無罪弁護報告
古宮です。1月10日に痴漢事件で無罪判決を獲得することができました。
本件は電車内の痴漢事件です。犯人として逮捕されたAさんは、私が初めて警察に接見に行った際、自分はやっていない、混雑した電車内に立っていたら目の前の女性(被害者)から突然手を掴まれて「痴漢ですよね。」と言われ、手を引かれて駅の警備員に引き渡されたと訴え、犯人であることを否認していました。
電車内の痴漢事件という事件の性質上、もともと目撃証言や物的証拠など客観的な証拠が乏しいと思われました。それだけに無理やり自白させられる恐れがあります。そこで私はAさんに対し、黙秘権の行使を指示しました。
ただ、そうは言っても多くの被疑者は、結局黙秘を貫くことができず取調べに応じてしまいます。それほど,警察,検察の「取調べ技術=自白獲得の技術」は高いのです。そのため私は、先輩である師子角弁護士と共同で、翌日から毎日接見に赴き、黙秘を続けるよう励ましました。その甲斐あって、Aさんは満期まで黙秘を貫くことができました。
Aさんは起訴されました。しかし、予想どおり本件は証拠が乏しく、Aさんと犯人とを結びつける証拠は、被害者の供述だけでした。更に、被害者供述には重要な部分に矛盾がありました。検察から公判前に開示された駅の防犯ビデオカメラの画像とは明らかに異なる供述をしていたのです。被害者は公判でもこの供述を維持しました。
証拠調べ手続きが終了し弁護人からの意見を述べる際、私は、Aさんと犯人とを結びつける唯一の証拠である被害者供述には矛盾があり信用できないからAさんは無罪であると弁論しました。
「判決、主文、被告人は、無罪」。Aさんの目は潤んでいました。
裁判官は、被害者供述が信用できないこと等を理由に,Aさんを犯人であると認定することはできないと判断したのです。
電車内の痴漢は勘違いが起こりやすい類型の事件であるため,証拠を慎重に吟味することが重要です。改めてこの事件を振り返ると,検察官は,客観的な証拠を精査しないまま被害者の供述のみに依拠してずさんな起訴したものと言わざるを得ません。公益の代表者たる検察官としては,えん罪を防ぐ観点からも証拠の吟味を十分にしてほしいと思います。
(古宮靖子)
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