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2018年6月 3日 (日)

教師の残業代(私立学校の部活動顧問の労働時間性)

1.公立学校の小中高の教育職員には時間外勤務手当が支給されません(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)。

  そのため、給与に反映されないにも関わらず部活動顧問に多くの時間を割かざるを得ない学校の先生の過酷な労働環境が話題を集めるようになっています。

2.現行の法律上、教育職員に対しては、時間外勤務手当の代わりに、給与月額の4%に相当する教職調整額が支給されています(同法3条1項)。

  また、部活動に対しては、条例によって手当を支給されることも可能とされています。例えば、東京都では学校職員の特殊勤務手当に関する条例で「学校の管理下において行われる部活動の指導業務に従事した場合で、当該業務が心身に著しい負担を与える程度のもの」には教員特殊業務手当という名目で手当を支給することとされています(同条例15条1項参照)。

  しかし、教育職員の方が部活動顧問に費やす時間を考えると、不十分なのが実情ではないかと思われます。

3.部活動顧問の活動に十分な手当がされていなかった背景には、その法的な位置付けが曖昧なことが挙げられるのではないかと思います。

  中学校学習指導要領は部活動について、「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」と言及しています。

高等学校学習指導要領も部活動については、「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等 に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」と中学校学習指導要領と同じような言及をしています。

  学習指導要領上、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものにすぎないのか、「学校教育の一環として」行われるものなのかが明確に読み取れません。

  学校教育活動の一環であるならば部活動顧問は教育職員の業務といえるのでしょうが、単なる生徒の自主的な活動を支えているにすぎないものであれば業務と認めない考えも出てくる余地があるように思われます。

  上述の東京都の学校職員の特殊勤務手当に関する条例も、部活動の指導業務に従事したとしても、心身に著しい負荷を与えるようなものでなければ、手当の対象外であるかのように読めます。

  冒頭の公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項との関係で、公立学校の教育職員の方から時間外勤務手当の請求に係る訴訟が起こされないこともあり、裁判所が部活動顧問に従事した時間の労働時間性についてどのように考えているのかもあまり良く分かりません。

4.そうした状況の中、近時興味深い裁判例が公刊物に掲載されました。

  さいたま地判平29.4.6 東京高判平29.10.18労判1176-18です。

  この事例では私立学校におけるバレーボール部の顧問としての活動の労働時間性が争点の一つになりました。

  被告学校法人は、

「部活動の朝練は、何ら強制されるものでなく、原告は何時に来るかを自ら自由に決定できたことに照らすと、それが労働時間にあたるとは認めがたい。」

などと顧問としての活動の労働時間性を争いました。

  しかし、さいたま地裁は、

 「バレーボール部の活動として、本件学校に朝練習の届け出をしている日や、…原告作成の本件日記中に、バレーボールの朝練習をした日については…原告の早出残業を認める。」

 「週番日誌にバレーボール部の活動が記録されている場合には、当該部員の下校時刻を原則として終業時刻とする」

 と部活動の労働時間性を認めました。

  この判断は控訴審である東京高裁でも維持され、確定しています。

  地裁・高裁の判例は公刊物では教諭に対する経歴詐称、勤務態度不良等を理由とする解雇の有効性等に関する事案として紹介されています。しかし、部活動顧問としての活動に労働時間性を認めた事案としても注目されて良いように思われます。

5.公立の学校の場合、法制度上の問題として、いくら部活動の顧問業務に多くの時間が割かれたとしても、時間外勤務手当を請求することは現状ではかなり困難です。

  しかし、私立学校の場合に関して言えば、部活動の顧問業務に従事した時間を労働時間として計算したうえで、時間外勤務手当を請求する余地があるように思われます。

  部活動の顧問業務に忙殺されているのに時間外勤務手当が支払われないとお悩みの私立学校の教育職員の方がおられましたら、ぜひ一度相談にいらして下さい。私立学校の場合、公立学校とは異なり立法の壁があるわけではないため、何等かの形で救済を図れる可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

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