遺言書を置く場所
前回のブログで、公正証書遺言だけではなく自筆証書遺言も有用である旨書きました。では、作成した遺言書はどこに保管したらよいでしょうか。これは公正証書遺言でも悩ましいことですが、公証役場で保管することのない自筆証書遺言であればより重大な問題となります。
実は、先日、あるサイトを見ていたら、遺言書を作成したら安全な保管場所を考えましょう、身近な保管場所としては銀行の貸金庫がありますというアドバイスがありました。貸金庫がよいという理由は、銀行は相続人全員の同意がないと貸金庫を解錠してくれないので、貸金庫に保管しておけば、相続人全員が遺言書に気付く可能性が高くなるというのです。
正直申し上げて、とんでもないアドバイスだと思いました。
わたしは逆に遺言書を作成したら(公正証書でも自筆証書でも)、間違っても貸金庫だけは入れないようにとアドバイスしています。
というのは、①被相続人(亡くなった方)が銀行と貸金庫契約をしていたということは家族や親戚でも知らないことがあり、そのこと自体に気付かれない可能性が高い、②気付いたとしても、上記にあるように銀行は相続人全員の同意書(それぞれの印鑑証明書付)がないと解錠に応じないので、相続人のひとりでも協力しない、行方不明であるなどの事情があれば、事実上中を見ることはできなくなってしまいます、③この②のような事情がある中で、貸金庫の解錠については保留にしたまま他の預貯金や不動産について遺産分割協議を何とかしたものの、後に貸金金庫をようやく開けたら遺言書が出てきた、内容を見たらせっかくの協議内容がひっくり返ってしまうものだった・・・という可能性があるからです。また、最終的に銀行で解錠する時には代表者又は全員から委任を受けた代理人のみが確認するのが一般であり(全国に相続人が散らばっている場合解錠のために銀行に集まるのは現実的ではありません)、中に何が入っていたのかについては銀行員も立ち会うことはしない以上、結局、遺言書が貸金庫の中にあったのか、なかったのかについて、紛争が勃発する可能性があります。
実際、わたしが関わった案件でも、貸金庫の解錠までに煩雑な手間と長い時間を要しました。貸金庫の中にほとんど何も入っていないこともありましたし、うやうやしく不動産の登記済証とともに公正証書遺言が入っていたこともありました。これも開けるまでは絶対に分からないことです。また、開けた人しか確認できないことでもあります。
同様に、自宅内の厳重すぎる金庫もお勧めしません。無用な手間や費用がかかってしまい、それらを誰が負担するのかでももめることがあります。
確かに、遺言書を作成してみたはいいものの、どこに置くかは悩ましいものです。内容によっては、容易に家族の目につくところには置きたくないということもあるでしょう。昔からよく利用されている典型的な場所は仏壇の引き出しですが、仏壇がある家ばかりではありませんし、引き出しも容易に開けることができる以上、やはりどうなのかという問題があります。
そこで、ひとつの選択肢としてお考え頂きたいのが法律事務所です。遺言書作成の法律相談をした延長として、弁護士を遺言執行者(相続が発生した時に遺言書の内容を実現してもらう人)に指定し、さらに保管まで托すことができます。家族には、〇〇法律事務所の〇〇弁護士に預けているので何かあったら連絡するようにと伝えておけばよく、内容まで打ち明ける必要もありません。また、定期的に面会したり連絡をとりあったりするホームロイヤー契約を弁護士と締結し、最新の財産状況や健康状態なども把握しておいてもらう方法もあります。貸金庫に入れっぱなしにしておくよりはるかに安心で確実です。
遺言書の利用が現実的になるのは将来であることにも鑑み、当事務所では複数弁護士での対応もしています。ホームロイヤー契約の形態も様々なものがあります。まずはお気軽にご相談下さい。
(亀井真紀)
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