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2018年2月21日 (水)

「騙されたふり作戦」に関する裁判例のご紹介

1 はじめに

先日の所内勉強会で、いわゆる「騙されたふり作戦」により逮捕・起訴されるに至った「受け子」(共犯者が被害者を騙した後、財物の受け取り行為に関与する者のことをいいます。)の詐欺未遂被告事件の裁判例を取り扱いました。取り扱ったのは、福岡高裁平成29年5月31日判決です(以下、本稿では「福岡高裁平成29年判決」とします。)。

昨年12月11日には福岡高裁平成29年判決の上告審である最高裁の決定が登場し注目を集めましたが、後述のとおり理論的な問題を残しています。

そこで本稿では、上記最高裁決定に触れつつ、福岡高裁平成29年判決で示された内容が今後の実務に及ぼしうる影響を紹介したいと思います。

 

2 「騙されたふり」作戦とは

そもそも「騙されたふり作戦」とは、オレオレ詐欺をはじめ言葉巧みに現金をだまし取ろうとするいわゆる特殊詐欺に対する捜査において、被害者が警察に協力し、容疑者からの電話に引っかかったふりをして逮捕に結びつける作戦を指します。近年、オレオレ詐欺等の被害が深刻になっていますが、警察がこの「騙されたふり作戦」を発動し、犯人逮捕につながるケースが増えていました。

この「騙されたふり作戦」で逮捕された「受け子」が無罪とされる裁判例が相次いで出されていましたが、本日紹介するケースは、一審で無罪とされたものが控訴審で逆転有罪判決となったものです。

 

2 詐欺罪成立と「騙されたふり作戦」

そもそも詐欺罪が成立するためには、犯人が騙す行為(これを「欺もう行為」といいます。)を行い、それによって被害者が騙されて錯誤に陥り、その錯誤に基づいて現金を渡すという行為を行い、現金が犯人の手元に渡るという経過(欺もう行為→錯誤→錯誤に基づく現金交付という経過)を辿ることが必要とされています。

典型的なケースからは少し離れますが、被害者が騙された後で別の者が受け取り行為に関与しても、被害者が騙された状態を「受け子」が知りつつそれを利用して犯行に加わったと評価できれば、詐欺罪の共犯の成立は肯定できるというのが一般的な理解です。

ところが、「騙されたふり作戦」では、被害者が途中で騙されたことに気づいている点に大きな特徴があります。

犯行の一部に加担した者が共犯者として処罰される理由は、結果発生に寄与した(危険性を高めた)といえる点にあるとされます。そのような考え方からすると、被害者が途中で騙されたことに気づいている以上、「受け子」が現金を受け取る行為は、危険性を高めたと評価できないのではないかという点が問題になります。

まさに、福岡高裁平成29年判決の原審である福岡地裁平成28年9月12日判決はこの点を問題とし、「受け子」に対して無罪の判決を言い渡しました。すなわち、被害者が警察に相談した段階で既に騙されたことに気づいたわけだから、これ以降の「受け子」の詐欺行為は客観的には既遂に至る危険性はなくなっている、そして、「受け子」が荷物の受け取りを依頼されたのは被害者が騙されているのに気付いた後であるから、その時に共謀しても、荷物を受取る「受け子」は詐欺行為に加担したとはいえないと判示したのです。

 

3 福岡高裁平成29年判決の概要

  無罪判決を言い渡した福岡地裁平成28年9月12日判決に対し検察官が控訴し、福岡高裁平成29年判決は、概ね以下のように述べて、「受け子」に対して逆転有罪判決を示しました。

 

a. 「このような時期・方法による加担であっても、先行する欺罔行為と相俟って、財産的損害の発生に寄与しうる・・・。また、詐欺罪における本質的な保護法益は個人の財産であって・・・錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に、同罪の法益侵害性がある・・・。・・・欺罔行為の終了後、財物交付の部分のみに関与したものについても、本質的法益の侵害について因果性を有する以上、詐欺罪の共犯と認めてよい」。

b. 「行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と、行為者が特に認識していた事情とを基礎とすべき・・・敢えて被害者の固有の事情まで観察し得るとの条件を付加する必然性は認められない」。

