近時、中小の事業者が悪徳商法の被害に遭っている例が散見されるようになってきました。
悪徳商法から消費者を保護する取組みは古くから行われてきました。そのため、現在では消費者を保護する法律もずいぶん整備されてきています。クーリングオフを認めた特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます)や、過大な損害賠償額の予定を無効化することなどを規定する消費者契約法はその代表です。
消費者保護の歴史は法律の抜け穴を探る悪徳業者とのイタチごっこの連続でした。例えば、特定商取引法は政令で指定された商品やサービスにしか適用されない状況が長く続いていました。そのため、ある商品が政令で指定されて特定商取引法の規制を受けるようになると、今度は未指定の別の商品を同じような手法で売りつけるといったことが行われ、結局のところ悪徳業者が消費者を食い物にし続けるという構図そのものが変わることはありませんでした。
こうした問題意識から平成20年の改正で原則として全ての商品・役務が対象にされるようになりました(ただし、権利だけは今でも指定が維持されています。特定商取引法2条の各定義規定参照)。
このように、近時では悪徳業者から消費者を守る動きが活発になっています。もちろんそれ自体は好ましいことなのですが、消費者保護法制の拡充は悪徳業者の目を消費者から中小事業者に向けさせるという副作用を生じさせました。事業者には原則として特定商取引法や消費者契約法が適用されないからです。
例えば、契約の申込みをしたものが営業のために締結した契約には訪問販売に認められるクーリングオフなどの権利が認められません(特定商取引法26条)。
特定商取引法などの適用対象から除外されてきたのは、事業者には十分な交渉力・情報力があると考えられてきたからです。しかし、中小の事業者は必ずしも全方位的に情報力・交渉力を有しているわけではありません。得意とする領域での情報力・交渉力には優れたものがありますが、それ以外の領域では一般消費者とさしてかわらない程度の情報力・交渉力しか持っていないこともあります。ここに悪徳業者がつけ込む隙が生じます。
もちろん、行政もこうした悪徳業者の動きを野放しにしてはいません。例えば、特定商取引法の訪問販売の規制等の適用除外に関して、経済産業省は「契約の目的・内容が営業のためのものである場合に本法が適用されないという趣旨であって、契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではない。例えば、一見事業者名で契約を行っていても、購入商品や役務が、事業用というよりも主として個人用・家庭用に使用するためのものであった場合は、原則として本法は適用される。特に実質的に廃業していたり、事業実態がほとんどない零細事業者の場合には、本法が適用される可能性が高い。」との通達を出しています(消費者庁取引・物価対策課 経済産業省商務情報政策局消費経済政策課 編 『特定商取引に関する法律の解説 平成21年版』。609頁(商事法務,平22))。
また、「各種自動車の販売,修理及びそれに付随するサービス等を業とする会社」が「消火器の充填薬剤の購入」をしたという事案において「営業のためもしくは営業としての購入でないことが明らかであるから,法26条1項1号(適用除外の規定)は本件に適用されない」として事業者からなされたクーリングオフの主張を認めた判例に神戸地判平成15年3月4日金判1178号48頁)があります。本件でクーリングオフを主張した会社は資本金3500万円と一定の規模を有しており、裁判例上も会社・事業者であることから直ちに特定商取引法の保護を受けないという硬直的な解釈が採用されているわけではないことが窺われます。
この他にも、あまりに暴利を貪るような契約は、公序良俗に違反するとして、その効力を否定することも考えられます(民法90条)。
現在は中小企業の交渉力や情報力の欠如につけ込んで悪徳業者が利益を貪るという構図そのものを是正することが求められている段階だと思われます。悪徳業者に不当な契約を押しつけられてお困りの方は、事業者なのだから仕方ないと諦めることなくぜひ一度ご相談ください。救済の難しい領域ではあることは否めませんが、詳しくご事情を伺えば、お力になれることがあるかも知れません。
(師子角允彬)
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