追い出し部屋
近時、「追い出し部屋」という言葉を良く見かけるようになりました。「リストラのターゲットを一堂に集め、…会社から“追い出す”ために設けられた部署」(http://diamond.jp/articles/-/36163)
であるとのことです。
記事によると、追い出し部屋に配属された社員は、求人情報を検索させられたり、モニターに映る画像に乱れがないかを延々と10時間もチェックさせられたりするようです。
本邦では解雇が厳しく制限されていることから(労働契約法16条)、上記のような強引な手法で人員を整理する発想に至るのだと思われます。
ただ、直観的にもお感じになると思いますが、社員にこうした待遇を強いるのは違法です。
先ず、退職勧奨を拒否する社員に対し、嫌がらせ目的で配転命令を出すことは許されていません。例えば、大阪地方裁判所判決平成12年8月28日労働判例793号13頁は、退職勧奨を拒否した技術開発担当の社員を印刷工場での単純肉体労働に服させようとして出された配転命令を、業務上の必要性のない嫌がらせとして無効と判断しました。配転命令は決して無制約に出せるわけではありません。
また、仕事を干すという扱いも基本的には違法です。社員に仕事をさせないことには業務上の必要性が認められないからです。こうした扱いは一般に著しい精神的苦痛を与えることから、使用者は多額の慰謝料の支払を命じられることがあります。例えば、私立高校の女性教諭が授業その他一切の校務分掌を取上げられた挙句、第三職員室と名付けられた物置部屋に一人隔離されるなどの処遇を受けた事案では、使用者に対し600万円の慰謝料の支払が命じられています(東京高等裁判所平成2年11月12日判決判例タイムズ849号206頁)。
従業員には「職場における自由な人間関係を形成する自由」があります(最高裁判所判決平成7年9月5日労働判例688号6頁)。また、知識、経験、能力と適性に相応しい処遇を受けることは法的な保護に値する利益とされています(東京地方裁判所判決平成7年12月4日労働判例685頁は「労働者がその職務、地位にふさわしい能力、適性を有するかどうか」を人事権行使に違法性が認められるか否かを判断するにあたっての考慮要素として位置付けています)。
仕事を干されるなど働くことへの誇りを傷つけられている方はぜひ一度相談にいらして下さい。このようなことは誰かが声を上げない限りなくなりません。
職場でのいじめをなくすことに寄与できれば嬉しく思います。
(師子角允彬)
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