「裁判で負けたことがない弁護士」「無敗の弁護士」は優秀なのか?
民事訴訟の判決文を偽造して顧客に渡した弁護士の第一回公判が大阪地裁で行われました。検察側の主張によると、偽造したのは「敗訴がないという自身の経歴に汚点がつくと考えた」からとのことです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20151221-OYT1T50077.html
「敗訴したことがない弁護士」「無敗の弁護士」といった言葉の受け取り方は法律家とそうでない方とで懸隔があるように思われます。
普段あまり弁護士と接点のない方の中には「裁判で負けたことがない」といった宣伝文句から「優秀だからそうなのだろう」という印象を持つ方もいるかも知れません。
しかし、おそらく多くの弁護士は「敗訴したことがない」という宣伝文句を聞いた時、「余程簡単な事件ばかりやっているのか、裁判の経験自体が殆どないのか、どちらかだろうな。」という冷めた印象を持つのではないかと思います。
事件には、①誰がやっても勝訴する可能性の高い事案、②勝てるか負けるか予測がつきにくい事案、③誰がやっても敗訴する可能性の高い事案、の三つの類型があります。
①の類型は右から左に書類を流しているだけで簡単に勝てます。さしたる論点もない過払金の返還請求訴訟などが典型です。このような事件ばかりやっていれば、確かに負け知らずの弁護士が出来上がると思います。しかし、実力をつけるという意味では幾らやっても仕方がありません。
私自身の個人的な経験に照らすと、弁護士の実力は、②、③の類型にどれだけ真剣に取り組んできたかによって差がつくように思われます。
勝つか負けるか分からない勝負で勝とうと思った場合、事実を丁寧に調査したり、法令・判例を徹底的に調査したりして、文字通り全力で争わなければなりません。
また、誰がやっても敗訴する可能性が高い事案でも、10負けるのか5負けるのかといった差はあります。追い打ちを受けるような負け方か、将来に禍根を残さないような負け方かといった点も重要です。敗訴する可能性の高い事案は依頼人の側に弱点になるような事実があることも多く、どうすれば傷を最小限に抑えられるのかには相当神経を使います。
②、③で研鑽を重ねていると、事実関係を漏れなく聴き取る能力が向上したり、法律や判例の知識が増えたり、土壇場でも活路を見出す思考の柔軟性が培われたりします。ただ、見通しのつきにくい事件で勝負をしているため、どれだけ一生懸命やっていても、ある程度敗訴判決を受けて土がつくことは避けられません。
私から見て優秀な弁護士は、②や③の事件から逃げることはありません。敗訴する可能性の高い事案であったとしても、見通しを話した上で依頼人が事件を委ねてくれるのであれば、必死になって、勝訴の可能性を広げるための方法や、より依頼者の利益に資する負け方を考えています。
テレビドラマの中であればともかく、現実の世界で無敗の経歴は弁護士としての実力を図る尺度にはならないと思います。弁護士を探す時の参考の一助になれば幸いです。
(師子角允彬)
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このような発想だと冤罪捏造して勝とうとするよね。
投稿: 木下優樹菜 | 2020年11月 7日 (土) 07時14分