ホームロイヤー契約
最近、今は具体的なトラブルを抱えているわけではないが将来高齢になった時が心配なので諸々色々頼めるところはないだろうかという相談を複数受けました。最近は生前に本人から死後事務を引き受ける業者もあらわれているようですから関心・需要は多いのでしょう。
わたしはこのような相談を受けた場合にホームロイヤー契約というものがあることをご説明しています。これは法律家である弁護士にかかりつけ医のような立場で継続的に法的サービスを提供してもらう契約のことをいいます。具体的中身は様々ですが、高齢になった時に予想される課題やトラブルに対処するために財産管理を中心とした契約を結んでおく場合が多いように思います。
高齢化率が高く、一方で少子化により支える側の若手が少なくなっている日本においては、多くの方が自らの老後に不安を持っています。認知症になった時にお金を管理できるだろうか、悪い人に財産を騙しとられたらどうしようか、身体を悪くした時に入院の手続きはどうしようか、介護が必要になった時に入居施設はどう決めたらいいだろうか、ひとりきりになってしまったらどうしよう、自分が亡くなった後の葬儀やお墓の問題はどうしようか、亡くなった後の自分の財産はどうなるのだろう・・・等々人生長ければその分悩みも増えていきます。そんな不安を少しでも解消するために法律家を活用することができるのです。
例えば、認知症になった時の財産管理が不安であれば予め弁護士と任意後見契約を結び、自ら財産管理をすることができなくなった場合には任意後見人になってもらうということが考えられます。任意後見契約を締結するには公証役場で公正証書を作る必要がありますが、その際には公正証書遺言も一緒に作成して、任意後見人予定の弁護士を遺言執行者として指定しておく方も少なくありません。遺言執行者を予め定めておくことで、遺言内容をより確実に実現することができます。また、判断能力が低下する前から財産管理契約を締結し、大事な通帳や証書等を預かってもらい、常に相談できる関係を維持しておくこともあります。
さらに、死亡届、入院費等の清算、葬儀、納骨、遺留品の処理などの死後の事務まで委託する方もいます。自分の最後は自分の意思で決めておきたい、できる限り人の世話になりたくない、迷惑をかけたくないという気持ちを持つ方が増えているのだと思います。
問題はそういうことを頼める人をどう探すかです。
おそらく「弁護士にお気軽にご相談ご依頼ください!」と言ってもそうたやすく以上のようなことを頼める人は多くいないはずです。自分の判断能力が低下した場合や亡くなった後のことに関してはもはや自分が監督するわけにいかないのですから、本当の意味で人として信頼できる人でなければなりません。1,2回の法律相談で信頼してもらえれば勿論よいですが、実際には簡単ではないでしょう。
そこで一度に全部を任せるのではなく、少しずつ色々なことを相談・依頼をし、臨機応変に修正変更していける関係を持つことから始めてみてはどうでしょうか。例えば、まだ元気であればとりあえず弁護士と法律顧問契約を結び、電話やメールで簡単な相談をできる弁護士を決めておく、定期的に面会をするなどして、ある程度信頼できると思えてきたところで遺言の作成を手伝ってもらう、さらに任意後見契約を結ぶ、今現在の財産管理をある程度委ねる、死後のことも委託するなどひとつひとつお願いごとを増やしていくというやり方です。勿論、信頼関係を維持できないと考えれば契約を解除すればよいのです。
また、遺言も最後の決断と思うとなかなか書けないものですが、少し気が変われば何度でも書き直せばよいのです。当然に日付の新しいものが有効になりますし、弁護士に形式面のチェックをしてもらって自筆遺言にしておけば、特段費用もかかりません。一般的には公正証書遺言がよいと言われていますが、自筆証書遺言も要件を充たせば立派に効果を発し得ます。
来るべき超高齢化社会に向けてぜひ上手に弁護士を利用して頂ければと思います。
(亀井真紀)
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