不倫・不貞と職場への連絡
最近、芸能人や国会議員、落語家などの不倫がテレビや雑誌で連日のように取り上げられています。
こうした世相を反映してか、不倫・不貞の事実を暴露することについての相談を受けることが増えています。
不倫・不貞で被害を受けた方からは、「不倫していることを職場に連絡してやることはできないのでしょうか。」と相談を受けることがあります。また、「不倫していることを職場に連絡してやる。」と脅されている方からは、「職場に連絡をされると困ります。何とかならないでしょうか。」という相談を受けます。
不倫・不貞を職場に連絡することが許されるかどうかは、場合を分けて考える必要があります。
1.先ず、不倫・不貞をしたという証拠がない類型があります。
こうした場合に職場への連絡が許されないのはもちろんです。例えば妻が、証拠もないのに夫が不倫をしていると決めつけ、「夫が不倫をしている。」などと会社に連絡すれば、当然不法行為が成立します。脅迫や名誉毀損などの犯罪にも問われかねません。「職場に連絡をする。」と脅されている側としては、当然、連絡行為を控えるようにと強く要求することができます。
2.次に不倫・不貞をした事実自体は確かに存在するという類型があります。
この場合も、配偶者が不倫・不貞をしたと敢えて職場に連絡することは基本的には許されません。夫婦間での紛争は基本的には職場とは関係がないからです。
夫が不倫の事実を否定していたケースではありますが、妻が離婚交渉中に夫の職場に内容証明郵便を送りつけたり、職場に押しかけたりしたことについて、妻及び妻の代理人弁護士への損害賠償請求が認められた事例もあります(東京地判平18・12・18LLI/DB判例秘書登載)。この判例では、夫側が妻側に職場ではなく自宅に連絡して欲しいと通知していたこと、第三者である職場の人間に助言や介入を求める特段の必要性が認められないことなどが指摘されています。
弁護士によって見解が分かれるかも知れませんが、職場に連絡をしたいという方がいれば、私なら控えておくよう助言します。職場に連絡をして相手方が失職すると婚姻費用や慰謝料の回収に支障が生じることもあります。一時的に気持ち良くなっても現実的に見れば得策でもありません。そういった観点から説明すると、落ち着きを取り戻してくれる方が多いようです。
他方、「(夫ないし妻から)職場に連絡すると脅されている。」という相談者には他の連絡先(自宅、代理人弁護士の法律事務所等)を伝え、職場への連絡を控えるように通知することをお勧めします。
3.不倫・不貞をめぐる紛争の亜種として、配偶者のある相手(例えば妻のいる男性)と職場内不倫をしていた者が捨てられた腹いせに「職場に不倫・不貞の事実をばらしてやる。」と相手を脅かすケースがあります。
セクシャル・ハラスメントによって性的関係を結ばされた場合や、企業秩序に悪影響を及ぼすような態様で交際が行われていた場合(職場で性交渉に及ぶなど)には職場に事実を申告することは許容されると思います(後者の場合、申告者自身も懲戒処分を受ける可能性がありますが)。
ただ、交際自体が仕事と無関係な時間・場所で行われ、こちらも相手に配偶者があることを知って付き合い始めたというケースであれば、職場への連絡を正当化することはできないのではないかと思います。
個人的には当事者間の紛争に職場を巻き込むといった場外乱闘的な事件処理は好ましくないと思っています。そういうことをしても不幸の総量が増えるだけで、誰の利益にもならないというのが弁護士としての実感です。
不倫・不貞に関係して職場が巻き込まれそうになっている方は、ぜひご相談にいらしてください。紛争解決の軌道を修正するお手伝いができればと思います。
(弁護士 師子角 允彬)
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