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2013年5月16日 (木)

行政書士さん,それもないでしょう。

東京都行政書士会中野支部のホームページの記載について,昨日不適切である旨を指摘したところ,今朝には内容が変わっていました。迅速な対応は良いのですが,内容的にはまだ疑問に思うところがあります。以下,ホームページからの引用とそれに対する私の意見を記します。

注:本記事は,平成25年5月16日17:30分時点でのホームページの記載事項を前提として書かれています。対象ホームページの記載が変更される場合がありますので,ご留意ください。
http://nakano-lawyer.org/gyousai.html
http://megalodon.jp/2013-0516-1731-35/nakano-lawyer.org/gyousai.html

「行政書士と弁護士は法律家として相反する立場の業務を主として担当する場合があります。」

 のっけから揚げ足取りのようで恐縮ですが,「主として・・・場合がある」というのは普通は使わない用語例でしょう。慎重を期そうとしたのかもしれませんが,わかりづらい表現ですね。

「 刑事事件においては、行政書士は告訴状の作成を通じて被害者の味方をします。弁護士は、加害者すなわち被告人の弁護、味方をします。」

これが一面的で誤解を招く表現であることは昨日述べました。

「弁護士も犯罪被害者の支援のための業務を行っているとの反論もあるようですが、それはあくまでも法律家の社会貢献としての業務で、弁護士の本来的主たる業務ではありません。刑事事件における弁護士の責務は被告人(加害者)の人権擁護が中心です。」

刑事事件における弁護士の責務のうち大きな部分を占めるのが被疑者・被告人の権利擁護であることに異論はありません。歴史的な経緯からもそうですし,刑訴法も弁護人は弁護士の中から選任しなければならない旨定めています。けれども,だからと言って「犯罪被害者支援の業務が本来的主たる業務ではない」ということにはなりません。現に被害者参加人の委託を受けて公判期日に出席できるのが弁護士に限られていることは昨日も述べたとおりです(刑訴法316条の34)。つまり,被害者参加制度の主たる担い手として想定されている職能は弁護士だということです。このように見ると,同ホームページの次の記載がおかしいことも一目瞭然だと思います。

「別の観点から、刑事事件における弁護士の報酬は被害者の支援から多くを得ているのでしょうか。否、殆どは加害者の弁護をして得ていると考えます。また、そうすることがこの世に弁護士が存在する意義でもあると考えます。国家権力から加害者の人権を守る事こそ弁護士の刑事における一番の使命だからです。」

刑事事件に関与して弁護士が得ている報酬を全体としてみた場合,刑事弁護報酬が被害者参加支援の報酬をはるかに上回っていることはご指摘の通りです。ただ,主たる収入源が何かということと,制度の主たる担い手が誰であるべきかは異なる性質の問題だと思います。

なお,国家権力から「加害者」を守るのが弁護士の使命,ではありません。この点の重要性は法律を学んだ者には自明と思いますが,弁護士が守るのは「加害者」の権利ではなく「被疑者・被告人」の権利です。加害者でない者が被疑者として逮捕勾留され,被告人として起訴されたときこそが最も弁護人の活躍が期待される場面です。それを知ってか知らずかあえて「加害者」と強調されることに強い違和感を覚えます。

記載は桶川ストーカー事件に触れ,次のように述べます。

「もし、告訴状が受理されていたら被害者は殺害されなかったのではと考えるのです。告訴状の作成は明治時代から現在まで敷居の低い行政書士が取り扱ってきております。そのことがもっと広く社会に知れ渡っていたらと思うのです。職域争いではなく、桶川事件を二度と起こさない為にも、これからも警察署に対する告訴状の作成を行政書士としての責任として普及し受託したいと考えます。」

告訴状が受理されていたら…との指摘はある意味その通りだと思います。告訴で難しいのは告訴状の作成よりも告訴状を受理してもらうことだからです。私たち弁護士が告訴の代理人として活動する際に一番苦労するのはいかにして警察に受理してもらうかという点です。そもそも告訴は口頭でもできます(刑訴法241条1項)。桶川事件の告訴がどのようになされたのか,私は知りませんが,行政書士が告訴状を作成していたら警察に受理されたはずであるかのような表現は事実を誤認させる恐れがあると思います。

民事事件についてのまとめの部分は次のような記載です。

「最近は、弁護士が会社設立や許認可等を取り扱っている場合があります。勿論合法ですが、弁護士は許認可業務に携わることなく人権擁護に徹して欲しいと願うものです。憲法の条文に名称が記載されている士業は弁護士のみですから使命を果たして欲しいと願います。勿論、行政書士は争訟性のある法律事務に関与することなく官公署に対する手続きや予防法務に徹するべきです。 何でもできることは何も専門がないことを意味します。それぞれの士族は、専門の棲み分けをして業務を担当すべきと考えます。」

「最近」がどのくらいの時期を指しているのかわかりませんが,私は開業当初の30年以上前から会社設立の手続きなどをしています。むしろ行政書士が会社設立などに関与するようになったのが比較的最近のことなのではないでしょうか。
弁護士が人権擁護の活動をすべきは当然ですが,典型的な人権擁護活動のみを行うべきとの考え方には賛成できません。良心的な弁護士はむしろ関与する業務全般にわたって人権の擁護者たる視点を忘れずにいようとします。そうして,関わる領域に広く人権擁護の観点を入れて行くことも弁護士の職責だと考えています。

(櫻井光政)

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