生活保護法第78条に基づく徴収債権の非免責債権化
個人が自己破産手続をとったときに,大半の債権(借金など)は破産の免責手続によって免責され,支払義務を免れます。
しかし,一定の債権については,破産の免責手続によっても免責されず,破産手続後も支払義務が存続することになります。
どのような債権が非免責債権となるかというと,破産法第253条に定めが置かれており,下記の債権が該当します。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条 の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条 (同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
ところで,生活保護の不正受給をした場合などには,生活保護法第78条に基づき,不正受給した保護費の返還を求められ,徴収されることになりますが,この徴収債権が,平成26年7月1日から施行されている生活保護法改正によって,非免責債権化されているので,注意が必要です。
改正された生活保護法第78条第4項において,
「前三項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。」
との定めが新設されました。
破産法第97条第4号では,
「国税徴収法 (昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)(後略)」
として「租税等の請求権」の定義をおいています。上記の生活保護法改正による新設規定により,生活保護法第78条に基づく徴収債権が,「租税等の請求権」に該当することとなり,非免責債権となりました。
この点,破産法だけ見ていても気がつきにくいところですので,注意が必要です。
これまでは,破産手続が視野に入っているのであれば,生活保護費の返還を命じられる根拠が,生活保護法第63条に基づくものであっても,第78条に基づくものであっても,いずれにしても原則として免責債権であったため,それほど気に掛ける必要はなかったかもしれません。
しかし,今後は,生活保護法63条に基づく返還債権は破産手続において免責対象となる一方,同78条に基づく徴収債権は非免責債権となりますので,大きな違いが生じます。
本来生活保護法第63条に基づいて返還が命じられるべきケースで,同78条に基づく徴収の決定を受けたような場合は,積極的に審査請求を行って是正する必要があるといえます。
なお,生活保護に関する審査請求などについては,日弁連の委託援助事業を利用して,弁護士費用をまかなうことができます。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/justice/houterasu/hourituenjyojigyou.html
(弁護士新谷泰真)
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