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2014年7月 1日 (火)

パワハラ・職場内いじめと自殺

 5月30日、厚生労働省が「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」というプレスリリースを公表しました。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10401000-Daijinkanbouchihouka-Chihouka/0000047216.pdf

この資料によると、民事上の個別労働紛争相談の内容は2年連続で「いじめ・嫌がらせ」が首位になっています。資料の助言・指導例を見ると、「いじめ・嫌がらせ」の中にはパワーハラスメントも含まれているようです。
「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は平成14年度には6627件でしかありませんでしたが、その後一貫して増加し続け、平成25年度には5万9197件もの相談が寄せられています。この傾向を見る限り、「いじめ・嫌がらせ」を巡る紛争は今後とも増えて行くものと推測されます。

 いじめやパワーハラスメントの問題には行政も対策に乗り出しています。昨年9月27日には厚生労働省がパワーハラスメントの対策ハンドブックを作成しています(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000024281.html)。

 ハンドブックでは、パワーハラスメントとして6つの類型を例示しています。①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、⑤過小な要求(職務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)などです。こうした行為は従来から刑事罰や不法行為に基づく損害賠償請求の対象とされてきましたが、厚生労働省が不適切な行為類型を明確にしたことは今後の行政指導や裁判実務における指針の一つとして被害者の救済に資するものとして評価できます。

 パワーハラスメントを巡っては、裁判所でも画期的な裁判例が出されるようになりつつあります。今年の1月15日に名古屋地方裁判所で言い渡された判決もその一つです(名古屋地判平26・1・15判時2216-109)。この判例はパワーハラスメントと自殺との因果関係を認め、企業に対し合計4600万円余りにも及ぶ賠償金を遺族らに支払うよう命じた事案です。一般にパワーハラスメントと自殺との因果関係が認められることは極めて珍しく、法曹実務家の注目を集めた事案です。

 この事例では、①ミスをした時に頭を叩く、②注意する時に「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ。」「ばかやろう。」などと汚い言葉で罵る、③ミスをして会社に損害を与えた時に弁償するように求め、できないのであれば家族に弁償してもらうと言い放つ、④「会社を辞めたければ7000万円払え。払わないと辞めさせない。」などと言うなどの酷いパワーハラスメントが上司から加えられていました。また、⑤自殺一週間前には全治12日間を要するほどの暴行を加えられ、⑥自殺の3日前には「私…は会社に今までたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をお掛けしたことを深く反省し、一族で誠意をもって返さいします。二ヶ月以内に返さいします。」「額は一千万~一億」などと記載された退職届まで書かされていました。

 これはパワーハラスメントが問題になる事例の中でも深刻なケースであると思いますが、ハラスメントに関する相談を受けていると、残念ながら本件と並ぶような扱いが見られる事例は決して珍しくありません。通常は自殺に至る前に勤務先を離れることになりますが、最悪の結果になった場合に残された遺族にとって本件のような裁判例が出されることは大きな意義があるのではないかと思います。

 パワーハラスメントは深刻化すれば従業員にとっても企業にとっても不幸な結果を招くことになります。従業員の方は時として命まで脅かされることになりますし、企業は社会的信用の失墜や人材採用の困難化など存続を揺るがす事態に陥りかねません。事後的な被害者の救済だけではなく、深刻な結果を未然に防ぐためにも、法律家はこの問題に積極的な役割を果たして行かなければなりません。

 企業としては、苦情・相談への対応や、研修の実施、パワーハラスメントを防止するための体制整備などで法律家を活用する余地があるだろうと思います。従業員の方としては、心身に不調をきたす前に職場に改善を申入れたり、円滑に退職したりするため、法律家を代理人に選任する意味があろうかと思います。

 職場のパワーハラスメントやいじめ等について問題をお抱えの方は、ぜひご相談ください。

(師子角允彬)


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