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2018年3月 6日 (火)

離婚事件 不可能は可能にはならない(後編)

離婚事件に絡んで「不可能を可能にする裏マニュアル」なるものが販売されているようです

http://www.tuyuki-office.jp/rikon9025.html)。

 上記のホームページでは、

1.無収入の相手から養育費をもらえる。

2.お金のない人から慰謝料をもらえる。

3.公正証書がなくても強制執行はかかる。

4.祖父母に孫の養育費を請求できる。

5.証拠がなくても浮気相手に慰謝料を請求できる。

6.自営業の人に差し押さえをかける。

7.不貞行為を認めない相手に慰謝料を請求する。

ことが可能になると標榜しています。

 サイトを作成しているのは行政書士の方のようです。行政書士には家事調停、家事審判、訴訟といった裁判所での手続を代理する権限がありません。作成者の方は裁判実務の経験に基づいて上記のようなことを標榜しているわけではないのだろうと思います。

上記のような宣伝文句で文書を販売することに関しては、裁判実務に携わっている弁護士からすると、かなり強い違和感があります。

 私は問題のマニュアルを読んだわけではありません。しかし、上記のような宣伝文句を見た一般の方の中には、そのような手段があるのだと字義通りに受け取る方がいるかも知れません。誤解に基づいて逸脱した行動がなされないよう注意喚起する必要があると思われたことから、今回は、上記のような宣伝文句を標榜することの適否について、私なりの見解を前編・中編・後編の三回に分けてお話させて頂きたいと思います。

 今回の記事は後編です。

1.2は前編に、3.4.5は中編に収録しているので、本編では6から解説します。

6.自営業の人に差し押さえをかける。

  これもできて当然のことで、できないと思っている人の方が珍しいのではないかと思います。

  自営業の場合、配偶者であったとしても、相手方の売掛金債権がどこにあるのかといった情報を正確に把握していないことがあります。そのような意味において、差押をしにくい傾向はあると思います。

  また、相手方が1人会社の役員で自分の報酬を自由に設定できる場合、報酬債権の差し押さえが奏功しにくいことがあることも否定しません。

  しかし、自営業だから差押ができないということはありません。

  別居前に会計帳簿類を写真撮影しておいて、強制執行の対象財産を把握しておくことにより、差押のしにくさにはある程度対処することも可能です。

  また、財産開示(民事執行法196条以下)という手続や、悪質さが甚だしい場合には強制執行妨害罪(刑法96条の2)で刑事告訴するなど、自営業者に対する債権回収の方法もないわけではありません。法人形態の場合であっても、恣意的な報酬金額の操作が行われている場合には、法人格を否認する余地もあると思います。

  金銭を払わない自営業者に対しては、こうした正攻法で対応することになります。これは弁護士であれば誰でも思いつく程度のことで、別に裏の知識でも何でもありません。

7.不貞行為を認めない相手に慰謝料を請求する。

  これも請求できるのは当たり前です。ただ、一般の方の関心は、請求できるかではなく、裁判所が請求を認めてくれるかだと思います。

  不貞行為の事実が認められるか否かに争いがある場合、損害賠償請求権の発生を根拠付ける事実(不貞行為)の立証責任はお金を請求する側が負います。そのため、証拠がなければ必ず負けることは既にお話したとおりです。相手に浮気を認めるよう強要することが問題であるのも同様です。

 法律相談をしていると「正攻法で弁護士に依頼して法的手続をやってもダメなので、交渉して経済力のある親兄弟や浮気相手との間で契約書や公正証書を作りましょう」などと第三者に言い含められている方を目にすることがあります。このような方の事件は、大抵無茶苦茶な状態になっています。本来当事者間でのみ話をすればよかったことが親族や第三者・職場を巻き込んで対立が複雑・激化していたり、相談者側の逸脱した要求を受けて警察が介入する事態になっていたりすることがあります。自分の手に負えなくなって、弁護士のもとに相談に来るというパターンです。

 冒頭で述べたとおり、私は「不可能を可能にする裏マニュアル」なるものを読んでいませんし、読もうとも思いません。何が書いてあるのかもわかりません。しかし、標榜されている宣伝文句に関する弁護士としての見解は上述のとおりであり、法の規定を素直に読めば私がコメントした以外の結論はないと思っています。

困っている人の中には藁にも縋る思いから、お金を払ってでもこうしたマニュアルに手を伸ばそうとする方が出てくるかも知れません。

 しかし、法律上不可能であることを可能にすることは、法の趣旨から逸脱した行動をとることにも繋がりかねません。そうした行動は、紛争を解決から遠ざけるだけではなく、ご自身を危険に晒す行為であるとも思います。

 他業種の方にも適切な法的知見を持った方はたくさんおられますし、裁判実務の経験がなければ的確な助言ができないと断言するつもりもありませんが、不可能を可能にするだとか、裏技だとかいう言葉に対しては、その内容をきちんと精査することが必要です。

(弁護士 師子角 允彬)

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