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2014年8月 8日 (金)

~東京電力の従業員案件ADR和解拒否について考える~

 この約3年間原発賠償の弁護団の一員として活動しています。弁護士会からの派遣相談担当者としても都内はもちろん福島各所の仮設や相談所で被害者の声をたくさん聞いてきました。あの事故さえなければ、どうしてあの事故が起きしてしまったのか、怒り、不安、不満、幻滅の思いを聞く度に被害者とともに東京電力を相手に闘う必要性を感じてきました。それは今も続きます。

 しかし、その怒りや不満の矛先はあくまでも東京電力というマンモス企業へ向けられたものであり、わたしは従業員、特に現場作業を含む危険な仕事に従事している方々やその家族に向けたことはありません。責任を負うべき、責められるべきは企業という組織であり個人相手に非難の声を向けようと思ったことはありません。企業が責任を負うことと企業に勤めている個人の責任や処遇は峻別して考える、それは当然のことではないでしょうか。

 実はそのことを一番理解しなければならないはずの東京電力が自らの従業員に極めて冷たい仕打ちを行っています。

原子力損害賠償紛争解決センター(原紛センター)での和解手続きでは仲介委員が双方の言い分を聞き、時には多くの証拠を提出させて和解案を示しますが、その和解案を東京電力は7月中旬時点において36件(正確には拒否した結果打ち切りで終了してしまったもの)拒否しているようです。そして、その36件は全て東京電力従業員又はその家族が申立人になっているケースだというのです。

 何故? 東京電力の副社長は国会の委員会質問で議員からこのことを指摘され、「従業員については個別事情を把握できるから」という理由を述べています。

 ???? はあ?という感じです。これは理由になるのでしょうか。全くもって意味不明です。

 個別事情を把握できるから、その従業員や家族は避難による苦労がないということを実は知っている?放射線に対する不安がないと断言できる?事故前と事故後で生活ぶりに変化が全くなかったはず?そう言い切るつもりでしょうか。

 絶対にそんなことはないはずです。

 念のため申し上げるとわたし自身は東京電力従業員や家族を申立人としたADRの案件を担当したことはありません。よって、実際にどういう請求がなされ、また具体的にどういう和解案が示されているのか正確なことは知りません。ですので、こういうコメントをすることも事情を知らないからとの批判を浴びるかもしれません。

しかし、和解案は先にも述べたとおり仲介委員(主にベテランの弁護士です)が双方からの主張立証を受けて、その上で公平中立な立場で提示したものです。請求されるままに安易に示しているわけではありません。裁判並の立証を求められることもしばしばです。東京電力が個別の事情を把握しているのであれば、その事情もADRの手続きの中で東京電力の代理人が出しているはずです。36件全てが実態とずれたおかしな和解案だったなんてあり得ない話です。

そもそも従業員である方がADRの申立をするというのは非常に勇気のいることだったはずです。それでも直接の請求ではとても埒があかないということで最後の砦として救済を原紛センターに求めたのです。せっかく仲介委員が理解を示し、和解案を出してくれたというのに、結局は東京電力が頑なにそれを拒む・・・ご家族ともども感じた失望とやりきれなさはどれほどのものでしょうか。それでも立場上、顔や名前を出してマスコミの取材にも応じることができないのが通常です。東京電力はそれすらも見越しているとしか思えません。

東京電力は原紛センター仲介委員が提示した和解案を尊重しなければならないという義務が課されています(新特別事業計画の3つの誓い)。そこに従業員が相手の場合は尊重しなくてよいなどという留保は付いていません。適正な賠償をすべきなのは従業員や家族だろうとそうでなかろうと同じです。東京電力は自らの従業員を他の被害者と差別し、そうすることで本当は申立をしたいであろう従業員やその家族の声を封じようとしているとしか思えません。

実は打ち切りにこそまだ至っていないものの東京電力が和解案拒否しているのは東京電力従業員案件だけではありません。報道されているように浪江町町民1万5000人が申立をした浪江町弁護団の件、飯舘村蕨平住民の集団申立の件(原発被災者弁護団ホームページでも紹介していますhttp://ghb-law.net/)があります。もちろんこれはこれで問題であり、厳しく批判抗議していかなければなりません。

ただ一方で、東京電力従業員案件で多くの和解案が拒否されているといった事態が「異常」ではなく「ああまたか」と思われてしまう風潮が生じてきているとすればよりゆゆしき問題です。東京電力従業員案件ばかり和解案拒否するという異常な事態に慣れてしまってはいけません。その先には全ての和解案拒否にも慣れてしまうという恐ろしい事態が予測されます。それは避けなければなりません。

どんな案件でも東京電力は和解案を尊重しなければならない、被害者救済のために愚直なまでに今こそ言い続けなければならないと強く感じています。

(亀井真紀)

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