 

  上記a.では、詐欺罪の受領行為のみに関与した者につき承継的共同正犯の成立を認めうること示しています。本判決は「本質的法益の侵害について因果性を有する」ことを理由としていることから、結果について因果性を及ぼすことがあれば共犯の責任を問うことが可能との立場を明らかにしたものと考えられます。また、同罪について保護法益を「個人の財産」、法益侵害性について「財物の交付」と明示したことは、後述する因果的共犯論との関係で重要な意味を持つと思われます。

上記b.では、原審が、被害者が騙されたのに気付いた後は結果発生の危険性がないとしたのとは対照的に、不能犯における危険性判断の基礎事情について具体的危険説を採用しながら「被害者側の事情」を取り込まないことを規範レベルで明示したことに大きな特徴があります。

 

4 最高裁の判断―最高裁第3小法廷平成29年12月11日決定

福岡高裁平成29年判決に対して弁護人が控訴し、判断を示したのが最高裁第3小法廷平成29年12月11日決定でした。本決定は次のように述べて、原審で示された有罪の結論を支持しました。

 

 「被告人は,本件詐欺につき,共犯者による本件欺罔行為がされた後,だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに,共犯者らと共謀の上,本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると,だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず,被告人は,その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。」

 

本決定は、「受け子」として特殊詐欺に関与した者に対する処罰の必要性を示したものとして大きな意義を有しているものと評価できます。なお、同種事案において、以前には無罪となったケースが散見されましたが(松江地裁平成29年1月20日判決、京都地裁平成27年4月17日判決等)、現在そうでなくなりつつあります。本決定もそうした流れに沿うものといえるでしょう。

 

5 おわりに

上記最高裁決定は、財物交付のみに関与した「受け子」の責任について、「本件詐欺を完遂する上で本件欺もう行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している」と指摘するにとどめています。

しかし、因果的共犯論の見地から検討したとき、因果性が必要となる範囲をいかに解するかという問題が生じます。すなわち、共犯成立を認めるには構成要件該当事実の全体について因果関係が必要か、あるいは結果との間にこれがあれば足りるのかという問題です。前者の見解を採れば、欺もう行為に因果関係を有しない本件のような「受け子」は処罰されないことになるのに対し、後者の見解を採れば、そのような「受け子」について処罰される可能性が生じることになります。さらに後者の見解を採った上でも、詐欺罪の「結果」をどのように理解するかという問題があります。すなわち、同罪の保護法益を端的に「個人の財産」とみるか、これに加え「取引上の信義誠実」も含まれるのか、いずれと解するかによって本件のような「受け子」に対する共犯の成否を分かつことになります。近時、承継的共犯を巡って因果的共犯論に基づく解決を指向したとみられる最高裁決定(最高裁第2小法廷平成24年11月6日決定)が登場していますが、このような観点から上記平成29年最高裁決定を見たとき、本件のようなケースで「受け子」が財物の受領行為のみに関与した場合に共同正犯としての責任が生じる根拠が十分に示されたとはいい難い状況にあります。最高裁平成24年決定の射程を検討していく上でも、いかなる理論構成を前提にするのかについて明らかにしてもらいたかったところです。

そうすると、上記最高裁決定によってもなお理論的な課題は残されたままといえますが、その点で、福岡高裁平成29年判決が示した承継的共犯に関するa.の部分は、今後上記最高裁平成24年決定の射程を検討するに当たり、詐欺罪の保護法益を「取引上の信義誠実」まで含むのではなく端的に「個人の財産」と理解した上で、「財物の交付」という結果との間に因果関係があれば共犯成立を認めうるという方向で、一定の影響を持ってくるのではないか思われます。

(弁護士 馬場大祐)

 

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