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2014年7月

2014年7月31日 (木)

8月,9月の神山ゼミ

神山ゼミを以下の要領で行います。皆様のご参加をお待ちしています。

日時
8月20日(水)午後6時から午後8時30分頃まで
9月30日(火)午後6時から午後8時30分頃まで

場所
伊藤塾東京校 521B教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html

備考
法曹、修習生、学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に、現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。

特に,実務家の方からの,現在受任している事件の持込相談を歓迎いたします。方針の相談や,冒頭陳述・弁論案の批評等,弁護活動にお役立ていただければと思います。なお,進行予定の都合上,受任事件の持込相談がある場合には,参加連絡の際にその旨伝えていただけると助かります。

参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を池田征弘までご連絡下さるようお願いします。

[件名] 8月の神山ゼミ(9月の神山ゼミ)
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・持込相談の事件がある場合にはその旨を。

2014年7月18日 (金)

ホームロイヤー契約

最近、今は具体的なトラブルを抱えているわけではないが将来高齢になった時が心配なので諸々色々頼めるところはないだろうかという相談を複数受けました。最近は生前に本人から死後事務を引き受ける業者もあらわれているようですから関心・需要は多いのでしょう。

わたしはこのような相談を受けた場合にホームロイヤー契約というものがあることをご説明しています。これは法律家である弁護士にかかりつけ医のような立場で継続的に法的サービスを提供してもらう契約のことをいいます。具体的中身は様々ですが、高齢になった時に予想される課題やトラブルに対処するために財産管理を中心とした契約を結んでおく場合が多いように思います。

 高齢化率が高く、一方で少子化により支える側の若手が少なくなっている日本においては、多くの方が自らの老後に不安を持っています。認知症になった時にお金を管理できるだろうか、悪い人に財産を騙しとられたらどうしようか、身体を悪くした時に入院の手続きはどうしようか、介護が必要になった時に入居施設はどう決めたらいいだろうか、ひとりきりになってしまったらどうしよう、自分が亡くなった後の葬儀やお墓の問題はどうしようか、亡くなった後の自分の財産はどうなるのだろう・・・等々人生長ければその分悩みも増えていきます。そんな不安を少しでも解消するために法律家を活用することができるのです。

 例えば、認知症になった時の財産管理が不安であれば予め弁護士と任意後見契約を結び、自ら財産管理をすることができなくなった場合には任意後見人になってもらうということが考えられます。任意後見契約を締結するには公証役場で公正証書を作る必要がありますが、その際には公正証書遺言も一緒に作成して、任意後見人予定の弁護士を遺言執行者として指定しておく方も少なくありません。遺言執行者を予め定めておくことで、遺言内容をより確実に実現することができます。また、判断能力が低下する前から財産管理契約を締結し、大事な通帳や証書等を預かってもらい、常に相談できる関係を維持しておくこともあります。

さらに、死亡届、入院費等の清算、葬儀、納骨、遺留品の処理などの死後の事務まで委託する方もいます。自分の最後は自分の意思で決めておきたい、できる限り人の世話になりたくない、迷惑をかけたくないという気持ちを持つ方が増えているのだと思います。

 問題はそういうことを頼める人をどう探すかです。

おそらく「弁護士にお気軽にご相談ご依頼ください!」と言ってもそうたやすく以上のようなことを頼める人は多くいないはずです。自分の判断能力が低下した場合や亡くなった後のことに関してはもはや自分が監督するわけにいかないのですから、本当の意味で人として信頼できる人でなければなりません。1,2回の法律相談で信頼してもらえれば勿論よいですが、実際には簡単ではないでしょう。

