出会い系サイトによる詐欺被害-サクラを使っていることの立証
悪徳商法の一種にサクラサイト商法という言葉があります。
サクラサイトとは「サイト業者に雇われた“サクラ”が異性、芸能人、社長、弁護士、占い師などのキャラクターになりすまして、消費者のさまざまな気持ちを利用し、サイトに誘導し、メール交換等の有料サービスを利用させ、その度に支払いを続けさせるサイト」を言います(独立行政法人 国民生活センターHPより引用
http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/sakurasite.html)。
典型的なのは芸能人を騙るケースです。
手口としては、先ず「私は◯◯のマネージャーをやっています。彼女は悩みを抱えています。相談相手になってあげてくれませんか?」
などというメールが送られてきます。
受け取った人がこれに応じると、メール交換にお金がかかる仕組みの出会い系サイトに誘導されます。そこで自称芸能人とのメールのやりとりが始まります。数多くのメールのやりとりを通じて被害者はお金を毟り取られて行きます。
芸能人以外にも資産家が騙られるケースもあります。
この場合には「私は年商◯億円の会社を経営する女性です。利害関係なしで話が出来る男性と会う機会がありません。会って話をしてくれたり、性交渉の相手になってくれたりすれば、謝礼としてお金を払います。」などというメッセージになります。これに応じると有料系の出会い系サイトに誘導され、やはりメールでのやりとりを通じて被害者はお金を搾り取られることになります。このタイプでのお金の搾り取り方は、女性から「会いたい」というメールがしきりに送られてくる割に、いざ約束を取り付けると「急な予定が入った。」などと連絡が入り、結局会えないことから「出会えない系サイト詐欺」と揶揄されることもあります。
冷静に考えれば分かることですが、トップアイドルや有名な俳優がネットで適当に相談相手を選ぶことはありません。資産家の令嬢が話し相手や性交渉の相手をネットで見付け出そうとする可能性もないと断言して差し支えないと思います。メールは芸能人や資産家になりすました運営業者の職員、いわゆる“サクラ”が送受信しています。しかし、被害者は自分が芸能人や資産家とメールを交わしていると思って、せっせとメールを送信し、有料出会い系サイト運営業者からお金を搾り取られて行きます。
こうした詐欺がはびこる背景には、詐欺であることの立証が困難であることが挙げられていました。
詐欺だからお金を返して欲しいと請求する場合、詐欺であることは被害者の側に立証責任があります。言い換えれば、メールの相手方が運営業者の息のかかったサクラであることは被害者の側で立証しなければならないということです。しかし、メールの相手方がサクラであることを立証するのは、内部告発者でもいない限り殆ど不可能ではないかと解されていました。立証責任の壁はサクラサイトの被害者の救済を大きく阻んできました。
しかし、近時、サクラサイト被害の問題に対して画期的な裁判例が出ました。東京高裁平25・6・19です(判時2206-83)。
この件では「ファイナンス系会社を経営する社長」「財務管理事務局」「セレブな処女姫」「年商100億円の会社経営者」「精子バンク医療科学研究所の職員」「グローバル投資銀行頭取婦人」「IT企業取締役」「外科医」「SE」「銀行員」など様々な肩書きを持った女性が登場します。
被害者は有料のポイントを購入してこれらの女性達とメールを交わします。被害者は女性達と会う約束を取り付けるところまでは行くのですが、いざ会うとなると女性達は何かと理由を付けて約束を反故にします。こうした手口で被害者は2000万円以上ものお金を利用料金等の名目で騙し取られていました。
本件は詐欺を理由に被害者がサイトの運営業者に対して支払ったお金を返すよう請求した事件です。
裁判所は先ず「見も知らない控訴人(※ 被害者のことです)に対し、指示に従えば数百万円ないし数千万円という多額の金員を供与する、面談や実験対象となってくれれば相当の対価を支払う等」の話について「あり得ない不自然な話で、そのいずれについても全く実現していないのであり、本件相手方等がこれを実現する意思、能力を有していないことは明らかである」とメールの内容自体から申し向けられた事実が虚偽であることを認定しました。
その上で「専用回線を用いさせ…るなどして、通常の送受信以外に高額なポイントを消費させていること」「際限なく…手続の繰り返しを要求していること」「面会や金員の手渡しを約束してはキャンセルすることを繰り返し、極めて多数の送受信を余儀なくさせていること」などを指摘し、「これらの指示に合理性は見出しがたく、その目的は、いずれも控訴人にできるだけ多くのポイントを消費させ、被控訴人(※ サイト運営業者のことです)に対し、高額の金員を支払わせることにあることは明らかである。」とメールの相手方の意図を認定しました。
そして、「高額な利用料金を支払わせることによって利されるのは被控訴人をおいてほかにない」にもかかわらず、「本件各相手方が控訴人に利用料金を支払わせようとしている事実」から「本件各相手方に利用料金の負担義務が課せられてない事実」「本件各相手方が被控訴人の利益を意図して行動している事実」を推認し、「控訴人が本件各サイトにおいてメール交換した本件各相手方等は、一般の会員ではなく、被控訴人が組織的に使用している者(サクラ)であるとみるほかはない。」と問題のサイトがサクラサイトであることを認定しました。
結果、被害者から利用料名下に多額の金銭を支払わせた行為は詐欺に該当するとして、サイトの運営業者に利用料等の支払を命じました。
この裁判例が画期的なのは、メールの文面や態様、出会い系サイトの課金システムなど、被害者側にある(あるいは被害者側で入手可能な)資料をもとに経験則を活用しながら詐欺被害を立証する途を開いたことです。こうした立証方法を認めたことは、同種の被害に遭っている方の救済や、悪質業者の撲滅に大いに役立つと思われます。
課金のルールが書かれた利用規約や送受信したメールさえ残っていれば、騙し取られたお金は返してもらえる可能性があります。
お悩みの方は諦めずに、ぜひ当事務所にご相談ください。
(師子角允彬)
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