電車で痴漢をしていないにもかかわらず、「この人です!」と騒がれたらどうすれば良いのでしょうか?
ある弁護士は「その場から走って逃げる。」のが合理的であり、逃げられない場合には「騒動になったその場で、感情をむき出しにして、徹底的に怒った方が良い」と主張しています。「この人に関わったら面倒なことが起きる。」と思わせて「第三者による証言」が出てくるのを避けるためとのことです。また、「警察署へ行ってから容疑を否認し続けると、1週間から10日間程度拘束される」ことを理由に否認することに慎重な姿勢を示し、弁護士を通じて示談することを進めています
(http://president.jp/articles/-/9332?page=2)。
私も現在の捜査・公判の在り方に全く問題がないとは考えていません。ただ、上記の主張はやや極端で、個人的にはあまりお勧めできません。別の考え方をする弁護士の存在を発信することにも一定の意義があると思い、本稿を執筆することにしました。
上記の主張の問題点ですが、失敗した時のリスクをあまり考慮していないように思われます。
確かに、その場から走って逃げられればそれに越したことはありません。しかし、逃げられずに捕まってしまったらどうするのでしょうか。その時になって冤罪だと主張しても疑いの目で見られることは必至です。また、逃げようとして周囲の人と接触し、怪我でもさせたら大変です。傷害罪でも捜査されることになります。駅には人や障害物がつきもので、逃走しようとしたとしても中々上手く行くものではありません。
感情を剥き出しにして怒ることにも意味があるとは思えません。そのようなことをしなくても、冤罪なら「この人、お尻を触っていました。」という第三者が現れることは原理的にありません。美人局のようなケースでは有り得るかもしれませんが、その場合は怒ろうが怒るまいが自称目撃者が出てくるでしょうからあまり意味がありません。冤罪が疑われるケースでは通勤中など日常生活圏での電車の利用中に問題が生じていることが多く見られますが、同じ電車を利用している同僚等から「この人に関わったら面倒なことが起きる。」と思われることの方が余程危惧されます。
警察が来たら否認せず速やかに示談に着手することを勧めている点も問題だと思います。そもそも否認しなければ身体拘束から解放してくれるという保証はどこにもありません。被害者を怒鳴りつけた事実があれば仮に自白に転じたとしても、「後に供述を翻した上で被害者を威迫する可能性がある」として罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると判断される可能性は十分にあります。自白があることから安心して身体拘束を継続した上、起訴することもあります。また、被害者の面前で喚き散らしたりすれば、被害感情が厳しくなるので示談交渉も一般に難航します。
では、どうすれば良いのでしょうか。
身体拘束を防ぐため、その場を立ち去るというのが適切であろうことは変わりません。ただ、その際には走って逃げるというリスクのある方法ではなく、身分証を提示したり、名刺を渡したりして連絡先を明示した上で歩いて立ち去るのが良いだろうと思います。連絡先を明示することは勾留の要件である「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」を減じる方向に作用します。こうして身体拘束を回避した後、社会生活を営みながら不起訴・無罪を主張して行くのです。
その場から立ち去れない場合には冤罪であることを冷静に説明することです。常識的に振る舞っていれば「その人じゃないですよ。」と証言してくれる人が出てくるかも知れません(可能性は少ないかも知れませんが、怒鳴り散らすよりは合理的な選択であると思います)。警察が来たら手指や掌の付着物に被害者の衣類の繊維が混じっているか鑑定してもらえるよう自分から申し出るのも良いだろうと思います。近時の捜査機関は痴漢冤罪には比較的慎重な姿勢をとっており、同種前科でもない限り被疑者の言い分に全く耳を傾けることなく機械的に勾留するということはなくなっているように思われます。
冷静に弁解しても信じてもらえず、身体拘束を受けてしまった場合には、それ以上話すことを止め(黙秘権の行使)、すぐに弁護士を呼んでもらうことです。これは不起訴処分や無罪判決を得るために必要な取調対応を打ち合わせるためです。身体拘束から解放するための手続をとるためです。
そして、家族や職場には自分を信じて待っていて欲しいと連絡をしましょう。弁護士から説明したことで解雇するかどうかの決定を裁判が済むまで待ってくれると回答してくれた会社もあります。
自分に嘘を吐いて生きるのは辛いことです。嘘を吐いて罪を犯したと言えば、通常の生活に戻ったとしても一生後悔し続けるだろうと思います。
私は法廷で無罪を主張することをお勧めします。確かに簡単なことではありません。しかし、当事務所では痴漢で既に2件の無罪判決を得ていますし、否認のまま不起訴処分を得た事例も数多くあります。冤罪を晴らすことは可能です。絶望したり悲観したりする必要はありません。ご依頼を頂ければ、最後まで寄り添い、ともに戦い続けることをお約束します。
(師子角允彬)
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