そこで一度に全部を任せるのではなく、少しずつ色々なことを相談・依頼をし、臨機応変に修正変更していける関係を持つことから始めてみてはどうでしょうか。例えば、まだ元気であればとりあえず弁護士と法律顧問契約を結び、電話やメールで簡単な相談をできる弁護士を決めておく、定期的に面会をするなどして、ある程度信頼できると思えてきたところで遺言の作成を手伝ってもらう、さらに任意後見契約を結ぶ、今現在の財産管理をある程度委ねる、死後のことも委託するなどひとつひとつお願いごとを増やしていくというやり方です。勿論、信頼関係を維持できないと考えれば契約を解除すればよいのです。

また、遺言も最後の決断と思うとなかなか書けないものですが、少し気が変われば何度でも書き直せばよいのです。当然に日付の新しいものが有効になりますし、弁護士に形式面のチェックをしてもらって自筆遺言にしておけば、特段費用もかかりません。一般的には公正証書遺言がよいと言われていますが、自筆証書遺言も要件を充たせば立派に効果を発し得ます。

来るべき超高齢化社会に向けてぜひ上手に弁護士を利用して頂ければと思います。

(亀井真紀)


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2014年7月16日 (水)

弁護士「先生」

弁護士は,業務を遂行するなかで,相談者,依頼者との間で,メール,手紙を交わす機会が多いです。
そして,その冒頭,宛名書きには,「○○さん」,「○○先生」,「○○弁護士」,「○○様」,「○○弁護士様」,という風に実に多様な敬称が用いられています。この中で最も多く目にする敬称が「先生」です。ここで,弁護士が「先生」と呼ばれる理由について考えてみました。

辞書を引くと,「先生」という言葉には,以下のような意味があるようです。

①先に生まれた人
②学問,技術,芸能を教える人
③親しみやからかいの意を含めて呼ぶ称

 それぞれの意味について,検討を試みると,①については,年上の依頼者や弁護士が年下の弁護士のことを先生と呼ぶ場面は多いですよね。
②については,弁護士という職業は,本来的には,教師のように物事を教える立場の人ではなく,言葉(弁)で人の権利を護る仕事をする立場の人だと考えます。したがって,後輩弁護士が先輩弁護士のことを先生と呼ぶ点については,②の意味はあてはまりますが,お客さんである市民の方との関係ではあてはまりません。
③については,現在においても,(残念なことではありますが)市民の方の弁護士に対する「高い・恐い・遠い」というイメージがあることに照らすと,この意味もあてはまるとは言い難いです。

私は,メールや手紙で自らが「先生」と呼ばれることに少なからず疑問を持っていました。ある日,依頼者の方と雑談をする中で,「なぜ弁護士のことを先生と呼ぶのでしょうか?」と率直に聞いたことがあります。その方は,少し悩まれた末に,「やはり弁護士は知識が豊富で,一般の人が持っていないような能力があるからだと思います。」という回答をしてくれました(なお,弁護士に対するイメージについても聞いたところ,「(敷居が)高い」,「恐い」という回答でした。)。

実は,辞書には,もう一つの意味が記載されています。

④医師,弁護士など,指導的立場にある人に対する敬称

依頼者の方の回答は,概ね④の意味を指しているものと思われます。

弁護士が豊富な知識を要求されていることはその通りですが,このことは弁護士に限らず民間企業に勤めている社会人一般にもあてはまると考えられます。そうすると,豊富な知識を駆使して,指導や助言をする点に,弁護士が「先生」という敬称を用いられる所以となりそうです。

弁護士による指導や助言の内容は,それまでに蓄積された経験によって影響を受ける側面もあります。そして,その経験こそ,依頼者の抱えている事情や事件から学んで得た産物なのです。そうすると,依頼者の方も,ある意味では,先生と位置付けることができるのではないでしょうか。このように考えると,依頼者も弁護士と対等の立場であるべきで,上下関係の意味合いを含む④の意味にも疑問が生じます。

私は,「あなたは,なぜ先生と呼ばれるのでしょうか?」と問われたら,沈黙してしまうでしょう。そして,「○○さん,と呼ばれる方が嬉しいです。」と自分の気持ちを素直に伝えると思います。

(池田征弘)


