辞めたいのに辞めさせてくれない会社4(退職妨害の類型)
会社による退職妨害の問題は何度かこのブログでもご紹介してきました。
http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-6fb3.html
http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-7153.html
http://sakuragaokadayori.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/post-c301.html
初めて記事にした時から3年以上が経過しましたが、依然としてこの種のトラブルは多いようです。ある程度事例が集まってきたため、類型別に対処法を整理しておきたいと思います。
1.退職届を受け取らない・無視する型
上司が退職届を受け取ってくれない、退職を思いとどまるように執拗に尋問されたり説得を受けたりする、退職届を出したはずなのに受け取っていないと言い張られるといったタイプの典型的な退職妨害です。
何かあるとすぐ会社の代表権者宛に内容証明郵便を送るなどの喧嘩腰の交渉は個人的には好きではないのですが、この場合には代表取締役宛に内容証明郵便で退職の意思表示を伝えることが必要になります。無期雇用契約の場合、基本的には2週間の予告期間を置いて退職することができます(民法627条1項)。相当数の有給休暇が残っていれば、労働日を有給休暇に充てることで相手方と顔を合わせずに退職できる可能性もあります。
予告期間は就業規則等で伸長できるとする見解とできないとする見解の両説があります。実務的には2週間経過後に会社に行かないでも問題になることは殆どありません。また、損害賠償を示唆されることもありますが、①損害の立証が困難であること、②立証に成功しても大した金額にならないことが多いこと(損害賠償請求事件を依頼するための弁護士費用の方が高くつきかねないこと)から、訴訟提起される可能性自体も非常に低いと言って良いと思います。
2.無茶な合意型
退職の際の予告期間について交わされた無茶な合意を盾にとって退職を妨害する類型です。
例えば、使用者が従業員を雇入れる時に「辞める時には半年前までに予告します。」といった誓約書の提出を求めていた事例がありました。その件では誓約書を盾に取って退職が妨害されていました。
そこまでするのであれば半年間の有期雇用契約にすれば良いのにとは思いますが、期間を定めることにより使用者の側からの解雇が制限することを防ぎたいのだと思います。
合意は守られなければならないのが原則です。
しかし、どんな合意でも守らなければならないかと言えば、決してそのようなことはありません。
就業規則や合意によって予告期間を延ばすことができるとする見解も、せいぜい1か月程度までとしている程度で、6か月前に予告するとする合意に法的効力を認める見解は私の知る限り存在しません。普通の法律家はこのような合意は労働者の退職の自由を不当に制限するもので無効だと理解していると思います。
誓約書を差し入れないと仕事につけないことから、やむにやまれず無茶な内容の合意を取り交わしたとしても、そのような合意の効力は否定できる可能性があります。
約束したのは自分だからと気に病む必要もありません。この場合も合意に効力がないことを前提に2週間の予告期間を置いて出勤しなければ良いと思います。
3.現代のタコ部屋型
社宅や寮などの住居を提供して従業員を働かせ、辞めたいというと集団で暴行(物差しで叩くなど)を加えたり暴言を浴びせたりして退職を阻止する類型です。出社しないとひっきりなしに電話がかかってきたり、住居に押しかけられたりします。多くの場合、低賃金で転居するだけの経済的余裕がありません。
放っておくと、鬱病などの精神疾患を発症して働けなくなるまで酷使され続け、用がなくなると雇用契約を打ち切られ、社宅・寮からの退去を請求されます。このような会社(最早犯罪組織と言っても良いかも知れませんが)からは一刻も早く逃げ出すことが必要です。
この場合、法律専門家を関与させ、先ずは身の安全を確保するところから始めると良いと思います。
実家など退去できる場所がある場合には速やかに社宅・寮を退去します。
すぐに退去するあてがない場合には、暴行などの違法行為を止めるように通知し、相手方の反応によっては警察を介入させることも必要になります。
その後、速やかに退職の意思表示をします。場合によっては、損害賠償請求や未払い時間外手当の支払も請求することになります。
ある程度退職妨害の実体が分かってきたため、類型化して周知を図ることにしました。
当事務所では引き続き退職妨害の相談も受け付けています。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
(弁護士 師子角 允彬)
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