利保護のお役に立つことができれば、大変嬉しく思います。

(弁護士 師子角 允彬)

 

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