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2014年7月 7日 (月)

市民裁判傍聴と開廷表の事前開示問題

私は、第二東京弁護士会の法教育委員会の委員として、中高校等の生徒に加えて、社会人の皆さんの裁判傍聴の引率を月に1~2回程度のペースで行っています(無料ですので、興味のある方は第二東京弁護士会のWEBサイトをご覧下さい。
http://niben.jp/manabu/service/saiban.html)。

近時、市民の皆さんの裁判傍聴は、以前と比べて随分普及してきたように思います。裁判は公開のものですから、誰でも自由に傍聴することができますし、お金もかかりません。裁判員裁判制度も始まって、市民にとって司法というものが少しずつ身近なものになってきていると言えるのかもしれません。

ただ、中高生たちは勿論のこと、多くの市民の皆さんは法律の素人です。訴訟手続のことなど知らないという人がほとんどでしょう。そして、法的知識がないと、せっかく裁判傍聴をしても、何が行われているか理解できず、雰囲気だけを味わって、「なんか難しい話をしていたな~」で終わってしまいかねません。そうなると、傍聴をすることで、かえって司法を自分とは別世界のものと感じてしまい、司法を身近に感じてもらうためには逆効果ということになってしまうでしょう。そこで、ボランティアの引率弁護士を募り、傍聴前後に解説と質疑応答などをしながら、市民裁判傍聴会の引率を行っているのです。

ところで、裁判傍聴というものは、日によってかなり当たり外れがあるということを皆さんはご存知でしょうか?もし、皆さんが傍聴に行ったとしても、その日に皆さんが見たい事件をやっているとは限りません。仮に見たい事件があったとしても、傍聴席が満席で、傍聴できないということもよくあります。運よく傍聴席に座れたとしても、急に被告人が犯罪事実を否認したりして、その日の手続きが5分くらいで終わってしまうなんてことも決して珍しくありません。

そこで、我々法教育委員としては、「従来は」、傍聴予定日の1週間前に開廷表を閲覧し、傍聴予定日にどんな事件の公判が行われているのかを書き写し、事前に参加希望者の希望を聞いた上で、傍聴を希望する事件に優先順位をつけて、移動しやすい法廷の事件を選び、当日不測の事態があってもすぐに別の事件を傍聴できるように計画を練って裁判傍聴引率当日に臨んでいました。

ところが、2014年4月26日から東京地方裁判所が開廷表開示の運用を突然変更してしまい、当日にならないと開廷表を閲覧することができなくなってしまいました。先日の裁判傍聴引率の際は、仕方がないので8時20分の開門と同時に東京地方裁判所に行って、開廷表を大慌てで書き写してその場で傍聴の計画を練ったのですが、偶々事件数が極端に少なかったため、参加者の一部しか傍聴をすることができませんでした。もし、事前に開廷状況がわかっていたなら、日程を変更するなど、柔軟な対応をすることができたでしょう。

私は、なぜ突然開廷表の事前開示を止めてしまったのか、その理由を知りたくて、東京地方裁判所の広報課に直接聞きに行きました。しかし、その回答は以下のような非常に残念なものでした。

問: 「今、刑事事件係で広報課に行けば事前に開廷表を見せてもらえると聞いたのですが」
答: 「4月27日以降のものはお見せできません」
問: 「どうして突然見られなくなったんですか?何かあったんですか?」
答: 「サービスとしてやってきた開廷表事前開示の運用を変えたということです」
問: 「いえ、そうではなくて、運用を変えた理由を教えて下さい」
答: 「理由は、裁判所が必要性がないと判断したからです。」

運用に関する裁量権を持たないであろう窓口の人と議論をしても仕方がないので、それ以上は聞きませんでした。法教育委員会に報告をして、弁護士会から東京地方裁判所に運用改善の申し入れをしようということになりました。

