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2012年12月21日 (金)

辞めたいのに辞めさせてくれない会社2

さて,一昨日に引き続いて,「辞めたいのに会社が辞めさせてくれない」という相談の事例を取り上げます。今日は,「会社に退職を申し出たところ,辞めるな,辞めたら損害賠償請求する」といわれた,というケースを取り上げます。

○会社からの損害賠償請求について(退職自体を理由とする損害賠償)
一昨日ブログに書いたとおり,期限の定めのない雇用契約においては,2週間以上の期間をおいて退職の予告をしておけば適法に退職できるわけですから,退職したこと自体に対する損害賠償請求はできないこととなります。代わりの人員を探すための費用を請求するとか,お前の退職で仕事に穴が空くからその分の弁償をしろとかいった請求は,まず認められる可能性はないと考えておいてよいでしょう。

(そもそも,法律では,こうした会社側の代替要員確保や引継ぎの都合のために,2週間前の予告を必要としており,かつそれで十分だと考えているともいえます。)

○会社からの損害賠償請求について(在職中のミスを理由とする損害賠償)
一方,会社としては,上記のような請求が認められないのは百も承知なので,それ以外の理由を元に損害賠償請求をしてくることが多いでしょう。典型的なのは,在職中の仕事のミスによって会社が損害を受けたので,その賠償をせよ,というものです。これはどうでしょうか。

会社は,従業員を使用して収益を上げている以上,従業員のミスによる損害の発生リスクも負担するべきであるとするのが法律や裁判所の基本的な考え方です。従業員の働きによる利益は会社が総取りするが,損害が発生したら従業員に押しつけるというような都合のいい話は認めない,ということです。

業務の過程で通常発生することが予想されるようなミスについてはそもそも従業員に対する損害賠償請求はできません。また,重過失や故意による行為の場合の損害賠償請求は可能でしょうが,その場合であっても公平の観点から,従業員が全額を支払う必要がない場合も少なくありません。

一般論として述べるのは難しいものの,会社から損害賠償請求をされたとしても,労働者側が賠償をしなければいけないケースは限られており,仮に賠償をしなければいけないとしても,全額賠償をしなければいけないケースはさらに限られていると考えておけばよいでしょう。

○判例の紹介
もともと会社による退職拒否があり,労働者が退職したところ,会社から在職中のミスや不適当な業務処理などを理由に損害賠償請求を受けた事件,これに対して労働者側から未払時間外手当等を請求した事件として,
平成21年(ワ)第2300号 損害賠償請求事件,
同年(ワ)第3204号 時間外手当等反訴請求事件,
平成22年(ワ)第1444号 損害賠償等請求事件
があります(全て同一当事者間の事件です)。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111129185940.pdf

結論として,裁判所は会社側からの損害賠償請求を排斥し,労働者側の時間外手当等の請求を認めています。

会社に「辞めるな,辞めたら損害賠償請求をする」などといわれたとしても,むやみに恐れて退職を断念する必要はありません。弁護士に相談して,自分のケースについての見通しを立ててから,行動すればよいのではないでしょうか。


(新谷泰真)

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