児童相談所,これではだめだろう
5月4日,相談の電話があった。中学3年の娘が児童相談所に連れて行かれた,娘も帰りたがっているし,私も帰してほしい,という母親からの相談だった。児相に連れて行かれた経緯は,後に知った事実も交えて説明すると以下のようなものだった。
前日夜,酒を飲んで空腹を覚えた父親が料理をしようとした際、サラダ油がないことに腹を立て,物を投げて壊したりして暴れ出した。これに対して娘ははさみを、母親はパン切ナイフを投げて父親と喧嘩になった。ところがこの父親は妻子に対する嫌がらせで110番したから大ごとになった。
このときの父親の対応は最低だが,素の父親は,酒癖は良くないものの,まじめな技術者で,もちろん妻子の身体に暴力を加えたことはなく,娘を大事にしており,親子関係は良好だった。且つ今回の件で反省して直ちに家を出て別居するようになった。
私立の進学校に通っており,成績も非常に良く,皆勤賞を目指している娘はすぐにも家に戻りたかったが,警察官から
「学校なんて行かなくてもいいんだよ」
「勉強なんてしなくていいんだよ」
「君がいるとお母さんの邪魔だから、そばにいることはできません」と言われ、
行きたくないと泣いたのに、無理やり児童相談所に連れて行かれた。
しかも,警察官は母親に対しては,
「娘さんは、おびえてガタガタ震えて泣いて児童相談所に行きたいと言いました。2か月は出られませんから、その間にアパートを借りて引っ越してください。」と言った。
母親が、「子供を誘導していますね。弁護士を呼んだほうが良い状況ですよね?」
と言うと怒り出し,「このお母さんはダメな人だわ!呼びたきゃ、勝手に呼べ!」
と怒鳴りつけた。それが4日の午前3時から4時にかけてのこと。
勝手に弁護士を呼べと言われた母親が「この時間に弁護士を呼べないですよね?」と尋ねると
「お前の問題だろ!勝手にしろ!」とさらに怒鳴られた。
また娘は学校に行けないと言われたので、「義務教育中です。教育を受ける権利はどうなりますか?」と尋ねると
「学校へは行けません。児相内で勉強させます。学校なんて行かなくても卒業
できる」と言い放たれた。
警察署で未明まで事情聴取を受けた娘はそのまま児相に身柄を移された。
児相では、警察の取り調べで一睡もしてない娘にその翌日、マラソン児相敷地内30周、縄跳び500回を命じた。娘は途中で倒れてしまい、30周は走れなかった。足の裏にはマメができ、皮膚がはがれた。
勉強は、中学生ながら既に英検準2級の娘だったが5級以下の内容、数学は小学生がするような100マス計算しかさせてもらえなかった。
児相内の様子はというと、畳敷の部屋がとても汚く,そのためか、廊下で寝ている児童もいる始末。トイレは悪臭がし,その悪臭は浴場でも臭った。トイレは、誰がトイレットペーパーを無駄にしたかわかるようにするため,1人ずつしか行ってはいけないとされた。
トイレットペーパーの使う分量が限られ、トイレ使用時にチェックされるため、娘は便秘になった。
連休明けの5月7日,児相に呼ばれた母親に新人の金澤弁護士が付添った。父親は深く反省し,既に別居が成立している。母子の安全は十分に確保されている。他方娘は帰宅と学校への復帰を希望している。聡明な娘の判断は十分尊重に値する。児童の福祉の観点からも,保護は解除されるべきである旨を訴えた。
その甲斐あってか,娘は翌5月8日に保護を解かれた。早速学校に行くと皆に驚かれた。警察官が学校に,数か月は学校に行けないと連絡を入れていたからだ。
警察の勇み足は,愚かな父親の行動によるところが大きいけれど,それでも母親に対する態度は容認しがたいし,そもそも最も保護されるべき児童の説明をきちんと聞いていないことが問題だ。勉強のできる子どもに,勉強なんか児相でもできると言い放ち,学校にまで,数か月通えない旨の連絡を勝手にしてしまう傲慢さは度し難い。
そして私がもっと腹が立つのが児相の対応だ。一睡もできていない児童に,園庭30週,縄跳び500回を命じるとはどういうことか。体罰ではないのか。また,勉強ができる子どもかどうかは少し話せばわかる。私立中学でもトップクラスの児童に英検5級や100マスはないだろう。このどこが保護といえるのか。
トイレや風呂場がアンモニア臭とは,今時どこの牢獄だ。
児相にはきちんと抗議するつもりだが,物的設備の改善と,優秀な人材の投入が必要だとつくづく感じた次第だ。
(櫻井光政)
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