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2018年2月20日 (火)

医師の残業代・時間外勤務手当(国公立病院を念頭に)

医師の労働時間の管理が適切になされていないのではないかとの新聞報道がありました。これによると、特に大学病院の医師の労働時間の管理体制の不備が顕著で、労働時間がタイムカードなどで客観的に管理されていると回答した医師の割合は5.5%でしかなかったとのことです

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201802/CK2018021902000108.html)。

 医師の就労形態としては、時間外勤務手当を含む形の高額の年俸で雇用されている例がしばしば見受けられます。

 しかし、年俸が高額であったとしても、それだけで労働時間規制を免れることはできません。医師が労働者に該当する限り、事業主は労働時間を管理したうえで、時間外勤務手当を支払う必要があります。時間外勤務手当部分が明確に区分されていない場合に残業代の支払いがあるとみなされないことはもとより(最二小判平29.7.7判タ1442-42)、年俸のうち時間外勤務手当分が幾らといったように、時間外勤務手当の額が明確に区分されていたとしても、その固定部分で賄えない部分は、きちんと清算されなければなりません。固定残業代の仕組みがとられていたとしても、固定部分で賄えない時間外勤務手当の有無及び金額を把握するため、事業主は労働時間を適切に管理する必要があります。

 新聞記事によると、民間病院ではタイムカードなどによる管理がなされていると回答した割合が49.5%であるのに対し、公的病院では19.1%、国公立病院では10.2%、大学病院では5.5%と、民間とそれ以外とで顕著な差が生じています。

 民間とそれ以外とで顕著な差が生じている背景には、国公立病院や公的病院、国立の大学病院の勤務関係を把握している弁護士が不足していて、残業代請求の受け皿が十分に整っていないこともあるのではないかと思います。

 公的な機関の職員の勤務関係はかなり複雑で、知っていなければ答えられないことも多々あります。例えば、公立の学校の教育職員の場合、法律で「時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)と残業代が発生しないことが法律上明記されています。このような規定は法律家的な感覚からすると相当に違和感があり、直観に頼ると回答を誤りかねない問題の一つです。

 国立病院の場合、独立行政法人国立病院機構に組み込まれている病院であれば、同機構を相手に時間外勤務手当を請求することになります。同機構は独立行政法人通則法上の中間目標管理法人とされています(独立行政法人国立病院機構法4条)。中間目標管理法人は非公務員型の独立行政法人なので(独立行政法人通則法51条に対応する規定がないこと参照)、労働基準法の定め通りに時間外勤務手当を請求してゆくことになります。

 国立の大学病院は国立大学法人が大学設置基準(文部省令第28号)39条所定の附属施設として設置するものです。したがって、国立の大学病院に勤務する医師は国立大学法人を相手に時間外勤務手当を請求することになります。国立大学法人も非公務員型の法人なので、労働基準法の定め通りに時間外勤務手当を請求してゆくこといなります。

 公立病院の職員の場合の勤務関係は少し複雑です。

 地方公共団体が自分で病院事業を行っていて、かつ、条例に特別な定めがない場合、勤務医の立場は一般職の地方公務員になります。この場合、地方公共団体に対して時間外勤務手当を請求することになります。地方公務員法では労働基準法の適用除外が定められていますが、時間外勤務手当の発生根拠である労働基準法37条の適用は除外されていないため(地方公務員法58条参照)、労働基準法の定め通りに時間外勤務手当を請求してゆくことになります。

 地方公共団体が自分で病院事業を行っていて、かつ、条例で地方公営企業法の職員の身分取扱いに関する規定の適用が定められている場合、その勤務関係は地方公営企業法などによって規律されます。この場合、地方公共団体に対して時間外勤務手当を請求することになります。労働基準法37条の適用は除外されていないため(地方公営企業法39条1項)、労働基準法の定め通りに時間外勤務手当を請求してゆくことになります。

 地方公共団体が病院事業を特定地方独立行政法人や一般地方独立行政法人に委託している場合、その法人に対して時間外勤務手当を請求することになります。特定地方独立行政法人は公務員法型の法人なので(地方独立行政法人法47条)、一般職の地方公務員と同様に時間外勤務手当を請求できることになります(適用除外に関しては地方独立行政法人法53条参照)。一般地方独立行政法人は非公務員型の法人なので(地方独立行政法人法47条に相当する規定がないこと参照)、労働基準法の全面的な適用のもと、時間外勤務手当を請求してゆくことになります。

 相談窓口でお悩みの医師ほか医療従事者の方がおられましたら、ぜひ、ご相談にいらしてください。

(弁護士 師子角 允彬)

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