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2013年8月 6日 (火)

精神病の発症と離婚

最近,精神病を理由とする離婚の相談が増えています。配偶者が精神病と診断されたが離婚できないか,とか,自分は精神病と診断されたが離婚されてしまうのだろうか,というような相談です。そこで今回は精神病と離婚についてご説明します。

民法770条1項4号は「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき」には離婚を請求することができると定めています。

 精神科を受診する患者数は増加する傾向にあります。厚生労働省の統計によると、医療機関を受診する患者数は平成8年には218万1000人であったところ、平成24年には320万1000人にまで増加しています。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

増加の背景には精神疾患に対する社会的な理解が深まるとともに受診することへの抵抗が少なくなっていることがあるのではないかと思われます。

 精神疾患を持つ患者の増加とともに、ご自身あるいは配偶者が精神病を持つ方からの離婚の相談も増えてきました。時には相談者の方が既に民法770条1項4号の規定を既にご存知の場合もあります。

 しかし、精神病を理由とした離婚はそれほど簡単には認められません。

 先ず、精神病は「強度」のものでなければなりません。具体的には「正常な婚姻共同生活の継続が期待できない程度の重い精神的障害」でなければなりません(島津一郎ほか編『新版注釈民法(22)』370頁〔阿部徹〕(有斐閣,平成20))。やさしく言い換えると、一緒に住んでお互いの幸福を思いやり助け合うことが不可能であるほど重症でなければならないということです。治療や服薬により精神的な協力関係を維持できるといえる限り、「強度の」精神病に該当するというのは難しいように思われます。

 また、ここでいう精神病は回復の見込のないものでなければなりません。具体的な期間の定めはありませんが、「病気の性質上、相当の期間、治療を継続してみないと回復不能との判断はできない」と解されています。その意味で病状の相当期間の継続は精神病離婚の要件となっています(島津一郎ほか編『新版注釈民法(22)』370頁〔阿部徹〕(有斐閣,平成20))。単に再発が続くというだけでは回復の見込のないことにはなりません。この点に関して「病状が軽く回復の見込がある以上は再発する可能性の多い精神病の場合でも離婚の事由にならない」との判断を示した裁判例もあります(大阪地判昭和27年9月13日 判タ25巻62頁)。

更に言えば、強度の精神病で回復の見込がないと判断される場合でも、「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上」でなければ離婚は認められません(最判昭和33年7月25日 民集12巻12号1823頁)。「具体的方途」の典型としては療養費の支払などが挙げられます(最判昭和45年11月24日 民集24巻12号1943頁)。「具体的方途」の見込がついていることは770条1項4号に規定されている要件ではありませんが、民法770条2項は「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる」と規定しているところ、「具体的方途」が講じられていない場合には、この規定を根拠に婚姻の請求が棄却されることになります。

 キリスト教式の結婚では、「病める時も健やかなる時も…妻/夫を想い、妻/夫のみに添うこと」を誓約するのが通例ですが、病気の発症という本人に責任のない理由のみによっては簡単に離婚することはできません。

 ただ、精神疾患には夫婦生活を維持する上で問題と思われる行動が伴うことが珍しくありません。疾患の種類によっては配偶者に暴力を振るったり暴言を浴びせたりすることもあります。自制が利かなくなって多額の借金を重ね、家族の生活が破綻してしまうケースもあります。

 こうした場合に「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が認められるとして離婚が認められることは珍しくありません。

 例えば、東京高判昭和57年8月31日判時1056号179頁は、妻が統合失調症である事案について「それが強度であり、かつ、回復の見込がないとは認められないから、民法七七〇条一項四号に該当することを理由とする控訴人の離婚請求は、理由がない」と判断する一方、夫婦関係が破綻した「主たる原因は以上認定したような被控訴人の粗暴で家庭的でない言動にあるものと認められ」るとして「民法七七〇条一項五号所定の婚姻を継続し難い重大な事由があることを理由とする控訴人の離婚請求は、正当として認容すべきである。」と判示しました。

 単に病気だというだけではなかなか離婚は認められませんが、病気だからといって配偶者に酷い仕打ちをすることが正当化されることはありません。問題行動を伴う場合に770条1項5号に該当することを理由に離婚が認められた例は数多くあります。

こうしてみると,単に精神病を発症したかどうかということよりも,そのことによって,婚姻を継続するのが困難なほどに日常生活が破綻しているかという実質の方がより重要と言えるようです。
この種問題でお悩みの方は、ご参考にして頂ければと思います。


(師子角允彬)

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