4月6日,司法・交通ジャーナリストの今井亮一さんの代理人として,東京都に対して情報開示を求める訴訟を提起しました。
警視総監はある企業から年間3045万円の契約でNシステムを賃借しています。今井さんがその契約書の開示を求めたところ,警視総監は賃貸人の企業名や賃貸の目的たる機器の数量や機能などを非開示としました。しかし,誰から,どのような性能の物を,いくつ借りたかというのは,都の支出の適正を判断するために不可欠な情報です。
今井さんは東京都公安委員会に審査請求をしましたが,容れられませんでした。そこでこの度司法の判断を仰ぐべく提訴に至りました。
本件は東京都の問題なので特定秘密保護法と直接の関係はありませんが,同法に言う「秘密」のレベルが警視総監の考える「秘密」のレベルと大きく異なるとは考えられません。とすれば,「秘密」の範囲を恣意的に広げられるような運用をさせてはなりません。私は,Nシステムの供給企業名-それは三菱,松下等限られた数社の中の1社でしょう-程度の情報を秘密として非開示にすることを許してはならないと考えます。
以下,興味のある方のために,訴状の骨子を掲載します。
第1 請求の趣旨
1 警視総監が平成25年8月7日監.総.文.情第3002号をもってなした一部開示決定のうち,別紙非開示部分目録記載の部分を非開示とした部分を取消す
2 警視総監は,原告に対し,本件非開示部分の開示決定をせよ
3 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
第2 請求の原因
1 本件訴訟提起に至る経緯
(1)原告は交通及び司法の問題を専門とするジャーナリストである。
(2)原告は,東京都情報公開条例に基づき,警視総監に対し,平成25年7月25日,「Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の契約書及び仕様書。最新のもの。」の開示請求を行った。
(3)これに対して警視総監は平成25年8月7日一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行ったが,これには別紙非開示目録記載の非開示部分があり,その分量,内容は多岐に亘る。
(4)原告はこれを不服として平成25年10月7日,東京都公安委員会に宛てて審査請求を行ったが,同委員会は平成26年10月3日,審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(5)原告は,同月8日裁決書の謄本が原告代理人事務所に送達されたことにより,同裁決があったことを知った。
2 本件処分の違法
(1)非開示部分,非開示の根拠規定及び非開示理由については別紙非開示目録記載の通りである。このうち警察職員の「印影」や法人の「印影」については,個人の特定や印鑑の偽造等がなされる危険等について了解可能なものであるし,契約の当否をチェックするにあたって重要な情報ではないから,開示されないことも理解できないではない。
(2)しかし,賃貸借契約の賃貸人を非開示としたことは違法である。そもそも契約の当事者が誰であるかという事実は,契約の根幹をなす重要事項であり,当該契約が公正になされているか否かをチェックするのに不可欠な事項だからである。
これに対して警視総監は,非開示の根拠規定として東京都情報公開条例第7条4号を挙げ,賃貸人を公開すると「契約相手等が明らかとなり,犯罪を企図する者等による妨害等の対抗措置を容易にするなど,犯罪の予防及び捜査等に支障を及ぼすおそれがあると認められる」ことを非開示理由とするが,このような理由は非開示の理由とはならないものというべきである。
確かに,契約相手が明らかになると犯罪を企図する者がこれに対して何らかの妨害措置を取る蓋然性はゼロではなかろう。しかし,そのような蓋然性がゼロではないという理由で情報の開示を拒めるならば,およそ全ての契約において,相手方の開示を拒否することが可能になろう。そのような運用が,条例第1条に定める条例の目的,すなわち「日本国憲法の保障する地方自治の本旨に即し・・・東京都が都政に関し都民に説明する責務を全うするようにし,都民の理解と批判の下に公正で透明な行政を推進し,都民による都政への参加を進めるのに資すること」に反するものである。第7条4号が,そのようなおそれがあることに止まらず,そのようなおそれを「実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」としているのもそのためである。警視総監の非開示理由は「相当の理由」を欠くものである。
警視総監はまた,非開示の根拠規定として条例第7条6号を挙げ,賃貸人を公開すると「契約相手等が明らかとなり,犯罪を企図する者等による妨害等の対抗措置を容易にするなど,公共の安全と秩序の維持を確保するという警察業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことも非開示の理由に挙げるが,このような理由による非開示も条例第1条の目的に反するものである上,第7条第6号の解釈としても,契約当事者の開示が,例示されている事項やこれに類する事項に当たるとは言えないものである。
(3)また,車両捜査支援システム設置場所一覧表の一部を非開示としたことも違法である。契約において,目的物の数量は重要な要素であって,それなくして契約の適正は判断できないからである。
これに対して警視総監は,非開示の根拠規定として条例第7条第4号を挙げ,「公にすることにより,車両捜査支援システムの設置場所及び設置台数が明らかになり,その結果,被疑者等が同署を回避する行動をとるなど,犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる」ことを理由とする。
確かに,設置場所の詳細を明らかにすることが,車両を利用した犯罪を企図する者に,逃走経路の検討を許す余地はあろう。しかしそうであれば,設置場所についての詳細ではなく,例えば特別区までの情報を開示すれば良いのであって,位置に関する情報を全て秘密にする必要はない。また,設置台数自体はそれを知られたからと言って犯罪捜査に支障を及ぼすとは到底考えられない。
(4)上記以外に非開示とした部分についても,非開示としたことは違法である。この部分は車両捜査支援システムの機能,性能に関わる部分であるが,そもそも高額な対価を支払う賃貸借契約において,目的物がどの程度の機能・性能を有するかは重要な事項である。その機能・性能と設置数量との情報があいまって初めて使用料の適正も判断できるものである。
これに対して警視総監は,根拠規定として条例第7条第4号を挙げ,「公にすることにより,車両捜査支援システムの機能,性能,使用機器等が明らかとなり,その結果,車両捜査支援システムでの検出,照合を妨げるなどの対抗措置を講じられる恐れがあると認められる」ことを理由とする。
しかしこれについても契約書に記載されている機能や構造の全てを非開示にすべき理由は到底見当たらない。契約書に記載されているレベルの技術情報であれば,それを知っても妨害策を講ずることがさほど容易になるとは考えられないし,仮にそういう詳細な情報が契約書に記載されているのであれば,その部分を選択して非開示にすれば足りるものだからである。
3 結論
以上によれば,警視総監がした本件処分は,本件非開示部分を非開示とした点で違法であるから,その取り消しを求める。
(櫻井光政)
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