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2015年6月 4日 (木)

不可能を要求する司法~カネミ油症新認定訴訟の顛末

去る6月2日、最高裁は「上告審の受理をしない」決定を出しました。

カネミ油症新認定訴訟裁判のことです。

これまで何度か書いてきましたが、カネミ油症新認定訴訟というのは、昭和43年にカネミ倉庫がダイオキシン類を食用油に混入させるというありうべからざる事故を起こしたことで、九州・西日本で多くのカネミ油症患者が発生しましたが、その被害者が原告となって、加害企業であるカネミ倉庫に対する賠償請求を起こしたものです。本件訴訟の患者たちの多くは、平成14年の認定基準の変更によって認定された「新認定患者」です。カネミ油症患者であることが客観的に明らかになったことで、事故から長い年月が経過した平成20年、ようやく訴訟提起が叶いました。

今回の最高裁の判断は、原審・控訴審の、本件被害は既に除斥期間の経過により請求権を喪失したという判断を維持し、確定させたことになります。

最高裁の判断には、大きな問題点が2つあります。

ひとつには、除斥期間の起算点を昭和44年から動かさなかったことです。

除斥期間というのは、時効に似たものですが、時効と異なり、原則起算点は不法行為時から動きませんし、中断もしません。
しかし、これまでの公害被害、たとえばじん肺訴訟や水俣病、B型肝炎など、裁判所は多くの訴訟で起算点を動かして、被害者を救済して来ました。
じん肺訴訟では、最高裁はその起算点を「最終の行政上の決定を受けた日あるいはじん肺を原因とする死亡の日」としています。つまり、じん肺の被害の発生時自体ははるかに以前のことであっても、行政上の決定を受けた日や死亡時まで起算点をずらして、除斥期間に掛かることを防いできたのです。それは、行政上の決定を受ける前に予め最終被害を申告するということが不可能だからでした。法は不可能を求めないとされてきたのです。

もうひとつは、除斥期間であることに拘泥したことです。

民法724条は、除斥期間を定めたものであるということを前提にこれまで話が進められてきましたが、実は法文上、これが除斥期間を定めたものとはどこにも記載されておらず、また法の起案者は、もともとこの条文を時効のつもりで作成していました。ところが、平成元年の判例以降、解釈としてこれは除斥期間を定めたものであるとされてきたのです。これには強い反対意見が当時からあり、結果、多くの判例で除斥期間であるとすれば悲惨なことになる被害者を救うために、起算点を動かすという技を使わざるを得なくなりました。このような問題を受けて、今年度中に可決される予定の改正民法では、当該条文は時効を定めた条文であると明記される予定だったのです。これが時効であるなら、起算点は動きますし、中断もあります。
しかし、最高裁は、このような流れを一顧だにせず、民法724条は除斥期間を定めた規定であるという判断を維持したわけです。

カネミ油症新認定患者は、油症事件発生以来、多くの病気を次々と発症し、莫大な医療費を支払いながら、お前は油症患者ではない、生まれつきのかたわものであると言われて生きてきました。それは、昔はカネミ油症患者であることを明らかにする、血中のダイオキシン濃度を測る技術が未発達であったことによるものです。水俣病などとも異なり、カネミ油症患者であることの認定は、一般の医師の検査ではできません。年1回の健診を受け、油症研究班の認定を受けることが、唯一絶対の油症患者であることを明らかにする手段でした。

平成に入り、科学技術が追いついてきた結果、平成16年以降、多くの患者がようやくカネミ油症を患っていると認定されました。認定前は、詐病扱いすらされていた患者に、自らが油症被害を受けた者であることの立証は不可能でした。事実、過去には思い余って未認定患者が訴訟を起こしたこともありましたが、患者であることの証明ができないとして、請求は早々に棄却されています。
ところが、今回の裁判所の一連の判断は、結局「認定されていなくても訴訟提起はできたはず」「事実上難しかったというのは理解するけど理論上は可能だったはず」というものでした。司法は、事実上の不可能を要求したのです。

加害企業のカネミ倉庫は、患者への支払が必要だからという理由で、国から保管米を回してもらい、安定収入を得て順調な発展を遂げています(注・カネミ倉庫は認定患者に対しては一部医療費を負担しています)。その一方で、このように多くの患者を闇に葬り、裁判所もこのような不正義を追認したことになります。
司法とは何か、正義とは何か。考えさせられる判決でした。


(石丸文佳)

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