お年寄りと弁護士の距離に関する話
今年度から、第二東京弁護士会の消費者と高齢者の合同委員会の部会長になりました。現在手掛けているのは、お年寄りの消費者被害の予防と救済のためのネットワーク作りです。消費者被害に遭いやすいのはお年寄りなのですが、意外なことに、消費者委員会は高齢者委員会とつながりがないという弁護士会が多く、高齢者関係は門外漢と自覚している消費者委員も非常に多いのです。
かくして、お年寄りの消費者被害の予防と救済のため、日弁連の意見書を基にネットワークづくりを各地で進めることになったのですが、お年寄りを対象とした相談会を開いても、なかなか被害を減らすことはできません。それは、一定のお年寄りにとっては、弁護士よりも詐欺師の方が敷居が低く、相談しやすく、親しみやすいからです。
弁護士がどこそこの建物で相談会を開いているらしい、でも私には法律の相談なんて別にないし、弁護士に聞いてもらうことなんかないわ、だって普通に生活しているだけだもの。でも、そういえばこないだ家に来てくれた○○さん、私のことを故郷の母と過ごしているようだって喜んで、とっても親身に私の愚痴を聞いてくれたわねえ。○○さんの言うことなら信じられるわ。
この「愚痴」にはかなりの割合で法律相談が含まれているのですが、お年寄りはそれを専門家に相談するほどのことだとは思いません。弁護士に相談しなければならないことと言うのは、なんだかよく分からないけれどももっと大きな、日常生活とは関係ないようなことという思いがあります。弁護士はは、こちらから出向かなければ日常では会うこともない希少生物と思われているようです。
「○○さん」が地域の民生委員さんなど、弁護士とお年寄りの橋渡しをしてくれる人であればよいのですが、これが詐欺師であれば、消費者被害の一丁上がりです。しかも、民生委員さんでさえ、お年寄りの抱える問題をどこに持って行けばいいのか分からないと思っている人が多いのです。民生委員さんが、おばあちゃん、それは弁護士に相談しなければどうしようもないことよ、と言ってもおばあちゃんは自分では動かない、思い余って民生委員さん自身で弁護士のところに行ったら、本人でなければ相談は受けられないと言われたとか、相談はできるけれど有料になりますと言われ、自腹を切ることは無理と諦めたとか、そんな話がよくあります。
これからの弁護士は、少なくとも詐欺師に負けないレベルまでお年寄りの近くに自分で足を運ぶ必要があります。それと同時に、橋渡し的な人(上記の例だと民生委員)が気軽に足を運べる相談の場を設ける必要があります。
現在、第二東京弁護士会では、高齢者向けの法律相談会以外にも、お年寄りとおしゃべりを行う座談会(法律相談も可)や、福祉従事者向けの無料相談を行っています。他にも、各地で出張相談や資力を問わない無料相談、電話相談が存在します。弁護士をうまく使うようにしてください。
(石丸文佳)
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