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2018年2月15日 (木)

合意退職を争える場合(マタハラ)

 会社の辞めさせられ方には、二つの類型があります。

 一つは、よく知られている解雇です。

 もう一つは、退職勧奨を受けて、個々の労働者が使用者と退職を合意する場合です(合意退職)。

 一般論として言うと、裁判所が解雇の有効性をそう簡単に認めることはありません。社会通念上相当であると認められない解雇権の行使が許されないことは法文上も明記されています(労働契約法17条)。

 他方、一旦してしまった合意退職の効力を覆すことは簡単ではありません。退職勧奨の過程で使用者が労働者を錯誤に陥らせていたり、強迫的な言動が用いられていたりするなどの事情があり、かつ、それを立証することができるだけの材料が揃っていなければ、合意退職をなかったことにするのは困難です。使用者の側が、あまりにあからさまな証拠を残すことは、それほど多くみられるわけではなく、実務的な感覚でいえば、解雇を争うのと合意退職を争うのとでは、難易度にかなりの差があります。

 しかし、妊娠や出産に関係して、不本意ながらも退職を合意してしまったというケースでは、錯誤や詐欺、強迫といった事情がなかったとしても、合意退職の効力を覆せる可能性があります。

 東京地裁立川支部平29.1.31労判1156-11は、「退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある。」としたうえ「被告側で、労働者である原告につき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとはいえず、これを認めることはできない」と合意退職の効力を否定しました。

 この件は事実経過に照らして合意の事実自体が認定されなくても不思議ではないケースでしたが、それでも単に合意しただけでは退職の効力は認められない・合意に効力が認められるためには自由意思に基づいているといえるだけの客観的な状況が必要だとしたことは、かなり画期的な判示です。

 この判例は、不本意な形で退職勧奨に応じてしまった妊婦・産婦に対し、司法的な救済の道を広げています。

 もし、ご自身にもあてはまるのではないかとお思いの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

 お役に立つことができれば、大変嬉しく思います。

(弁護士 師子角 允彬)

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