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2016年7月

2016年7月14日 (木)

慰謝料肩代わりの約束と不倫・不貞

「不倫女性が慰謝料をチャラにする『法律の抜け穴』の存在とは」という記事が下記のサイトに掲載されていました。

http://woman.excite.co.jp/article/lifestyle/rid_Wooris_208213/

http://woman.excite.co.jp/article/lifestyle/rid_Wooris_208213/

 記事には、

「『もしあなたの奥さんから慰謝料を請求されたら……』と不倫女性が不安を訴えるのに対し、夫が『大丈夫! 何かあってもお前を守るから』などと無責任な発言をして、慰謝料肩代わりの約束に至るケースが多いようです。」

と書かれています。

 ここで言う「慰謝料肩代わりの約束」というのは、

「妻が(夫の)浮気相手に慰謝料を請求してきた場合、夫が慰謝料を立て替えて妻に支払うという約束」

を意味しているようです。

 このような契約を結んでいれば、不倫相手女性に慰謝料を請求しても、夫の財産(夫婦共通の財産)から不倫相手女性にお金が流れるため、妻は不倫相手女性に不貞慰謝料を請求しにくいというのが記事の論旨のようです。

 こういう不審な記事を真に受ける方は少ないとは思います。しかし、「慰謝料肩代わりの約束」なる契約を結び、安心して不貞行為に及ぶ方がいないように注意喚起しておきます。なお、問題の記事が例示しているのが、夫が第三者女性と不倫をした場合のようですから、以下ではその場合を例に解説します。

 先ず、安心して不貞行為の相手方になるため「慰謝料肩代わりの約束」を結んだとしても、契約の有効性には強い疑義があります。

 法律の基礎的な論点として「動機の不法」という問題があります。賭博資金を得るため金銭消費貸借契約をした場合、売春目的で家屋の賃貸借契約をした場合などのように、契約をする目的ないし動機が違法な場合、その契約の効力をどのように理解するかという問題です。

 判例は当事者が動機を法律行為の内容とした場合、一方の違法な動機を相手方も知っている場合などで契約を無効だと判示してきました。

 不倫は犯罪ではありません。しかし、民法上の違法行為ないし不法行為には該当します。不貞関係を維持するため、予め「慰謝料肩代わりの約束」をする場合、そこには違法行為を行うために契約を結んでいるという要素が出てきます。また、不倫への心理的負担を軽くし、これを容易にするために契約を結んでいることは不倫をする夫も不倫相手女性も知っているわけです。通説的な理解を前提にすれば、「慰謝料肩代わりの約束」は無効と判断される可能性が高いと思います。実際、大審院時代のものではありますが、不倫をした夫が不倫相手の女性に将来結婚することを約した上で扶養料を支払うことを内容とした契約について、その法的効力を否定した判例もあります(大判大正9.5.28大審院民事判決禄26773頁参照)。契約が無効である場合、不倫相手女性にも普通に負担割合が生じてきます。

 また、夫婦共通の財産からの金銭の流出が抑止力になるのは、婚姻関係が維持される場合だけです。妻が不貞夫との離婚を決意した場合、不貞夫と不倫相手女性との間での内部的負担割合がどうなっていようが妻にとっては関係ありません。

 ここで重要なのは、妻が不貞夫と別れるつもりになるかどうかは不倫相手女性に全く予測できないことです。偶然的な事情に依存せざるを得ない時点で、紛争予防を目的とした枠組みとしてはかなり問題があると思います。

 記事では行政書士が「不倫女性から依頼を受けて公正証書など公的書類を作成したケースは100件をくだらない」とも書かれています。

 公証人法26条は無効の法律行為について公正証書を作成することを禁止しています。この記事が本当であるとすれば、公正証書の作成に何等かのイレギュラーな事情が介在している可能性もあると思います。

 法律の抜け穴はそうそうありませんし、見つけようとしたところで不幸になる人が増えるだけです。法律の抜け穴を標榜する記事は真に受けないのが一番です。

(弁護士 師子角 允彬)

2016年7月 1日 (金)

会社役員を辞めたい

 辞めたいのに辞められないというお悩みは、従業員の方だけではなく会社役員(取締役、監査役など)の方にもあるようです。辞められない背景事情により幾通りかの進め方がありますが、今回はオーソドックスな辞め方についてお話します。

 会社役員と会社との関係は委任に関する規定に従うとされています(会社法330条)。

委任契約は各当事者からいつでも解除することができます(民法651条)。

相手方に不利な時期に委任契約を解除した場合、損害賠償義務を負う場合があります(民法6512項本文)。しかし、やむを得ない事由に基づいて契約を解除した場合には、損害賠償義務を負うことはありません(民法6512項但書)。

また、損害賠償義務を負う場合でも、我が国の法制上、賠償額は実損額に限られます。そして、損害が生じたこと及びその額の立証責任は、賠償を請求する側、会社側にあります。

このルールを理解していれば、損害賠償のリスクを抑制しながら辞めることはそれほど難しくありません。

具体的には、一定期間に渡って引継ぎ事務を行うことを申し出ながら辞任の意思表示をすることになります。引継ぎ期間を設けるのは「不利な時期」と言われることを避けるためです。また、引継ぎをしておけば普通は「損害」が生じることはありません。なお、引継ぎを申し出ておけば、仮に会社側が引継ぎを指示しなかったとしても、そのことによって生じた損害は自業自得という言い方をするためでもあります。

辞任した後は、それを会社に登記してもらうことになります。会社が登記をしない場合には、会社を相手取り、辞任登記手続を行うことを求める訴訟を提起することができます。これにより判決が得られれば、会社が登記をしなくても、単独で退任登記をすることが可能になります(ただし、最低員数を欠くことになる場合には仮取締役の選任の申立など更に別途の手続きが必要になります)。

辞めたことを登記上も反映させることができれば、この問題は一件落着です。

(弁護士 師子角 允彬)

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