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2015年8月14日 (金)

GPSを捜査に使えるか―公権力の行使に対する歯止めを考える

先日大阪地裁で,裁判所の令状を得ないで車両にGPSの発信器を付け行動を監視した捜査を違法とし,この捜査によって得た証拠を採用しない決定が下されました。

一方,今年の1月には,大阪地裁が同様の捜査を適法とした判断を下しました。

 なぜこの2つの裁判で意見が分かれたのかは,判決文を読めていない現時点では言及できませんが,非常に興味深いです。

 憲法においては,現行犯逮捕の場合を除き,令状なしには住居への侵入,捜索及び押収ができないとされています(憲法35条)。これを受けて,刑事訴訟法では,捜査において必要な取調べはできるけれども,その取調べが「強制の処分」に該当するようなら,法律に定めがなければできない,と規定されています(刑事訴訟法197条1項)。

 実際の捜査においては,法律に定めがないことも行います。しかし,その捜査が「強制の処分」に該当するならば,法律上の手続きを踏まないと,違法と判断されます。そこで,捜査が「強制の処分」に該当するか否かが,裁判で争いになることがあります。

「強制の処分」は法律上定義されておりませんが,「個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」だと考えられています(最決昭和51年3月16日 刑集30巻2号187頁参照)。冒頭で掲げた2つの裁判も,きっと上記の枠組みに従って判断し,ただプライバシー侵害の程度をどのくらいと考えたかに差異があるのではないかと,私は推測します。

実際の捜査において力技に出なければならないことがあろうことは,想像に難くありません。しかし,捜査を遂げることばかり重視してしまうと,捜査のためには何をやってもいい,ということになりかねません。捜査という公権力の行使に歯止めをかけるのが,刑事訴訟法などの法律です。そして,どのような歯止めが妥当なのかを理論的な立場から常に考えているのが,刑事訴訟法学者なのです。

最近,一部政治家による,学者軽視の発言が見られます。何かを行っていくうえで,理論より実践が大事だと言いたくなることがあることは,私も否定しません。ただ,だからといって理論を捨ててしまえば,何の歯止めもそこには存在しなくなるのです。理論なき公権力の行使の危険性を,市民一人一人が実感しなければならないのではないかと考える今日この頃です。

(津金貴康)

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