行政書士さん,それはないでしょう
★5月16日追記:文中における,東京都行政書士会中野支部のHP引用箇所は,本記事原稿作成時点(5月15日19時30分頃)の内容を引用していますが,その後HPの表現に一部加除修正があったようです。そのため,現時点でのHPの表記と異なる部分があることをお断りしておきます。また,表現の修正に留まらずに削除された記載に対応する部分については,本記事でも取り消し線を付すこととしました。
東京都行政書士会中野支部のホームページを目にする機会がありました。そこにはこうありました。
http://nakano-lawyer.org/gyousai.html
「◆行政書士と弁護士 行政書士と弁護士は法律家として相反する業務を担当します。」ごく一部,重なる部分もあると認識していた私にとって「相反する業務を担当」とされているのはちょっとした驚きでした。そこで読み進むと,
「刑事事件においては、行政書士は告訴状を通じて被害者の味方をします。弁護士は、加害者すなわち被告の弁護、味方をします。」との記載です。
告訴状を通じて被害者の味方?弁護士は加害者の味方?被告?
行政書士が告訴状を作成することは禁じられてはいないでしょうが,それとて告訴事実と罪名が明らかな場合に限られるでしょう。犯罪によってはどの罪に該当するかの判断は容易ではないからです。それに告訴・告発は弁護士が普通に行う業務です。また,被害者参加制度で被害者の委託を受けて公判期日に出席することができる職能はむしろ弁護士に限られます(刑事訴訟法316条の34,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律5条など)。
確かに被疑者・被告人(刑事事件の場合は「被告」ではなく「被告人」と呼びます)を弁護する刑事弁護は弁護士が独占している業務ですが,だからといって被害者の味方と相対する立場であるかのように言うのは単に「不正確」では許されない誤りというべきでしょう。
民事事件についてはどう書かれているかというと,
「民事事件においては、行政書士は原則として紛争に関わることなく予防法務を専門とします。弁護士は、予防法務と言うより紛争処理業を中心とします。」
とのことです。
そもそも行政書士が報酬を得て法律相談を受けて良いのかという大きな問題がありますが,ここでは措きます。しかし弁護士が予防法務よりも紛争処理業を中心とする,というのはあまりにもいただけません。私たち弁護士の大半は多かれ少なかれ大小さまざまな企業の顧問をしていますが,その主な仕事はむしろ予防法務です。確かに訴訟提起などは弁護士(簡裁に限っては認定を得た司法書士も)が独占していますが,予防法務をしなかったり,行政書士にお任せしている意識はありません。
そしてこの項の最後はこのようにまとめられています。
「優秀な行政書士が増えることは弁護士が少数で良いことになるなど、行政書士と弁護士は相反する立場にあります。」
どうしてそうなるのか,よくわかりません。例えば,行政書士が立派な告訴状を書くようになると,被害者の味方が増えることになるから,加害者を弁護する弁護士は少なくて済むということになるのでしょうか。よくわからない対比ですが,誤解される人がいると困るので,とりあえず私が所属する第二東京弁護士会に報告して対応をお願いしました。
このホームページの作成にこそ,予防法務に長けた優秀な行政書士さんに関与して頂きたかったです。
(櫻井光政)
« 痴漢冤罪「この人です!」と騒がれたら | トップページ | 行政書士さん,それもないでしょう。 »
「弁護士コラム」カテゴリの記事
- スタッフ弁護士になる10の理由(その1)(2018.06.14)
- 弁護士に依頼するともっとモメる?(2018.05.01)
- 桜丘釣り同好会(2017.05.19)
- 憲法記念日に思うこと(2017.05.03)
- パワーハラスメントへの対応(海上自衛官の住宅火災の事件報道を受けて)(2016.02.17)
コメント