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2015年12月24日 (木)

セクハラ 新入社員歓迎会の二次会は会社業務の延長か?

 福岡地裁で新入社員歓迎会の二次会の場でのセクハラについて会社の損害賠償責任を認めた判決が言い渡されたようです。

http://mainichi.jp/articles/20151223/k00/00m/040/095000c

 会社は従業員の私的な行為にまで無条件で責任を負うわけではありません。しかし、従業員が「事業の執行について」第三者に損害を与えた場合、加害行為した当事者だけでなく会社も責任を負います(民法7151項本文)。

 本件で問題になったのは、歓迎会の二次会で行われたセクハラが「事業の執行について」行われたと認められるかどうかです。

 歓迎会の二次会が会社の「事業の執行」と関係すると言われると、裁判所が随分思い切った方向に舵を切ったかのように捉えられがちです。

 しかし、法律家の感覚からすれば、裁判所の判断はそれほど驚くようなものではありません。

 裁判所がセクハラに厳しいのは元からです。例えば、平成10年の段階で既に歓迎会での二次会で男性のドライバーが女性のオフィスコミュニケーターに行ったセクハラ行為について「職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったもの、すなわち、事業の執行につきされたものである」と会社の使用者責任を認めた判例が出されていました(大阪地判平成101221日判タ1002-185)。この事案で被告となった会社は男性ドライバーとオフィスコミュニケーターとの私的な飲み会をしないように通知していました。しかし、裁判所は「単に口頭で右通知を繰り返したにとどまるもので、・・・従業員にはさほどの重みを持って受け止められていなかった」ことなどを指摘し、会社の通知に反して飲み会が開催されたというだけでは職務との関連性は失われないと判断しました。

 また、厚生労働省も「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!」とう文書を作成し、「勤務時間外の『宴会』などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは『職場』に該当」すると注意喚起してきました。

http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/kigyou01.html

裁判所や行政がセクハラに厳しいのは元からです。福岡地裁の判断は従来の裁判の延長線上にあるだけで何か目新しい判断というわけではありません。

そういう意味で会社がとるべき対策は従来と変わるわけではありません。会社としては従業員に注意喚起し、セクハラを生じさせない仕組みを整えることが重要です。一旦セクハラが起きてしまうと、使用者責任はそれほど簡単には免れないからです。先に挙げた大阪地裁の判例などに鑑みると、飲み会を禁止するといった形式的かつ極端な対応は意味がありません。必要なのは法の趣旨に沿う冷静な対応です。

 労働者の側は飲み会での出来事であるからといって直ちに会社への責任追及を諦める必要がないことは意識しておいても良いと思います。慰謝料額が伸びにくいため弁護士への依頼が経済的に割に合うかは微妙なところです。しかし、納得できない場合に裁判所の判断を仰ぐことは決しておかしなことではありません。

 当事務所では労働者からの相談も使用者からの相談もお受けしています。

 お悩みをお抱えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

(師子角允彬)

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