ただ、市民が必要としているサービスを取りやめる理由が裁判所の側に必要性がないことという裁判所の態度はいかがなものかと思います。
確かに、裁判傍聴自体を拒否したわけではないので、裁判公開の原則に違反しているとまでは言えないかもしれません。

しかし、裁判を市民に対して開かれたものにすることには、公正な裁判を確保するために広く市民にチェックをしてもらうというのみならず、司法を市民に身近なものにして、裁判所で行われていることは決して市民生活と別世界のものではなく、自分たちと関わりのあることなのだということを実感してもらうという側面があると考えます。司法を自分たちに身近なものと感じることができれば、司法が抱えている問題が、法律家だけにまかせておけばいいものではなく、国民全体で改善していくべき問題であると認識することができるでしょう。
国民全体で改善していくことで、司法は市民にとってよりよいものとなっていくことができるんではないでしょうか。

そう考えれば、裁判所は、より一層市民による裁判傍聴を促進する運用をしていくことが望ましいといえます。今回の運用変更は、市民に開かれた裁判所とは真逆の方向に行ってしまいました。東京地方裁判所が考え方を改めてくれることを切望致します。

(髙木良平)


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2014年7月 3日 (木)

お年寄りと弁護士の距離に関する話

今年度から、第二東京弁護士会の消費者と高齢者の合同委員会の部会長になりました。現在手掛けているのは、お年寄りの消費者被害の予防と救済のためのネットワーク作りです。消費者被害に遭いやすいのはお年寄りなのですが、意外なことに、消費者委員会は高齢者委員会とつながりがないという弁護士会が多く、高齢者関係は門外漢と自覚している消費者委員も非常に多いのです。

かくして、お年寄りの消費者被害の予防と救済のため、日弁連の意見書を基にネットワークづくりを各地で進めることになったのですが、お年寄りを対象とした相談会を開いても、なかなか被害を減らすことはできません。それは、一定のお年寄りにとっては、弁護士よりも詐欺師の方が敷居が低く、相談しやすく、親しみやすいからです。

弁護士がどこそこの建物で相談会を開いているらしい、でも私には法律の相談なんて別にないし、弁護士に聞いてもらうことなんかないわ、だって普通に生活しているだけだもの。でも、そういえばこないだ家に来てくれた○○さん、私のことを故郷の母と過ごしているようだって喜んで、とっても親身に私の愚痴を聞いてくれたわねえ。○○さんの言うことなら信じられるわ。

この「愚痴」にはかなりの割合で法律相談が含まれているのですが、お年寄りはそれを専門家に相談するほどのことだとは思いません。弁護士に相談しなければならないことと言うのは、なんだかよく分からないけれどももっと大きな、日常生活とは関係ないようなことという思いがあります。弁護士はは、こちらから出向かなければ日常では会うこともない希少生物と思われているようです。

「○○さん」が地域の民生委員さんなど、弁護士とお年寄りの橋渡しをしてくれる人であればよいのですが、これが詐欺師であれば、消費者被害の一丁上がりです。しかも、民生委員さんでさえ、お年寄りの抱える問題をどこに持って行けばいいのか分からないと思っている人が多いのです。民生委員さんが、おばあちゃん、それは弁護士に相談しなければどうしようもないことよ、と言ってもおばあちゃんは自分では動かない、思い余って民生委員さん自身で弁護士のところに行ったら、本人でなければ相談は受けられないと言われたとか、相談はできるけれど有料になりますと言われ、自腹を切ることは無理と諦めたとか、そんな話がよくあります。

これからの弁護士は、少なくとも詐欺師に負けないレベルまでお年寄りの近くに自分で足を運ぶ必要があります。それと同時に、橋渡し的な人(上記の例だと民生委員)が気軽に足を運べる相談の場を設ける必要があります。

現在、第二東京弁護士会では、高齢者向けの法律相談会以外にも、お年寄りとおしゃべりを行う座談会(法律相談も可)や、福祉従事者向けの無料相談を行っています。他にも、各地で出張相談や資力を問わない無料相談、電話相談が存在します。弁護士をうまく使うようにしてください。

