生活保護受給中の破産者のおかしな話
先日、破産開始決定に先立つ即日面接に行ってきました。
破産者は、生活保護受給者です。
ところが、裁判所は破産開始・同時廃止決定を出すのにずいぶん時間をかけていました。
理由は、「偏頗弁済の疑い」です。
破産者は、年金が受給できることを知らなかったのですが、このことが判明して年金を請求した結果、最近になって過去数年分の年金約20万円がまとめて支給されました。
しかし、破産者は生活保護を受けていたので、収入があればすぐに生活保護課に返納しなければなりません。これを怠ると、生活保護を停止される恐れがあります。年金の支給元も生活保護の支給元も同じ役所ですから、収入があったことはすぐに知れ、破産者は受け取った年金をそのまま保護課に返納しました。この返納行為が「偏頗弁済」と言われたのです。
裁判例を見る限り,生活保護費の過剰受給分は、税金等とは異なり、一般の破産債権と同じ扱いをされているようです(東京地裁平成22年10月27日判決ほか)。よって、生活保護費の過剰受給分は、財団を構成するものとして債権者全てに平等に弁済されなければならないわけです。
ところが、本件でこれをそのまま当てはめると、破産者は受け取った年金を保護課に返納することなく取得し、しかもこの20万円は自由財産として破産者が自由にできるため、他の債権者に弁済することもなく、好きに使っていいということになってしまいます。
誠実に収入を保護課に申請して返納した者は、偏頗弁済という免責不許可事由があるとされ、管財事件になりかねない一方で、自らの収入で生活できずに国等からお金を得ていながら過剰に取得した分を好きに費消した者は、問題なく同時廃止による免責を得られるというのは、一般人の感性からは受け入れがたいものを感じます。
結果的に、本件は同時廃止になりましたが、法律とはときにおかしな話を生むものです。
(石丸文佳)
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