告発詐欺
「告発詐欺」という手口での詐欺が横行しているようです。
(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tochigi/news/20130713-OYT8T01103.htm)。
「あなたが以前購入した違法わいせつ物の製造に関与したグループが摘発されました。性犯罪女性被害者の拡大防止のため、購入者も告発します」「謝罪の気持ちがあるなら告発を取りやめることもできます。告発を取りやめたい方は期日までに必ず電話をください」などと書かれた通知を送りつけ、電話をかけてきた人に対して告発を取り消すという名目で金銭の支払いを要求するという手口のようです。通知には架空の弁護士や団体の名前が記載されているとのことです。架空請求の一種に位置付けられます。
身に覚えのない人にとっては一笑に付するような手紙ですが、多少なりとも心当たりのある人はとても不安な気持ちになるだろうと思います。
ただ、記事で指摘されているような文面の手紙であれば、単なる怪文書であることは明らかです。当然のことながら、お金を払う必要もありません。
違法なわいせつ物として先ず思い浮かぶのは無修正画像や児童ポルノですが、単に無修正画像や児童ポルノを買って所持していたからといって処罰されることはありません。
わいせつな図画等を有償で頒布する目的で所持していた場合には、わいせつ物頒布等の罪に問われる可能性があります(刑法175条)。提供目的や不特定多数の者に見せる目的で児童ポルノを所持していた人に、児童ポルノ提供等の罪に問われる可能性があることも否定できません(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条)。
しかし、上に掲げたような目的を持たず、単に購入した・所持しているというだけで法律上処罰されることはありません(ただし、地域によっては条例で児童ポルノ画像を購入することを禁止している場合があるので注意は必要です(京都府児童ポルノの規制等に関する条例第7条、第13条等参照)。また、児童ポルノについて単純所持を処罰する方向での法改正の動きがあることには留意しておかなければなりません。)。
したがって、単に無修正画像や児童ポルノを購入し持っているに留まる場合、告発される心配は殆どありません。記事の中で「捜査関係者」が、「販売目的でなく、趣味で持っているなら違法ではない」と話しているのはそういう意味だと思われます。
また、仮に無理矢理わいせつな画像の被写体にさせられた児童の代理人になった弁護士がいたとしても、一般に児童ポルノを買った人に対して慰謝料を請求しようという発想には立ちません。購入者の特定が困難であることもさることながら、購入者が撮影・販売した人の共同不法行為者と評価できるか否かという先例性に乏しい論証に挑まなければならないからです。この種の事件では売った人が財産を蓄えていることが多く、敢えて購入者に損害賠償を請求する必要に乏しいことも理由に挙げられるかも知れません。いずれにせよ、児童の代理人弁護士が購入者に訴訟を提起したという裁判例は私の知る限り存在しません。
弁護士の名前で送られてきた通知が偽造でないかを見分ける方法についても触れておきます。弁護士の名前で通知が送られてきた場合、先ずは当該弁護士の名前に注目してみてください。弁護士が仕事をするには弁護士会に登録しなければなりません。当該弁護士が登録されているかどうかは日弁連のホームページから簡単に検索できます
(http://www.nichibenren.or.jp/bar_search/)。
ここで弁護士登録が確認されなければ、架空名義の通知とみて問題ありません。
実在する弁護士の名前が無断で使われるケースもないわけではありませんが、その場合には上記ホームページから検索できる電話番号を手掛かりに当該弁護士に通知を発送したのかどうかを確認してみてください。そうすれば弁護士の名前で送られてきた通知が偽造されたものかどうかは簡単に判別することができます。
記事で指摘されているような通知を受け取った時の対処法は無視が基本です。どうしても不安な場合には弁護士へのご相談をお勧めします。弁護士には守秘義務があるのでご相談内容が公になることもありません。間違ってもお一人で悩んで指示されている番号に電話をかけてはいけません。
もっとも、このような時に心を乱されないためにも、平素から法律に触れそうな文書・画像等に関わらないよう気をつけておくのが一番であることは言うまでもありません。
(師子角允彬)
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