(石丸文佳)

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2014年7月 1日 (火)

パワハラ・職場内いじめと自殺

 5月30日、厚生労働省が「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」というプレスリリースを公表しました。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10401000-Daijinkanbouchihouka-Chihouka/0000047216.pdf

この資料によると、民事上の個別労働紛争相談の内容は2年連続で「いじめ・嫌がらせ」が首位になっています。資料の助言・指導例を見ると、「いじめ・嫌がらせ」の中にはパワーハラスメントも含まれているようです。
「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は平成14年度には6627件でしかありませんでしたが、その後一貫して増加し続け、平成25年度には5万9197件もの相談が寄せられています。この傾向を見る限り、「いじめ・嫌がらせ」を巡る紛争は今後とも増えて行くものと推測されます。

 いじめやパワーハラスメントの問題には行政も対策に乗り出しています。昨年9月27日には厚生労働省がパワーハラスメントの対策ハンドブックを作成しています(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000024281.html)。

 ハンドブックでは、パワーハラスメントとして6つの類型を例示しています。①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、⑤過小な要求(職務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)などです。こうした行為は従来から刑事罰や不法行為に基づく損害賠償請求の対象とされてきましたが、厚生労働省が不適切な行為類型を明確にしたことは今後の行政指導や裁判実務における指針の一つとして被害者の救済に資するものとして評価できます。

 パワーハラスメントを巡っては、裁判所でも画期的な裁判例が出されるようになりつつあります。今年の1月15日に名古屋地方裁判所で言い渡された判決もその一つです(名古屋地判平26・1・15判時2216-109)。この判例はパワーハラスメントと自殺との因果関係を認め、企業に対し合計4600万円余りにも及ぶ賠償金を遺族らに支払うよう命じた事案です。一般にパワーハラスメントと自殺との因果関係が認められることは極めて珍しく、法曹実務家の注目を集めた事案です。

 この事例では、①ミスをした時に頭を叩く、②注意する時に「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ。」「ばかやろう。」などと汚い言葉で罵る、③ミスをして会社に損害を与えた時に弁償するように求め、できないのであれば家族に弁償してもらうと言い放つ、④「会社を辞めたければ7000万円払え。払わないと辞めさせない。」などと言うなどの酷いパワーハラスメントが上司から加えられていました。また、⑤自殺一週間前には全治12日間を要するほどの暴行を加えられ、⑥自殺の3日前には「私…は会社に今までたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をお掛けしたことを深く反省し、一族で誠意をもって返さいします。二ヶ月以内に返さいします。」「額は一千万~一億」などと記載された退職届まで書かされていました。

 これはパワーハラスメントが問題になる事例の中でも深刻なケースであると思いますが、ハラスメントに関する相談を受けていると、残念ながら本件と並ぶような扱いが見られる事例は決して珍しくありません。通常は自殺に至る前に勤務先を離れることになりますが、最悪の結果になった場合に残された遺族にとって本件のような裁判例が出されることは大きな意義があるのではないかと思います。

 パワーハラスメントは深刻化すれば従業員にとっても企業にとっても不幸な結果を招くことになります。従業員の方は時として命まで脅かされることになりますし、企業は社会的信用の失墜や人材採用の困難化など存続を揺るがす事態に陥りかねません。事後的な被害者の救済だけではなく、深刻な結果を未然に防ぐためにも、法律家はこの問題に積極的な役割を果たして行かなければなりません。

 企業としては、苦情・相談への対応や、研修の実施、パワーハラスメントを防止するための体制整備などで法律家を活用する余地があるだろうと思います。従業員の方としては、心身に不調をきたす前に職場に改善を申入れたり、円滑に退職したりするため、法律家を代理人に選任する意味があろうかと思います。

 職場のパワーハラスメントやいじめ等について問題をお抱えの方は、ぜひご相談ください。

(師子角允彬)


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