帰還困難区域を走るバス
先頃、南相馬市の原ノ町駅から楢葉町の竜田駅までの常磐線不通区間で、今後は代行バスを1日2往復走らせることを決定したというニュースがありました。
この区間が不通になっていたのは、まさに福島第一原子力発電所のすぐ側を走っていたからですが、電車の代わりにバスをほぼ同じ経路で走らせるというわけです。当然、帰還困難区域とされている高線量地域を長時間(片道約1時間だそうです)通ることになります。
電車と違ってノンストップであり、途中でドアを開閉することはないですが、閉めきった車内にいても当然乗客は被曝することになります。計測に拠れば、1回当たり1.2μsvだそうです。
もともと、この区間が通れないことで、南相馬市側からいわき方面に通勤等していた人々は大幅な迂回を余儀なくされており、結果としていわき方面への通勤は不可能でした。ゆえに、これまでは南相馬市等既に帰還が認められている地域の住民であっても、いわき市近辺に避難を継続しなければならない理由があると認められ、賠償が行われてきたのです。
言い換えれば、それだけ南相馬方面からいわき方面に通勤している人が多いわけで、このバスは、このような朝夕の通勤で利用する人たちを見込んで走らせるわけです。
以上のことから、懸念が2つあります。
ひとつは、低線量被ばくの問題です。一説には、生涯被ばく量が100msv以下であれば問題ないと言っているようですが、そうではなく、いわゆる~以下なら安全と言われる「閾値」は存在しないという説も有力に唱えられています。
つまり、危険度は被曝の量に比例して増えるというものであり、チェルノブイリでも低線量被ばく地域の住民のがんの発生率が自然発生する率よりも有意に上昇したというデータもあります。
もうひとつは、これにより避難継続の必要性なしとして賠償が打ち切られるおそれがあることです。低線量被ばくの危険を冒すも冒さないも自由ですが、この危険を冒すことを強制するような賠償の実務が定着することがあってはなりません。
(石丸文佳)
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