パワーハラスメントへの対応(海上自衛官の住宅火災の事件報道を受けて)
大分県杵築市で昨年7月、木造2階建ての住宅が全焼して子供4人が焼死した火災で、重過失失火と重過失致死傷の罪に問われた父親の第2回公判が行われたとの報道がありました。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160215-OYT1T50086.html
父親は海上自衛官であり、前任地でパワーハラスメントを受けていたことによるストレスから犯行当時精神状態が不安定だったとのことです。
パワーハラスメントが本当にあったのか、仮にパワーハラスメントがあったとして失火行為との間で本当に結びつきが認められるのかは気になるところです。ただ、事件の背景にパワーハラスメントがあったとするのであれば、とても痛ましく思います。
男女雇用機会均等法11条1項で「必要な措置」を講じることが明確に義務付けられているセクハラとは異なり、パワーハラスメントの防止に関して必要な措置を講じることは法令で明示的に求められているわけではありません。
ただ、労働契約法5条は
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
と明記しています。この法律の趣旨からも、使用者にはパワーハラスメントの防止に取り組む責任があります。
厚生労働省は平成24年1月30日に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」を公表し、パワーハラスメントの概念の明確化や予防に取り組んできました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000021i2v.html
また、一般向けには「あかるい職場応援団」というホームページを開設し、
http://no-pawahara.mhlw.go.jp/
パワーハラスメント対策導入マニュアルという文書を配布しています。
http://no-pawahara.mhlw.go.jp/jinji/download/
http://no-pawahara.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2014_manual.pdf
個人的には実体把握から具体的な対応まで簡潔で要点を押さえた文書だと思っていますが、残念ながら広く一般に読まれているとまでは言えないように感じられます。
特に従業員数の少ない会社では、パワーハラスメントに関するルール自体がなかったり、ルールはあってもそれを適切に運用できる人がいなくて形骸化したりしていることが多いように思われます。
企業にとってダメージを受けるような裁判は、概ねが初期対応の誤りに起因します。パワーハラスメントがあったとしても、いきなり従業員から訴訟提起されることは普通ありません。通常は会社の然るべき部署や上司に相談し、それでもどうにもならずに追い詰められて法的手続をとるといった経過をたどります。
従業員からパワーハラスメントの相談を受けた時、会社や人事労務担当者としては、それが言い掛かりなのか正当な訴えなのかを見極めることが重要です。見極めた上で適切な対応をとるには、ルールの構築だけではなく、その趣旨に従ってルールを運用することも重要です。
深刻な労務紛争は成長期の会社にしばしば発生します。
少数の共同経営者だけで事業を回している内は労働条件がどうだとかいった争いはあまり起こりません。しかし、事業が上手く行って従業員が増えていくと、人間関係に起因する色々な問題が発生してきます。これを創業時の乗りや勢いだけで乗り切ろうとすると大抵足元をすくわれます。成長段階に合わせてきちんとルール作りに取り組んで行けるかで、企業のその後は大きく左右されます。
従業員からパワーハラスメントなどの相談を受けたけれどもどうしたらいいか分からない、これまでは法律家との接点がなかったため誰に相談して良いか分からない、そのような場合には、ぜひ当事務所へのご相談をご検討ください。
(弁護士 師子角 允彬)
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