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2017年8月

2017年8月14日 (月)

絵画商法による消費者被害

 絵画商法とデート商法を併せたような被害に遭った方の救済に役立つ判決が得られました(東京地方裁判所 平成28年(レ)第742号 上告棄却により確定)。

 秋葉原で駅付近を歩いていたところ、チラシを持った女性から「良かったら絵を見に行きませんか。」などと声を掛けられた男性がいました。その方は、「時間がありません。」と断りましたが、女性は「あまり時間は取らせないから少しでも見ていきませんか。」などと勧誘を続けました。結局、男性は画廊の絵画展示場に案内され、数十万円もする高額な絵をローンで購入する契約を結びました。

 その後、男性は画廊から電話を受けるようになりました。「見てもらいたいものがあります。来られませんか。」「イベントに来て欲しいです。来られませんか。」などと画廊に呼び出されては、同じように数十万円する高額な絵をローンで購入していました。

 結局、ローンの支払ができなくなって、ご相談に来られました。

 本件のポイントは、訪問販売としてクーリングオフが認められるか否かです。

 裁判では、

① 男性が声をかけられた場所が本件店舗の入り口から5m程度しか離れていなかったとしても、訪問販売といえるための要件である「営業所等以外の場所において呼び止め」「営業所等に同行させた」といえるかどうか、

② 「みてもらいたいものがあります。来られませんか。」などの電話が、訪問販売といえるための要件である「電話…により当該売買契約…の締結について勧誘するためのものであることを告げずに営業所…への来訪を要請」したことにあたるのかどうか、

③ クーリングオフの期間を進行させるためには、法定の事項が記載された書面を交付しなければならないところ、「ジクレ(筆者註・コンピューターによる絵画の複製)」という記載で法律が記載を要求している「商品の…種類」を記載したといえるか、

といったことが争点になりました。

 裁判所は、①については「呼び止めた従業員等が顧客と一緒に移動した距離がたとえ数m程度にすぎない場合であっても、その営業所等まで向かわせる経緯が、顧客がその自由な意思によって当該営業所等に赴くか否かを決定することが阻害されるような客観的状況であった場合は、『同行させた』ものとみるのが相当である」として店舗付近の声掛けでも訪問販売としてのキャッチセールスにあたることを認めました。

 行政解釈では「通常の店舗販売業者が、店舗の前で行う『呼び込み』は、『同行させ』る行為が欠けて」おり、訪問販売には該当しないとされています。本判決は店舗から数mしか離れていない場所での呼び込みでも、一定の場合には訪問販売にあたり得ることを認めたものです。

 また、②についても、絵を販売することに触れられたり、明言されたりすることなく勧誘されたものであるから、これだけでは勧誘するためのものであることを告げたことにはならないと判示しました。ここでは、「新しい作品が入りました。ご紹介したい作品があるので、ぜひいらしてください。」と伝えていたとしても、結論は左右されないと述べています。来訪を要請するのは買わせるためだということはある程度予測できますが、それではだめだということです。

 ③についても裁判所は、「『ジクレ』との表記のみでは一般顧客において本件各絵画が元となる絵画の複製品であるということすら容易に理解できないといえるから、『商品の~種類』(法41項)の記載があるとも認められない。」と判示しました。

 ジクレとは絵画の複製技法を指す言葉で、元になる絵をコンピューターに取り込みそれをプリンタで印刷して複製する技法です。男性が購入したのは絵の複製物であるジクレでしたが、ジクレが何を意味するのかは男性自身も分かっていませんでした。

 「種類」の表記は行政解釈でも一般に普及していない表現(専門用語や学術名)では足りないとされていましたが、「ジクレ」という表記では種類を表示したことにはならないとの判断が出されました。

 ネット等をみると、秋葉原では本件と良く似たことが、かなり昔から行われているようです。

 不意打ち的に必要もない絵を買うことになってしまい、買ったことを後悔している方がおられましたら、ぜひ一度ご相談ください。時間が経っていたとしても、クーリングオフで契約をなかったことにできる可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

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